日本アニメの負け戦が始まった
―― ビジネスの部分に話を戻すと、そういったプロデューサーたちがいまネットを使って様々な取り組みにチャレンジしています。一例としては、サンライズの『TIGER&BUNNY』が非常にユニークで、USTREAM配信が最速のテレビ放映(MBS)とまったく同じ時間帯に始まるほか、東京ではTBSではなくMXで放送されるなど、かなりウィンドウを揺さぶっています。
数土 「注目作ですね。日経の全面広告もインパクトありましたが、アメリカでの販社の枠組みがこれまでとは異なっていることも気になっています。とはいえ、先ほど申し上げたように、海外で展開する際にもウィンドウはテレビを中心に組み立てないと、難易度が非常に高くなることに変わりありませんが。
そもそも話として、『いま日本のアニメは海外で人気あるのか?』というところに立ち返って考えてみましょう。おそらく数年前から日本アニメは世界各国で負け始めている、と私は見ています。
その表われをビデオグラムの販売状況、原因を無許諾配信に求めることもできるでしょう。しかし、無許諾配信だけではないはずです。わたしがこの問題にばかり言及しないようにしているのは、(世論が)原因を無許諾配信のみに求めてしまうのを避けるためです。
日本で暮らしていると世界での『負け戦』がなかなか実感できません。その理由は、日本のアニメ作品がつまらなくなっているわけではないからです。本当に素晴らしい作品で溢れていますよね。日本にいると『こんなに面白いのになぜ世界で売れないのか?』という考えに縛られて、世界の動きに目が向かなくなります」
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日本アニメは旧作しか放送されない
―― 作品(商品)の質は下がってないのに、海外で負けてしまう理由は?
数土 「環境が変わったからです。1つは作品数の急増。1990年代までは世界的にアニメーション作品の絶対数が少なかった。特に子供向けの作品は供給が追いつかない状態。そのなかで、商業アニメーションを作っていたのは主に日本とアメリカだったこともあり、世界中に浸透していったわけです。
ところが2000年代に入り、韓国や東南アジアからも作品が供給されるようになりました。ヨーロッパもいま生産力を非常に高めています。世界中でものすごい勢いでアニメーションが作られるようになった結果、供給過剰になっているのが現在の状態です。
こうなると、質の高さだけではなかなか勝負できない。何よりも供給過剰な状態によって放送局側の立場が強くなっています。当然放映権料が下がります。そして、アメリカの場合はほどんどのテレビ局がメジャースタジオの系列に入っていますから、自分たちの作品を優遇するようになるのは自然です。
ヨーロッパでもその傾向は強まっているし、中国・韓国は国策として国産アニメを優遇している。結果として日本のアニメがそもそも放送されないため、認知度が落ちてしまっていることが根本にあります」
数土 「いま存在感を保っているのは、1970~1990年代に人気があったブランド作品です。供給過剰な状態ですから、局にとっては差別化が難しいし、リスクも減らしたい。となると、過去の人気作品を流すのが無難な選択になるわけです。
結果、NARUTOがディズニーXDチャンネルで流れたりする。ドラゴンボール、ポケモン、遊戯王もありましたね。実は、2010年の昼間からゴールデンタイムにかけてのキッズ向け時間帯においては、日本のテレビアニメの放映は増えています。
ただ、注意すべきは、それらが旧作だということです」
―― 日本から見れば一旦ビジネスは収束していて大きな儲けをもたらすものではない、ということですね。
数土 「そして次のブランドが作り出せていない、というのが直近の課題ですね。東映アニメーションは、いまセーラームーンの再放送を通じて、世界的に展開しようと準備を進めています。プリキュアはまだ海外市場に食い込むことができてません。でも、セーラームーンであればすでにブランド力がある、というわけです」
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