薄型化の問題点は「無線の効率」!?
幅や奥行きが大きくなってしまった理由は、少々意外なものだった。「アンテナ」だ。
磯田「今はとにかく内蔵しなくてはいけないものの数が多い。無線LAN、WAN、UWBなどがあり、さらにカメラとマイク。実際のところ、上半身(ディスプレー側)は満杯です。それらをいかに搭載するかで、最終的なフットプリントが決まったようなものです」
現在、ノートパソコンの設計をする上において、通信機能の設計はきわめて大きな比率を占める。中でも特に設計が難しいのが「WANだ」と磯田氏は言う。
磯田「WANの要求というのは、とてつもなく厳しい。電話会社さんの要求する規格に通らないと商品化できません」
「通常の携帯電話機に比べると、パソコンは自分自身がノイズの固まりです。WANの受信感度を良くするということは、自分自身のノイズを抑えなくてはならない。受信感度が悪くなる原因は、簡単に言えば『自家中毒』なんです」
「アンテナと液晶パネルの間に隙間がなくくっついた状態では、ノイズが乗ってしまいます。いろいろシールドしてはいるのですが、カバーするのが難しい。ですので、どうにかして液晶パネルからアンテナまでの距離を稼ごうとします。それをどのくらいのサイズで収めるか、というのは、過去の製品からの知識も必要です」
現在、日本でパソコンを選ぶ時に、WAN内蔵モデルを選ぶ人はまだ少数派だろう。磯田氏も、「世界的に見ても、WAN内蔵モデルはまだ数が出ない」と認める。それでも現在のノート開発で、WANなしのモデルを設計することは「ありえない」という。
磯田「WANなしのモデル、というのはもう考えづらいです。製品として存在はしても、それは『WANありのモデルからWANを取ったもの』でしかありません。現在、私たちの作っている製品はすべて、WAN内蔵を前提で開発しています。ビジネス案件を考えてもWANは必須です。ただし、契約の複雑さなどもあり、いまひとつ伸びていないのが悩みではあります」
こういった苦労が実を結んでいるのが、T400sでのWiMAXの受信感度である。実際、レノボ・大和研究所では、その感度差が「実地」で確かめられているという。
磯田「実はこのビルは、WiMAXの“サービスエリア外”なんですけれど、電波が微妙に届いていて、つながらないわけではない。だからその分だけ、よりアンテナの性能の善し悪しがわかりやすくなっています。例えば外付けのUSBデバイスでは通信できない場合でも、T400sの内蔵ならば可能です」
液晶パネルはフレームレスの特注品
薄型化する上で大きく貢献したのが、ディスプレー部の改良だ。T400sでは、全モデルでLEDバックライトが採用され、天板の素材には、カーボンを主体とした複合素材が使われている。
磯田「前機種でも、一部モデルでLEDバックライトを導入させていただいていましたが、多くはCCFL(冷陰極管)でした。T400sは全モデルがLEDバックライトで、CCFLは検討しなかったと思います」
「確かにコストは高くなるのですが、その分、インバーターカード(インバーターを載せる小基板)が不要で、コストは圧縮できます。差し引きゼロではありませんが、メリットを考えると十分に納得のいく範囲です」
「実はT400sの液晶パネルは、「フレームレス」と称している、独特なものなんです。通常のパネルでは強度を保つために、脇に金属のフレームがあるんです。ですが、このパネルにはありません。その分軽くなります。天板側にうまく挟み込んで、宙に浮かせることで強度を保つ仕組みになっています」
「天板側の部分は、カーボンを使った複合材です。F1カーなどにも使われているものですが、薄くて軽くて丈夫、という特性があります。同じ強度のものをプラスチックで作ると、普通は1.8mm、がんばっても1.6mmくらい必要になるのですが、T400sの場合には1.2mmに収まっています。また、T400では中にマグネシウムのロールケージが入っていましたが、T400sにはありません」
「カーボンは安い素材ではない。しかし薄さ・軽さを極めようとするとカーボンの素材になる。ただしカーボンは伝導体ですから、電波を遮ってしまいますので、アンテナのパフォーマンスに影響があります。そのため、アンテナが入る部分だけはグラスファイバーになっています。外から見ると、もちろんつぎはぎには見えません。私も外から見ただけでは、どこからがカーボンでどこまでがグラスファイバーなのか、わかりませんよ」
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