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『瀬名秀明 ロボット学論集』上梓「これは僕の自伝です」

作家・瀬名秀明とロボット ~攻殻機動隊の世界は実現するか~

2009年01月13日 22時34分更新

文● 矢島詩子、企画報道編集部

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老人と子供、そして攻殻機動隊

瀬名 最後のSSSでは、老人の介護問題、一方では子供の問題というのが出てきます。このへんに込められた考えというのはありますか?

櫻井 今僕が原案を担当しているマンガで「特務機甲隊クチクラ」(画:日向陽一郎)っていうのがあって、このときに思ったのが、ニートという存在にすごく興味があって。今ニートでいる、20代後半~30代の人たちが、2030年になると、ニートで独身で単独で、つまり高齢者の問題とある種ニート的な問題が併合して現れるんじゃないかっていう気がしていて。そのことを考えたかったんです。

 一方で、ある種「国」というか「社会システム」という観点から言えば、社会システムに寄与してこなかった人たちを、社会がどう支えるのか、支えるべきなのか、そしてほかにも、一方で子供たちへの虐待が増えてきているという状況もあります。ある種「社会システム」的な観点から言えば、新しい労働力が損なわれているわけですよね。そのあたりを合わせて考えられないかって。そのことを考える犯罪者がいてもいいかなっていう。

 犯罪者に感情移入できないと、事件って面白くならないような気がするんですよね。「そうだよな、確かに、こんな犯罪誰かが……」起こしてくれ! とまでは言わないけれども、ある種、ちょっと社会正義に駆られた、法は犯しているけれども、確かにちょっと分かるよなというのが、もえると思うんですよね。でも、「それは犯罪者だから捕まえに行かなければならない」という構図になる。

瀬名 あの中では老人が、まあ、あるシステムに乗っ取って介護されているんだけれども、わりと孤独な、“貴腐老人”という存在になってしまっている。ああいうのはどうでしょう? 櫻井さん、今後医療工学とかBMIのシステムがいろいろと脚光を浴びていて、パワードスーツもあります。ひょっとしたら老人をロボット技術でサポートする文化ができるかもしれない。それに、ホームみたいのがあって、そういうところでみんなで一緒に暮らすとかね、そういうようになるかもしれない。

櫻井 やっぱり、いままでの老人ホームとは、またちょっと違う形態の集団みたいなものが出てくるような気がするんですね。SSSはフィクションなんですけれども、高齢者が共同で施設を建てて、そこにみんなが住むという集合住宅的な……完全にバリアフリーみたいな感じの。そういう組織というか行動体が出てきそうだなという感じはしますね。

瀬名 確かに。今話を聞いていて思ったのは、攻殻機動隊の世界って、現実の環境がガチッと、モノとしてガッツリしているっていうか。たとえばSSSの老人も、“昔”建てられた高層ビルやマンションの中で暮らしているようなところがありますよね。今の現実社会の未来像が続いているという感覚があります。

櫻井 これからどんどんマンションが建って住んでいくと思うんですけれども、(その後は)住宅としてではない形で提供されたりとか、転用されていったり、ということはあると思います。やっぱり、そういうものを作品の中に出しているのは、監督の神山さん(神山健治監督)の意向でもあるのですが。

 やっぱり、こう……。僕らが思い描く未来って、エアカーが走っていたり、ものすごく奇天烈な形のビルとかには、あまりリアリティがないというか、そういうのってちょっと「(笑)カッコ笑い」な感じになってしまっているという。

 いちばんイメージしやすいのは、今立っているマンションが老朽化して、ニートが60歳になっている。みたいな、それが未来の姿って言う感じはするんですよね。

『特務機甲隊クチクラ』

COMIC BLADE刊。原作:プロダクションI.G、原案・脚本:櫻井圭記、画:日向陽市郎によるSFマンガ。現在、単行本1巻が発売中。2009年1月に2巻が発売予定だ。

次ページ「建築家のロボット理解」に続く

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