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『瀬名秀明 ロボット学論集』上梓「これは僕の自伝です」

作家・瀬名秀明とロボット ~攻殻機動隊の世界は実現するか~

2009年01月13日 22時34分更新

文● 矢島詩子、企画報道編集部

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ネット社会と攻殻機動隊

瀬名 最初にね、素子が映画で「ネットは広大だわ」って言ったときに、ある種素子自身の可能性というか、世界観みたいなものが、ネットとシンクロして、自分は広大だとか、自分のこれからの可能性みたいなものを、まあ、語っていたような所もあると思うんですよね。

櫻井  はい。思いますね。

瀬名 で06年のSSSになると、素子自身も、同じ事を言うんだけど、今度は「広大だ」って言う意味はね、僕の印象だと、自分の知らない世界もまだまだどんどんできてくるんじゃないかと。自分にはこういう組織があって仲間みたいなものもいるけれども、自分とはまた違った世界というのも、どんどんネットの中で出てくるんじゃないかっていうような意味合いも、含めているんだと思うんですね。

櫻井 そのとおりですね。

瀬名 ですから、僕がいつも思うのは、ネット社会って、まだ一世代過ぎていないですよね。だから、我々は人生の中でリアルタイムにネット社会の趨勢というか、発達を経験しているわけで、自分の人生とネット社会の広がりというのが我々はまだね、シンクロしすぎているんじゃないかなと感じていて。

櫻井 なるほど! はいはいはい。

瀬名 だからこれがね、ひょっとしてあと100年くらいして、また変わってくると、そういうネットへの感覚も違ってくるのかなあっていう。

櫻井 それはあるでしょうね。やっぱりまだインフラも発展途上なところもありますし。ブロードバンドみたいなところも進んだけど、まだちょっとストレスがあると思うんですよね。そういうことが、もう少し高速化したり、タイムラグがなくなってくると、また全然違う感覚になると思うんですよ。

 この、たった何年かの間だけでも、皆さん想像できないかもしれないけれども、僕が大学生でパソコンを買ったときに、ダイヤルアップでつないでいたという時代です。「ぴーがらがら」っていって、それでネットにつながるんですよね。そんな時代は皆さん知らないでしょうしね。

 あと、ものを作っている立場からいうと、コンテンツに対する考え方も変わってきて。ニコニコ動画とかYoutubeは物議を醸しましたけれども、そういうものがこれからどうなっていくのかということを含めて、僕らが持っている意識やコンテンツに対する考え方が、同時に移っていくのかなあと思いますね。

瀬名 ここ(スライド)に初音ミクの絵を出しました。櫻井さんだいぶんハマったそうで。

櫻井 そーうなんですよねー。あまり言いたくないんですが(笑)。

瀬名 はっはっは。

櫻井 あのー……。僕ね、これが凄いなと思ったのは、作り手の意図を超えちゃっているところがあると思うんです。「初音ミクはネギだ」ってなると、全員がネギを装備させるっていうところまで行く。「ロードローラーだ」というと、みんなロードローラーになるというですね。

 ある種、和歌の連歌のような読みあいというか。「ロードローラー!」って最初に言った人も、「まさかロードローラーは……」って言いながら放り込むと、みんなも、「ロードローラー?」って思いながら「いやロードローラーですけど!?」って乗っていく。新しい設定をどんどん足していって、それを転がして、“キャラ転がし”で遊ぶっていう。そこがすごく面白かったんですね。

瀬名 ちなみに、初音ミクってご存じない人は?

櫻井 あ、知らない人っていますねやっぱりね。

瀬名 でもそんなにはいない。

櫻井 ほとんど知っていますかね。

瀬名 VOCALOID(ボーカロイド)といって、歌を歌ってくれるバーチャルアンドロイドですね。

櫻井 そうですね。音階を入力すると、作曲したとおりに歌詞を歌ってくれる。僕、実は買ったんですよ。これがやってみると、驚くほどいろいろなことが「できない」んですよ。できるんじゃなくて、できないんです。

 「こんなにできないのか」と思って、動画アップしている人たちは、どんだけコレに時間を投資しているんだと思って、驚愕したんです。で、当たり前の事なんですけれども、最初はアカペラ版を買うんですよ。だから、音楽ソースは別に買ってこないといけないんですね。だから、既存曲でも、ミックスしないといけないし、ましてや自作……作詞作曲しているのであればなおさらです。作曲ソフトを買ってこなければならない。なんというか、この苦労がですねぇ……。

瀬名 俺のミクを育て上げるこの苦労……。

櫻井 コレ僕ね、すごく……。ミクについて語ると長くなっちゃうんで、いい加減にしますけれども、「自分の技術を見せびらかす」という手をとらなかったのも重要だと思うんですね。「これは、初音ミクへの愛情だ」という、ちょっとワンクッションあったことで、動画をアップしやすくなった気がするんですね。

 単純に「どうだ、俺の技すごいだろう」じゃなくて、「すいません、うちの子見てください」っていう感じにね、こんなにかわいがっちゃってますっていうね。そういうのも用意できたって事が、勝因なのかなあと思います。

