『文字講座』(盛文堂新光社刊)の永原康史さんの文章を読んでいたら、日本語のデザインの歴史のことが書かれていた。日本に活字が入ってきたのは、桃山時代から江戸初期にかけてで、朝鮮の銅活字(古活字)とグーテンベルク式活字の両方が入ってきた。ところが、日本人は古活字を50年ほど使ってみたものの、結局は捨ててしまう。
その後、日本では200年ほどにわたって、木版画のような文字と絵を自由にアイアウトする印刷技法が使われ続ける。1ページずつその都度文字から彫り起こすなんて、いかにも効率が悪そうに聞こえるが、日本人はよく切れる彫刻刀で、彫り続けていたことになる。編集者的な見方をすれば、いちばん贅沢なデザインが求められ続けたともいえる。
DTP夜明け前、夜明け後
1987年11月号の『月刊アスキー』は「コンピュータ組版」の特集で、まだ「DTP」(デスクトップパブリッシング)という略語はなく「DP」と表記していた。1990年代に入ると、日本でもDTPが普及期を迎えるが、DTPへの完全移行をしたがらない編集者が少なからずいた。効率からすればDTPのほうが楽なはずなのに、自由なデザインが損なわれると考える人が少なくなかったと思う。
先週(2009年5月6日)、米アマゾンが発表した「Kindle DX」を見て、私は「やられた」と思った(関連記事)。画面サイズを従来の2.5倍の9.7型にして、評判の悪かった表示も16階調にした。重さは500グラムほどあるが、本体の厚さは10ミリ以下である。そして、『New York Times』、『Wasington Post』、『Boston Grove』の3紙が提携して、宅配に代わる購読手段として活用するという。
一方、iPhone 3Gは発売されてちょうど1年になるが、iPhoneアプリの中では、気の利いたジョークソフトやGPSを使った位置情報活用系もさることながら、「ニュース」というカテゴリが充実してきている。『New York Times』や『Wall Street Journal』からはじまって、なんと、約600本のニュースリーダーが上がっているのだ。特に注目すべきは、新聞ごとに最適化された専用リーダーで、『産経新聞』のような紙面そのままを閲覧するソフトではない。
iPhone OSの構造については、現在発売中の『UNIX magazine』に詳しい解説があるが、最大の特徴は、表示されている画面が紙のような存在である点ではないかと思う。指でなぞれば、とりあえず意味がなくても動いてしまうのはご存じのとおり。よく言われているマルチタッチではなく、初動のタテ・ヨコを見ているのが認められた特許だそうだが、これが綴じたノートのような安定した紙送り感となる。