豊かな横方向への広がりと
奥行きのある空間再現が気持ちいいサウンド
バーチャルサラウンド技術はヤマハ独自の「AIR SURROUND XTREME」を採用。仮想的に7.1chのサウンドを再現するものだ。サラウンドモードは「ムービー/ミュージック/テレビプログラム/ゲーム」の4つ。このほか、CDやiPodなどのステレオ音声をステレオのまま楽しめる「ステレオモード」もある。
バーチャルサラウンドというと、普段から6.1ch構成のサラウンドシステムで映画やテレビ放送を見ている筆者には、なんとなく自分の周りで音がしているような漠然としたサラウンド感しか感じられないものが多い。
ところが本機の場合、スピーカーの後方の奥行きが深まり、かなり立体的な空間が感じられた。さすがに後方や真後ろの音は明瞭な定位を感じにくいが、森の中を歩くシーンでの木々のざわめきや鳥や獣の鳴き声が周囲に響く雰囲気は良好で、その場にいるような臨場感が味わえた。
横方向の広がりはかなり広く、50V型テレビとの組み合わせでも、映像に比べて音のスケールが小さく感じることはない。100型を超えるプロジェクターのスクリーンは大げさだとしても、60V型クラスの画面サイズでも空間の広がり感で不足を感じることはないだろう。この映像と音の一致感というのは重要で、例えば車が駆け抜けていくシーンなどで、画面では左端へ車が消えていき、画面の外からその排気音の余韻が聞こえるような場合、スケール感が小さいと排気音が画面の中から聞こえてしまい、車が通りすぎた後の雰囲気が台無しになってしまう。
しかも、サラウンド空間に奥行きもあるので、車が手前から前方に走り去る場合の映像の一致感もきちんと再現できる。画面から自分に向けて車(あるいは発射された弾丸)が飛んでくるような場合、自分の手前までは音が飛んでくる(本来ならば、さらに自分を貫いて後方へ抜けていくのだが、これはスピーカーを5本使ったシステムでないと再現できにくい)。
この奥行き感のあるサラウンドは、音楽ソフトやミュージカル映画などと抜群に相性がいい。もともとアクション映画などと違って、やたらと音を前後左右に移動させるようなことはないし、それでいて、歌い手やダンサーとバックバンドの前後関係、観客の声援や拍手などの音は周囲に広がるなど、独特の空間が再現されるが、映像と音の一致感の良さもあり、かなり会場の雰囲気をしっかりと伝えてくれる。
音質的には、メリハリの聴いた元気のいいサウンドで、低音もわりとたっぷりと出る。セリフや目立った音は輪郭も立ち、クリアに再現されるのだが、弱音の細かなニュアンスは不足気味。これは、ドルビーTrueHDなどのHDオーディオ非対応のため、BDソフトなどを再生すると、下位互換のドルビーデジタル音声で再生されてしまうのも理由だが、CDなどを聴いても、もう少し微小音や細かな音の変化も再現できると良いと感じた。
映画だけでなく、音楽番組やスポーツ、ゲームをサラウンドで楽しみたい人に最適
本機は手軽にサラウンドを楽しめるエントリークラスのモデルだが、その実力はなかなかのもの。しかも、置き場所についての問題を積極的に解決しようとした意欲作だ。映画をサラウンドで楽しみたい人におすすめなのは確かだが、それ以上に「映画はあまり見ないから」とサラウンド不要を唱える人にこそ試してみて欲しいモデルだ。
もしも野球が好きなら、最近のサラウンド音声による中継では、一塁側と三塁側の応援がきちんと右と左に分かれて再現されることに驚くはず。音楽番組もサラウンド音声だと、臨場感がまるで違う。ゲーム好きなら、最近のムービーを多用したRPGが映画同様にサラウンド音声で制作されていたり、FPS(一人称視点)やTPS(三人称視点)のシューティングゲームでは画面外にいる敵の存在をサラウンドによる音で知らせてくれていることに気付くだろう。
きっと「音が変わるだけでこんなに面白さが変わるものか!」と感激するに違いない。ぜひとも一度、サラウンドの音の楽しみを味わってみてほしい。