瀬名 2nd GIG以降ですけれども、タチコマくんという、まあ、戦車ですね、これがバーチャルな世界のエージェントとして活躍するようになりますよね。こういうキャラが中でごちゃごちゃ出てきて、いろいろやってくれると。そういう意味で、キャラをバーチャルな世界の中に入れていく、作り込んでいくということが、ワンクッションになっていくという可能性もあると思いますね。

 たまたま、僕が仙台で審査員をやっているコンテスト「PaPeRoアプリケーションチャレンジin仙台」というのがありまして、PaPeRo(パペロ)というNECのコミュニケーションロボットなんですけれども、ダンスとかできるんですよ。だけど、車輪とかがそんなに激しく動ける訳じゃない。

 これを2010年。かなり近い世界で、どうやって私たちの社会の中で実用化しますか? っていうのを、いろんな人からコンテストでアイデアを募りました。実際にいいアイデアが出れば、仙台市とか宮城県で事業化しましょうというのをやっているんですね。

 出てくる子たちは、ロボット系の学生さんたちばかりでもなくて、たとえばメディア専攻の人たち、福祉関係の人たち、経済学部の子たちもいるし、一般のお子さんたちも応募してきます。で、寸劇をしたり、会話したりしながら、5分間のプレゼンをする。自分でFlashムービーを作ってもいいし、パンフレットを作って観客に見せてもいい、というのをやるんですね。

 この中でおもしろかったのが、携帯電話の中にPaPeRoをキャラとして入れてしまって、エージェントとして使うというものです。ロボットしての機能は一切省くわけですね。ケータイにエージェントとして、かわいいキャラとして入ってくれと。かなり思い切った。これ、優秀作をとってね。これだったら2010年までに実用というようなことだって、あると思います。

櫻井 PaPeRoって、キャラ化が成功しているロボットだと思うんですよ。技術的にはASIMOのほうがすごいと思うんですけれども、なんだか独特のキャラクターで、天然ボケの所もあるじゃないですか。ああいうところも含めて、キャラ付けがうまくできているなと。

小惑星探査機ハヤブサの公式ページ

小惑星探査機ハヤブサの公式ページ

瀬名 次に映っているのは、小惑星イトカワからサンプルリターンを計画した小惑星探査機のハヤブサなんですけれども。今、満身創痍で地球に戻って来つつあると言われているロボットです。これ、実は私たちの機械系の、吉田和哉(よしだかずや)教授という宇宙ロボットの専門家が、サンプルをどうやって採るかっていうシミュレーションをしたのですね。

 このハヤブサも、かなり“かわいい”という人もいたと思うんですよね。こういうキャラを見いだしてしまうというかね、そういう世界があったと思います。

 そろそろ時間がなくなってきているので、東北大学の仕事を紹介しながら、攻殻との関連をお話ししたいと思います。

 先ほどもちょっと触れましたが、2008年4月から「医工学研究科」という大学院も始まりました、医工学=医学の工学なんですけれども、医工学という名前を大学院に付けたのは、世界で東北大学が初めてなんですね。まさにこういうサイボーグとか、ブレインマシンインターフェイスの技術も、これから学べるようになる。実際にリハビリ技術などとも関連していて、医学の先生たちとも一緒にやっている。

 あと、東北大学ではこういう面白い研究もしていまして。

モーターを使わない「手で引く」だけの、平田泰久准教授のパッシブロボット

モーターを使わない「手で引く」だけの、平田泰久准教授のパッシブロボット

 タチコマもモーターでがんがん動いているロボットですけれども、モーターを使わないで、重力とか、手で押したり引いたりという外からの力だけで動くロボットを作ってみようというのもあるんですね。これ、ひもで一カ所から引っ張っているだけですけれども、下の車輪ロボットが障害物を認識して、避けてくれる。普通に引っ張ったらつっかえるわけだけれども、あらかじめ障害物があると分かると、引っ張るベクトルを分散させる。

 こちらは買い物カートなんですけれども、手を離しても、ちょうど重力と相殺して止まってくれる。でもがちがちには止まらない。こういう、環境に優しいロボットなんです。こういうのもこれから出てくると、またロボット観というものもかなり変わるかなと思っています。

 最後に、僕の仕事もちょっと紹介させていただきます。 「TORNADO BASE」 というバンダイビジュアルさんのWebサイトで、私がプロデュースした 「answer songs」 というシリーズがあって、SF作家の人たちが、研究者の人たちといろいろ話をして、ロボットとか、人工知能とか、情報科学とかの最先端の話を聞いて、それを作家だったらどのように表現するか? という仕事です。これが8月に研究者の発表と一緒に本にすることもやったりしています(『サイエンス・イマジネーション 科学とSFの最前線、そして未来へ』としてNTT出版から刊行されました)。また、 「瀬名秀明がゆく!東北大学機械系」 というWebサイトも更新していますので、是非見てください。

次ページ「講演を終えて(インタビュー)」に続く

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