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山谷剛史の「中国IT小話」 第81回

日本はまだマシ?中国のIT系就職戦線に異常アリ!!

2010年10月05日 12時00分更新

文● 山谷剛史

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高い授業料と低い学生のモチベーション

北大青鳥の授業風景

北大青鳥の授業風景

 ITを学ぶ学校は大学に限らない。近年ではコンピューター専門学校が林立している。少々古い調査結果だが、調査会社IDCによれば2007年の時点で、コンピューター専門学校卒業生は大学の情報系学科に並ぶ100万人弱を輩出したという。

 中国全土で展開するIT専門学校市場シェアトップの「北大青鳥」によれば、同社の売上は「市場全体の39.8%にあたる21億元(約273億円)」とのことなので、逆算すれば中国IT専門学校市場の規模は53億(約689億円)と推測できる。実践的な学習と「就職率100%」を掲げる学校が多いことから、大学入試で満足のいかなかった高校生らが進路として専門学校を選ぶケースもよくあるのだとか。

北京青鳥の広告

北京青鳥の広告

 沿岸部に学校と学生は多く、百度が発表したレポート「2010年中国IT学校市場におけるネットユーザーの行為分析」によれば、ハイテク都市の北京で学習者全体の9.5%がITの勉強をしているという。さらに欧米へのアウトソーシングの拠点の上海(4.8%)、ハードウェア系のソフト開発が活発な広州(4.1%)、深セン(3.5%)が続く。学習者はこぞって「北京や上海などの専門学校に行くべき。地方都市の北京青鳥の分校は名を冠しただけで内容はない」とアドバイスする。

 専門学校に対する印象を語っている卒業生は多いが、一方で専門学校の裏側を取材した記事も散見される。問題とする点は守銭奴とも揶揄できるほど、授業料が高い点だ。学費は3ヵ月で1万元(約13万円)以上が当たり前であり、これは都市部の平均月収の半年分近くに相当する。

 3ヵ月でIT企業に推薦できる人材ができるわけもなく、多額の授業料を支払い長い期間勉強し、最終的に専門学校に就職斡旋してもらう。試用期間は「就職率100%」を実現すべく、提携企業にお金を渡し試用期間だけ学生を雇い、その後解雇するのが常套手段だ。

IT教育と学習者の進路について問題提起する新聞「電脳報」

IT教育と学習者の進路について問題提起する新聞「電脳報」

 中国のIT系メディア「電脳報」の就職フェア取材記事によれば「大学生にしても専門学校生にしても、学生はクリエイティブさ、応用力、粘り強さがなく、まったく人材として使えない人ばかり」と就職担当者は愚痴っている。

 海賊版はもとより、メディアもコピーの嵐である環境に育ち(詳しくはものを考えない、中国のインターネット世代「憤青」を参照)、お金さえ払えば学校での成績の底上げも、卒論代行業者への依頼も可能とあれば、そうなってしまう学生が多いのも然るべきだろう。結局は世界どの国問わず本人の努力次第なのだが、転職主義や誇大広告といった習慣からIT系企業への就職はかなり困難なようだ。

 最後に蛇足。ソフトウェア大国のインドでは、多くの若者が貧困や生まれもったカースト階級など自らの環境を破るため、バンガロールやデリーなどのIT都市で学び、エリートエンジニアを目指すことが知られている。

 翻って中国の貧しい人のサクセスストーリーを考えるに、努力以外に都市住民でないと用意できないカネ(莫大な授業料+遠方での生活費)が必要でありハードルが高い。環境面を見ても、例えば農村部のネットカフェでは動画を見たりゲームで遊ぶ人ばかりで、端末PCにプログラミングのソフトがインストールされているネットカフェは筆者自身見たことがなく、小さな町の本屋にはプログラミングに関する本もない(日本でもネットカフェの端末にプログラミングソフトが入っている例は見かけないが、それは自宅PCが普及しているためだ)。

 つまりインドと中国がアウトソーシングで勝負しているといっても、それぞれの国の人がITエンジニアになるためのモチベーションはインドのほうがずっと高いのではないかと思うのだ。


山谷剛史(やまやたけし)

著者近影

著者近影

フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。当サイト内で、ブログ「中国リアルIT事情」も絶賛更新中。最新著作は「新しい中国人~ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)

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