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ゼロからはじめるストレージ入門 最終回

クラウド時代に対応するストレージの最新技術

2009年12月18日 09時00分更新

文● 吉田尚壮/EMCジャパン株式会社 グローバル・サービス統括本部 テクノロジー・ソリューションズ本部 技術部 テクノロジー・コンサルタント

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本連載最後のトピックでは、ストレージの最新技術を取り上げる。重複除外やストレージ階層化などストレージ技術の進歩には目を見張るものがあるが、その中でも今後のストレージ業界で大きな影響を与えると考えられる2つの新しいテクノロジー「フラッシュドライブ」と「スケールアウト型アーキテクチャ」について紹介する。

「コンシューマ向けSSD」と「企業向けEFD」の違い

 デジタルカメラなどでよく利用されているメモリカードやUSBメモリは、電源を停止してもデータが失われないフラッシュメモリ(不揮発性半導体メモリ)搭載型の記憶メディアである。一方、SSD(Solid State Drive)は、HDDと同じようにサーバやストレージで利用できるフラッシュメモリ搭載型の記憶装置だ。

 2004年以降、メーカー各社がSSDの発売を開始し、おもにパソコンの用途(コンシューマ市場)で普及している。また、現在はサーバやストレージ用途など企業向けSSDの普及も始まっているのだが、EMCでは企業向けSSDをEFD(Enterprise Flash Drive)と呼び、コンシューマ向けSSDと区別している。では、その違いについて解説しよう。

 表1に示した通り、コンシューマ向けSSDは「Multi Level Cell(MLC)」というデータの書き換え方式を採用している。この方式は、安価に大容量の製品が製造できる反面、書き込み速度が遅く記憶素子あたりの書き換え可能回数も少ない。なお、書き換え可能回数とは記憶素子に対するデータ記録回数の上限である。この回数が増えると記憶素子の劣化によりデータの保持ができなくなるため、SSDの寿命ともいえる値である。SSD製品のカタログスペックには、各メーカーが保証する書き換え回数が示されていることが多い。

表1 SSDとEFDの比較

 一方、EFDは「Single Level Cell(SLC)」を採用しており、記憶容量単価は高いが書き込みが高速で、記憶素子あたりの書き換え可能回数も多い。さらに、ウェアレベリング(Wear Levelling)により信頼性の向上を図っている。ウェアレベリングとは、書き換え回数に限界がある記憶素子の寿命を延ばすために、データの記録を特定の記憶素子に集中しないよう分散させる技術である

 このように、EFDは企業のシステム用途に耐えうる信頼性と性能を保持しており、USBメモリやノートPCで利用されているSSDとは大きく異なる。もう少しく理解を深めるために、EFDと企業向け高速HDD(Fibre Channelドライブなど)の違いについて解説しよう。

EFDとHDDの違い

 HDDについては連載第2回で解説したが、そのHDDよりもEFDを利用するメリットについて整理しよう。まず、EFDの優位点を挙げてみる。

  • 軽量、省電力、低発熱、低騒音
  • 対衝撃性、対環境性
  • 高い性能(特にランダムRead I/Oに優れている)

 昨今、環境問題への注目が集まる中、IT業界でもデータセンターにおける発熱や電力消費量が問題となっているが、EFDはモーターなどの駆動装置を搭載していないため、電力などの無駄なエネルギー消費を抑えられる。また、信頼性に関してはウェアレベリングおよびモーターという機械部品の故障リスク低減により、MTBF(Mean Time Between Failure)ベースでSSDに対して3倍程度高いといわれている。

 一方、現時点においてEFDの容量単価はHDDよりも高価であり、このEFDの価格が普及のスピードを弱める一因となっている。しかし、容量単価ではなくストレージとして考えると、条件によってはEFDを利用したほうがコストメリットの出る状況にあるのだ。それでは、コストを削減できるケースを具体的に考えてみよう。

EFDでコスト削減

 まずは、EFDとHDDの性能差異について押さえておこう。EFDは、HDDと比べてRead I/Oの性能が高い。これは、HDDの読み出しに必要だった磁気ディスク上のデータを探す時間(シークタイム)とディスクの回転待ちによる遅延が発生しないことが大きく影響している。

 このドライブあたりの処理能力(IOPS)は、HDDで180 IOPS程度だが、EFDでは3000 IOPSである(小さなI/OブロックサイズでランダムRead I/Oの場合)。この値は、I/Oの特性によって大きく変化するが、EFDはHDDと比較して最大30倍程度の性能を発揮するといわれている。

 それでは、EFDでコスト削減を実現する例を紹介しよう。

 ある企業のストレージが、4万8000 IOPSの処理能力(性能)を必要としていると仮定しよう。この時、サーバのI/OはほとんどがReadアクセスでブロックサイズも小さいことを前提とする。この場合、ストレージが性能を満たすためには267ドライブ以上のHDDが必要となる。つまり、HDDでは最低267ドライブでI/Oを分散しなければ必要な性能を発揮できない。

 IOPSから必要なドライブ数を算出すると、以下のようになる。

HDDの場合
48,000÷180=267ドライブ
EFDの場合
48,000÷3,000=16ドライブ

図1  EFDによるコスト削減

 このように、性能要件が高くドライブ数を必要とする環境においては、EFDでもコストを削減できる場合がある。また、消費電力や発熱などを低減し設置面積も縮小するというメリットは、データセンターなど大規模な環境で大きなコスト削減効果を生む。今後、EFDは価格低下が進むにつれて急速に普及し、特にI/O性能を必要とする領域はHDDからEFDに置き換わると考えられる。

 すでにストレージを利用している場合も、一度EFDの効果について再検討してみてはいかがであろうか。EMCでは、スループットなどからI/Oを分析し適切なストレージの選定やコスト試算の支援を行なっている。このようなベンダーの活動を有効に利用することをお薦めしたい。

(次ページ、「クラウドコンピューティングとデータセンターの統合」に続く)


 

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