より手軽なSANを提供するiSCSI
これまで説明した通り、Fibre ChannelはSANに適した仕様を備えるが、HBAやFCスイッチといった機器はまだまだ高価で、中小規模のシステムには不向きだ。その中で考案されたのがiSCSI(Internet SCSI)という規格で、文字通りIPネットワーク上にSCSIプロトコルを乗せている。そのため、サーバ側にはLANのポートがあれば特別なハードウェアは不要で、図3のような構成で小規模なSANを手軽に構築することが可能だ。
iSCSIはTCP/IPをベースにしているため、Fibre Channelに比べて処理のオーバーヘッドが大きい。また、iSCSIであればLANとSANを同一の物理ネットワークで構成することも可能だが、帯域も共有することになるためI/O性能を保証するのが難しくなる。 ただし、10GbEの普及によりこれらの制約が解消される可能性もあり、今後も注目すべき技術である。
次世代のSAN技術FCoE
薄型サーバやブレードサーバの出現によりサーバの密度が高まり、特にデータセンターではネットワークの配線コストや管理の煩雑さが問題視され始めている。iSCSIではLANとSANを同一のネットワーク上で構築することは可能であるが、遅延や帯域といったストレージ性能を保証する点で、企業の重要業務への採用は難しいのが現実である。Fibre Channelの実績を継承しつつ、LANとの統合を実現する新しい規格として最近開発されたのがFCoE(Fibre Channel over Ethernet)だ。
iSCSIとは違いTCIP/IPを使用せずにEthernet上に直接Fibre Channelプロトコルを乗せる方式で(図4)、10GbEで実装されるさまざまな品質保証(QoS)機能と組み合わせ、安定したI/O性能を提供可能だ。
FCoEは2009年6月にANSIによって標準規格として承認されたばかりで、2008年後半より一部のベンダーから機器の販売が開始されている。2010年頃からFCoEインターフェイスを標準で備えたストレージの販売が開始されるといわれており、データセンターを中心とした普及が見込まれる。
以上、主要なSANの規格について概要を紹介した。ストレージネットワーク技術の進歩は、特に企業ユーザーに対して利便性・コスト削減の観点で多大な寄与をしてきた。文中にも触れた通り、SANはおもに企業のデータセンター内で構築されるため、多くの読者には馴染みの薄い技術かもしれない。しかし、iSCSIやFCoEといったLAN技術との融合により、IT技術者はますます広範囲の知識を求められることになる。今回の連載により、少しでもSANおよびストレージネットワークに興味を持っていただければ幸いである。
次回はより身近なNASの技術について解説し、ストレージネットワークの結びとする。
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