イベントで手を振るだけのロボットではなく、役に立つロボットにも目を向けたい
瀬名さんが東北大学特任教授となって3年が経つ。今後もロボット学へのアプローチはしばらく続きそうだが、ASIMOの上をいくようなロボットが登場したわけでもなく、いささか盛り上がりに欠けるような印象もある。しかし、瀬名さんは、ロボット研究は現在「次のステージ」に来ていると考えている。
「1996年からから2000年、僕が最初のロボットの記事を書くくらいまで、ロボットはバラ色の未来、というような大ブーム。2002年の11月に開催された『ROBODEX2000』がロボットブームのピークだったというのが僕の認識で、この本もここから始まっているんです」しかし瀬名さんは2003年「ROBODEX2003」が開催された時期の年表に、ロボットブームの終焉を示すかのような記述を加えている。
2003年4月「ROBODEX2003」開催。ソニーやHRPの新作がお披露目されたが、アトムの誕生日直前であるこの頃から一般人と研究者とマスメディアの間で気持ちのすれ違いが顕著になりはじめた。(本書8ページより引用)
「僕はこのあたりでロボットに飽きているんですね(笑)。メディアで言っている夢と、一般の人の考え、そして研究者がやっていること、それぞれの溝があまりに大きすぎるじゃないかと。この溝は埋めようがないのでは? という、ちょっとした絶望感があったんです」
その後、2005年の愛・地球博でもロボットのお披露目はあったが、メディアはロボットに対して冷ややかになってきたという。
だが、ロボット研究が「次のステージ」となったのは、2006年に経産省が「今年のロボット大賞」を始めてからだと認識しているという。
このとき、瀬名さんも審査員のひとりを努めている。
「これは僕の印象ですが、国も認識が変わって、イベントで手を振るだけのロボットではだめで、地味だけど市場を開拓できるロボットもあるんだから、ちゃんと表彰しよう、というふうにバックアップを始めたと思います」
「今年のロボット大賞」の公式サイトによれば、この大賞は実社会において役に立つロボットやロボット技術を応援することが目的。実際、第1回で大賞を受賞したロボットは、ビルのお掃除ロボットだった。しかも、ビジネスモデルとして成立していた点が高い評価を得たのだという。
「ASIMOと握手するだけが、ロボットとの関係じゃないんです。『今年のロボット大賞』のロボットは、夢を語るだけのロボットとはまったく違ったロボットイメージを持っています。『ああ、こういうのもロボットなんだ』というちょっと新鮮な驚きを与えてくれると思いますね」
今の私たちは、次のステージにいるロボットが、私たちの生活に入り込んでくる日を待つしかない。だが、ロボットと人間は、どのように関わっていくべきなのかというテーマはこれまでどこでも語られておらず、本書が初めてだろう。ロボットに対して、瀬名さんと同じように「もやもやした気持ち」を感じている人なら、本書はその疑問を解決する強い助けになるだろう。
次ページからは、昨夏、東北大学オープンキャンパスで行なわれた、瀬名秀明さんと脚本家 櫻井圭記氏とのトークセッション「攻殻機動隊の世界は実現するか」の模様をお伝えします
クリエイター出渕裕氏も登場!
2008年1月24日 東北大学機械系にて特別シンポジウム開催
100年先の未来を考え、語り合う。
東北大学機械系と、瀬名秀明氏が、100年先の未来を語り合うシンポジウム「FLY TO THE FUTURE 100年先の未来をつくろう!」を、1月24日に開催する。
インタビュー中でも少し紹介したが、瀬名氏と東北大学機械系は、2006年1月から「100年先の“鉄腕アトム”の夢をつくり、発信する」ことをミッションとしてきたが、今回はその集大成になるという。
ゲストスピーカーは、東京大学大学院の國吉康夫教授とクリエイター出渕裕氏。
日時は2009年1月24日 13時~17時。場所は東北大学百周年記念会館 川内荻ホール。入場料は無料。