鳥居一豊の「最新AVプロダクツ一刀両断」 第20回
柔軟なシステム構成に対応する「PR-SC5508」と「PA-MC5500」
ハイエンドAVの世界を体験! オンキヨーのセパレートAVアンプ
2010年10月27日 12時00分更新
本題であるAVセパレートアンプに戻ろう。AVコントロールアンプのPR-SC5508には、映像/デジタル信号/ネットワーク信号処理部と、アナログ信号処理部がある。回路基板自体は、筐体内の1/3程度のスペースに収まっており、映像系/デジタル信号処理系ごとに分離され、複数の基板で構成されている。
残り2/3のスペースにあるのが電源部だ。ここでも3つのトランスを使用し、映像系/デジタル系/アナログ系の電源を独立している。この専用に開発された電源部の存在がセパレート化の大きなメリットだ。一体型ではどうしても電源を独立させるにも限界がある。また、十分なスペースを確保できることから、電源供給能力の高いトランスを贅沢に使うことができる。
一方、9chパワーアンプのPA-MC5500は、9ch分のアナログパワーアンプだけを備える。筐体内の信号はkHzクラスの信号だけになり、高周波ノイズの影響が最小限に抑えられているのは説明した通りだが、大型の電源部はパワーアンプ専用となる。さらに、電源スイッチや前面のインジケーター用の電源も独立し、わずかなノイズの影響も抑えようという設計になっている。
パワーアンプ回路は、オンキヨーの上級AVアンプではおなじみの、3段インバーテッドダーリントン回路を採用したもの。多くのAVアンプの場合、一枚の基板に7または9ch分のパワーアンプ回路をまとめているが、本機の場合は、増幅回路もチャンネルごとに別の基板となっている。これは、9つの増幅回路を持った基板を設計するよりも、独立した回路を9つ作る方が生産性が優れているため。さらに言えば、各チャンネルがまったく同等の基板構成となっているため、チャンネル間のバラツキも抑えられるメリットがある。
セパレートアンプのもうひとつのメリット
AVアンプをセパレート化するメリットは、扱う信号が違う回路を筐体ごと独立させることで、ノイズの影響を徹底的に排除できること。電源部の独立はそれに加えて、各回路に十分な能力の電源を配することで、特にオーディオ回路の音質向上が図れるというメリットもある。つまり、高音質化がほぼすべてと言っていいのだが、実はもうひとつのメリットがある。
それは、比較的ライフサイクルの短いAVコントロールアンプと、長く使えるパワーアンプを独立させることで、後々の買い替えがしやすくなるというものだ。AVアンプは、映画館で新しいサラウンド方式が導入されるごとに、新機能として追加されるという進化を果たしてきたし、本機を含む最新モデルでは、HDMI Ver.1.4の新機能である「ARC」(HDMIケーブルだけで、映像/音声信号のほかに、テレビ側のデジタル音声信号もやりとりできる機能)、および3D映像への対応が加わっている。
そんな新機能が加わるたびにAVアンプを買い替えるというのはコスト的に負担が大きい。本機は2台でおよそ45万円と、ベースとなった一体型モデルの35万円と比べれば高価だ。しかし、次に買い替えるときは、約20万円のパワーアンプはそのまま使える。価格が据え置きとなるかはわからないが、約25万円のAVコントロールアンプだけを買い替えるだけで済む。
そのためもあり、PR-SC5508は型番の末尾が世代を示す「8」となっている(TX-NA5008と同世代となる)が、パワーアンプのPA-MC5500は末尾に世代を示す番号がない。
特にデジタル時代は新しい技術や機能の追加がとても早く、数年で時代遅れになってしまいがち。こうした目まぐるしい時代の変化にも追従しやすいメリットがある。
逆に、AVコントロールアンプに比べれば、あまり抜本的な進化が少ないパワーアンプは、その分長く愛用できるという特徴を考えると、より高性能なパワーアンプを使ったり、高級オーディオ用のステレオパワーアンプやモノラルパワーアンプを必要なチャンネル分だけ組み合わせて使えるという選択肢も出てくる。
例えば、ベテランのオーディオマニアならば、ステレオ再生用に高級なパワーアンプを使っているかもしれない。AVセパレートアンプならば、そのパワーアンプを流用して、サラウンドシステムにグレードアップすることも可能というわけだ。高級パワーアンプでは必須とも言えるバランス入出力の完備は、そうした用途も想定して搭載している。
同社に話を聞いたところ。本機はペアで購入されるだけでなく、どちらかといえば、AVコントロールアンプのPR-SC5508の方がより多く売れると予想しているという。すでに、十分な実力を備えたパワーアンプが揃った環境であれば、必要なのはAVコントロールアンプだけでいいからだ。
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