このページの本文へ

前へ 1 2 3 次へ

インフラ&ネット技術の今と未来 第1回

普及の課題はコストにあり?

群雄割拠が続くサーバ仮想化の将来

2009年08月11日 09時00分更新

文● 宮原徹

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

課題はコストと技術者

 このように、サーバ仮想化は選択肢も増え、導入も進みつつある。しかし、さらなる普及のためには大きな課題がある。それは、コストと人材だ。

 まず重要なのが、導入コストだ。そもそも仮想化ソフトウェアや管理システムは、導入コストが高いという課題があった。しかしこの課題は、後発のXenやHyper-Vが無償化や低価格化し、それに対抗するようにヴイエムウェアがVMware ServerやVMware ESXiを無償提供するなどして、解消しつつある。しかし、仮想化ソフトウェアが無償化、低価格化する一方で、管理システムやP2Vツールなどは有償のままというケースが多い。ライブマイグレーションやクラスタ構成などを管理するには管理システムが必要となるため、より規模が大きかったり、要求レベルの高いシステムの構築には、それなりにコストがかかる。

 コストの点でもう1つ注意したいのが、ソフトウェアのライセンスだ。サーバ仮想化を利用するには、その上で動作するソフトウェアのライセンスのコストを別途考えなければならない。多くのソフトウェアはサーバ仮想化を考慮していないライセンス形態であり、使用するサーバのCPU数で課金しているケースもある。

 サーバ仮想化を導入する際は、ハードウェアに多数の物理CPUを搭載していても、仮想マシンに割り当てる仮想CPUの数は少なくするのが一般的だ。そのため、物理CPUと仮想CPUのどちらの数で課金するかが問題となる。仮想CPUの数は簡単に変更できることを理由に物理CPU数で課金するソフトウェアもあるが、この場合は仮想化導入によってライセンス費用が割高になってしまうことがある。このような事態が長く続くとは思われないが、現時点では仮想化に移行する前にライセンス形態を確認しておく必要がある

 また、仮想化に対応した技術者の確保も重要だ。サーバ仮想化はこれからが本格的な普及期に入るところだ。そのため、さまざまな仮想化ソフトウェアを実際に触ってみたり、半年から1年といったスパンで仮想化環境を運用した経験のある技術者が、まだまだ少ないのが現状である。さらに、既存環境を仮想化環境に移行する際には、仮想化そのものだけでなくOSからネットワーク、Webアプリケーションサーバやデータベースなど、仮想化したサーバに関係する技術についても幅広いトータルな知識が要求されることが多い。サーバ仮想化はあくまでシステムを構成する1つの部品であることを考えると当然だが、このあたりの事情も仮想化への円滑な移行を妨げている要因であり、少し時間のかかる課題だろう。

仮想化の今後

 やっと普及期に入り始めたサーバ仮想化だが、今後の展開を考えてみよう。まずは、「SaaS(Software as a Service)」と「PaaS(Platform as a Service)」での利用だ。

 SaaSは、以前はASP(Application Service Provider)と呼ばれていたものが名前を変えたと考えればよい。ハードウェアからソフトウェア、アプリケーションまでシステムすべてをサービスとして提供する仕組みである。ユーザーは月々の使用料を支払うだけで済むので、初期導入コストを抑えることができ、システム全体の保守をアウトソーシングできるメリットがある。

 一方、PaaSでは提供するものが「Platform」まで、つまりシステムの実行環境を提供するサービスで、サーバ仮想化であれば仮想マシン実行環境の提供となる。OSからアプリケーションまではユーザー側で用意しなければならない仕組みだ。そのため、初期導入コストがかかる反面、SaaSよりも柔軟なユーザー独自のシステムが構築できるようになる。

 サーバ仮想化は現時点ではやっと普及が始まったところであり、ここ2、3年は多くの課題を解決していかなければならない。また、ネットワークやストレージといった周辺技術でも仮想化が進んでおり、それらの仮想化技術との融合を図っていく必要がある。

 仮想化技術が進展することで、これまでの「物理的に持つ」コンピュータから「仮想的に利用する」コンピュータへと移行していくことになるだろう。

筆者紹介:宮原徹(みやはら とおる)


2006年12月に日本仮想化技術株式会社を設立。サーバ仮想化を中心とした仮想化技術の活用について、調査研究、コンサルティングなどを中心に活動を行なっている。


前へ 1 2 3 次へ

カテゴリートップへ

この連載の記事