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四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第13回

プロがネット音楽で目指すのは「商店街の魚屋さん」

2010年01月09日 12時00分更新

文● 四本淑三

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「まだボーカロイドがいる」間に、何が出来るかが重要

―― 今はKarenTだけですか?

津久井 一回、ボーマス※3に出したくらいですね。

※3 ボーマス : The VOC@LOiD M@STER。ボーカロイド専門のイベント。同人イベント専門サイトを運営する「ケットコム」が手がける(詳細はこちら)。年に数回開催されている。次回は2月7日

The VOC@LOiD M@STERイベント会場の様子

―― なんで一回だけ?

津久井 これ頼りにしたら、お金のために自分は音楽を作りそうな気がして。CD-Rで自分で作ったものなんですが、数百枚が一瞬で売れちゃうんです。それって今の自然の摂理みたいなものとは違うと思うんですよ。

―― でも、それはさっきの魚屋理論に近いですよ。

津久井 確かに魚屋さんとお客さんの関係に近いんですけど、何かが違ったんです。その何かをまだ掴みかねているんですが……。もちろん同人イベントは好きだし、また出てみたいと思っているんですが。

 なんて言うんだろう……自分がそういう欲に傾くのが怖いんですよ。頒布してお金になるのは抵抗ないんですが、それが積み重なると、収入の一端を担うだけの方法になってしまう。あくまで趣味で、それを自分のビジネスにはしたくない。ビジネスとしてやるんだったら、他で考えたいんです。

 KarenTはその辺まで踏まえたプロシューマーとは何かを理解してやっているように見えるんです、少なくとも現時点では。そうじゃなかったら、すぐ止められる状態だし。

―― では逆に同人イベントに比べて何がメリットなんですか?

津久井 同人イベントは基本的に限られた人、ニコニコ動画のボカロタグで新作をチェックするような人じゃないと、なかなか来てもらえない。ものすごく好きな人たちの、それも一部なわけです。iTunesだと、自分のブログでもどこからでもリンクできる。ボーマスにも来られない人にも聴いてもらえるじゃないですか。

―― つまり間口の広さというわけですね。

津久井 それと、その生産消費者というあり方を考えてくれる企業があるのがありがたいんです。同人イベントは「個人」なので。個人がビジネスモデルをそれぞれ確立していくというのは、潰しあいになって効率が悪い。だからKarenTというレーベルを、今のところは支持しています。

―― 今までのダイレクトマーケティングが最善という認識に対して、それは面白い視点だと思います。

津久井 自分にも明確な答えはないんですけど。ボーカロイドがこの先どうなるかは分からないけど、ボーカロイドがいるこの何年かの間に、何をするかが重要だと思うんです。その場で消費するんじゃダメで、ここで何かをためておかないと、次には行けないと思うんです。

―― 次のフェーズに行くためには何が必要ですか?

津久井 見えない敵と戦っている人が多すぎると思ってます。小さな差があっても、向いている方向は一緒ですよね。それをまとめていければ、狭いところで収まっていたものが、もっと広いところで見てもらえるかも知れない。

 それをビジネスにしてもらってもいいんです。対価がお金でもらえてもいいんですよ。次の音楽を作るためには最低限のお金は動くべきだし、システムとしてそれをやらないと、社会的におかしいことになっちゃう。でも確固たる、守るべき部分の自覚を強く持っていないと、企業にのまれてしまう。

―― 守らなければならない部分って何ですか?

津久井 ビジネスにならない部分……自分の音楽を聴いてくれている人へのリスペクトと言うか。ただの「お金になる存在」という認識ではだめなんですよ。たとえお金にならなくても、自分の音楽を聴いてくれる人がいるのは、すごくありがたいことなんです。



著者紹介――四本淑三

 1963年生まれ。高校時代にロッキング・オンで音楽ライターとしてデビューするも、音楽業界に疑問を感じてすぐ引退。現在はインターネット時代ならではの音楽シーンのあり方に興味を持ち、ガジェット音楽やボーカロイドシーンをフォローするフリーライター。

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