このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

ゼロからはじめるストレージ入門 第11回

適材適所でストレージを効率化

コスト削減を実現するストレージ階層化とは?

2009年11月13日 09時00分更新

文● 竹内博史/EMCジャパン株式会社 グローバル・サービス統括本部 テクノロジー・ソリューションズ本部 技術部 マネジャー

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 昨年の金融危機から続く景気低迷の中、多くの企業がITに対するコストの削減をはかっている。その一方でITは、現在の企業活動に欠かせない技術でもあり、より「適材適所」の投資が必要とされている。今回取りあげる「ストレージ階層化」は、そういった「コスト削減」や「適材適所」の考え方をストレージに適用するコンセプトであり、多くの企業ユーザーのニーズにマッチする重要な技術だ。

サービスレベルとは?

 ストレージ階層化について解説する前に、ITの世界でよく使われる「サービスレベル」について触れておく。サービスレベルとは、簡単にいうとサービスの「品質」だ。サービスの提供者と受益者間で、サービスの品質について約束や契約(SLA:Service Level Agreement)を結ぶケースもある。ITでのサービスレベルの定義は、一般に以下のような観点で検討される。

可用性
許容されるシステム停止時間(計画停止・計画外停止を含む)の要件。連載第3回で紹介した稼働率(99.999%)などで表わされることもある
データ保護レベル
バックアップやリカバリに関する要件。保持すべきバックアップデータの世代(リカバリポイント)数や保管場所(ローカル/リモート)、リカバリ時間など
性能
スループットやレスポンス時間に関する要件

 高いサービスレベルを提供するには、システムの冗長構成やバックアップを充実させ、性能を維持するためにサーバ(CPU)やストレージ(コントローラ、ドライブ)の多くのリソースをアサインすることになる。したがって、高いサービスレベルの提供はコスト増につながるのが一般的だ。

 ここで、あるストレージ統合の事例を題材にサービスレベルについて考えてみる。

 A社はストレージ統合による保守費用、運用管理のコスト削減の提案をベンダーより受け、財務会計システム、人事管理システム、本社部門ファイルサーバの3つを1つのストレージに統合した。ストレージは、高いサービスレベルが求められる財務会計システムを基準に選定し、高機能ハイエンドストレージを採用。HDDは高性能な高回転タイプを選択し、冗長レベルの高いRAID1構成とした。

 導入当初、A社はコスト削減効果を享受できた。しかし予想以上に部門ファイルサーバの容量増加のペースが早く、以前よりも増設費用が高額であると購買部門より指摘を受けた。そもそも、部門ファイルサーバはそれほど高い性能を必要とせず、週末にはメインテナンス時間も確保できる。このため、「ハイエンドストレージ」+「高回転型HDD」+「RAID-1」は明らかにオーバースペックであった(図1)。

図1 ストレージ統合事例と問題点

 この事例のように、過剰なサービスレベルはコスト増につながるため、ストレージの選定や構成を検討する際には、サービスレベルに見合った製品を採用する必要がある。

ストレージ階層化による解決

 冒頭で紹介したとおり、ストレージ階層化は「適材適所」をベースとしたコスト削減のアプローチだ。具体的には、ストレージ階層化とは、業務のサービスレベルに応じたストレージモデルや構成を選択し、ストレージインフラのコストと提供するサービスレベルのバランスを最適化する手法である。ストレージ階層化を進めるにあたって、大きく以下の2つのステップを必要とする。

  1. 業務システムやデータに対するサービスレベルの定義
  2. サービスレベルとストレージ構成とのマッピング

 1.のサービスレベルの定義の作業は、実はかなり労力を要するものである。業務システムやデータの特性、企業活動(売上や利益)への影響などを加味しながら、ある基準を設けてサービスレベルを定義することになる。多くの場合は、企業内の複数の組織をまたいで検討するため、外部のコンサルティングサービスなどを利用するケースも多い。

 一方、2.のストレージ構成とのマッピングを行なう場合には、2つの考え方がある。

 1つは、ストレージモデルをサービスレベルに応じて使い分けるやり方だ。連載第4回で、規模に応じた企業向けストレージの分類について紹介したが、ここではサービスレベルという観点での分類について紹介する。図2は、サービスレベルからみた企業向けストレージの分類例である。性能や拡張性も要素の1つであるが、サービスレベル維持という観点では、コンポーネント障害時の性能縮退がもっとも大きな要素となる。

図2 サービスレベルから見た企業向けストレージ分類例

 もう1つのストレージ構成とのマッピング手法として、利用するドライブの種類やサイズ、RAIDレベルをサービスレベルに応じて使い分けるやり方がある。たとえば、高い性能をつねに維持するサービスレベルの業務に対してはSSD(フラッシュドライブ)を、性能を求めない業務に対しては大容量SATAⅡドライブをといった使い分けだ。

 もちろん、先のストレージモデルの使い分けと併用するケースが多く、図3にストレージ階層化構成の例を示す。このように、適切なサービスレベルのストレージモデルおよび構成を選択することにより、ストレージインフラ全体のコストを削減することが可能だ。

図3 サービスレベルに応じたストレージ階層構成適用例

(次ページ、「データの価値や要求I/O性能の時間変化」に続く)


 

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

この連載の記事