世界中でコラボレーションが始まればいい
佐野 コラボレーションも今はできないので、それができるような仕組みができたらいいなと。するとソフトだけの話じゃなく、インフラを整えるという話になってくる。
── インフラというのはネットでデータをやり取りをするということですか?
佐野 そうですね。ただDSの場合は難しいんですよね。データをネットで拾ってくることは楽なんですけど、(ユーザー間の)やり取りとなると規制が厳しい。たとえばバンブラ(ニンテンドーの音楽ゲームソフト『大合奏!バンドブラザーズ』)もそうですけど、アップしたものの権利チェックをするようになっているんですね。
── 著作権ですね。ユーザーがどんな曲をアップするか分からないし。
佐野 その辺があるんで、なかなか一筋縄ではいかないんですけど、ビジョンとしては簡単に曲がアップロードできて、そのデータをバトンのように世界的に回していけたら楽しいなと。
── ユーザー間のやりとりで曲が進化していくわけですね。
佐野 この曲をミックスしてみようと、そう思ったら世界地図が出てきて、このデータはこんな感じで世界を転々としていたんだな。そういうのが分かると、それだけで盛り上がるじゃないですか。そういうことが面白い。今はそんな感じがしています。
── プラットフォームとしての間口の広さを生かせますからね。
佐野 それは楽器メーカーさんではなかなかできないことなんで、そういう方向に興味がありますね。
DS-10がなかったらダメ人間になっていた?
── そういえば佐野さんは何故ミュージシャンにならなかったんですか?
佐野 ミュージシャン? うーん。なりたいと思ったことはないですね。小学校5年のときにYMOに出会って、中2でMS-10を中古で買って、普通に音を作って、曲を作って。それでゲーム業界にサウンドで入ると、音を作れるうえに、給料ももらえると。そりゃあいいなあと。だから、いまだにオファーされないと曲が書けないんですよ。一時期それじゃ良くないなと思って、毎日作曲するってのをやってたんですけどね。
── 「Sanodg Makes Music Everyday」ですね?
佐野 ああ、見てました? あれも言ってみれば、そういう他人からオファーされてるみたいなね。自主的に曲を完成させることができないんで。
── ブログの日記みたいに音を上げていくというあのスタイルは、すごく未来的で面白いと思いましたね。
佐野 あれはね、丁度、ダメ人間になりそうなところだったんですよ。まだDS-10の企画もなかった頃だし、このままじゃ俺はダメになると思って。
── そんな理由でやっていたんですか(笑)。今はもうやられてないんですか?
佐野 やってないですね。あれは今考えると大変でしたね。ちょっとのぼせながら作ってたんですよ。ランナーズハイみたいな。毎日やってるとそういうのが出るんですよ。
── 佐野さんがDS-10で毎日音を上げてくれると、ユーザーの参考になっていいなと思うんですけど。
佐野 ああ、でもねえ、もう僕は周回遅れくらいですね。皆さんの、トップアスリートの走りを見ていると。
── 佐野さんがそんな風に感じているとは意外ですね。
佐野 感じますね。いや、それが嬉しいのは、DS-10が楽器だからなんですよ。楽器って上達すると音がきれいに鳴らせたり、自分の納得いく音が出せたりするじゃないですか。まさにそうで。僕はまだ練習が足りない。練習している人の音は鳴ってますよね。それがすごい。
── そう言わずにやってくださいよ。
佐野 みんなが忘れたころに地味にやろうかなと。まったく忘れ去られている時にそういえば的にやれたらいいかなと。その頃はもうDSもなくてね(笑)。
本当は温泉でやりたかった
── 最後にDS-10 EXPOなんですが、なんかキャパの大きな会場ですよね。
佐野 ある程度広さに余裕のあるところじゃないと疲れちゃうと思って。
── それは確かに。年齢層高いから。
佐野 最初に僕が言っていたのは、100畳敷きくらいのでかい宴会場でやりたいなと。お台場の方に大江戸温泉ってあるんですけど、あそこにデカい宴会スペースがあるんで、温泉とDS-10というのをね。
── 温泉とDS! 温泉の宴会場というと長いテーブルに座布団みたいなものを想像するんですが。
佐野 まさにその通りですよ。「歓迎○○」みたいな幕がかかってそうな。そこにちょっとだけ高いステージがあって、どーんと机がある。「それでは何番の方どうぞー!」とかね。その横で酔っ払ってたり、「ちょっとひと風呂浴びてからでいい?」とか言って温泉行く人もいたり。
── それは「おっさんの集まり」であることへの自虐じゃありませんか?(笑)
佐野 いや、いきなり一回目からそれじゃまずいだろうという話になって、こうなったんですけど(笑)。でも、いわゆるクラブイベントはしんどい。最初はノンストップで、というのも考えたんですけど、もう超ストップ系ですからね。
── っていうのは?
佐野 一人出てくると「はい、どちらからいらっしゃいました?」とかそういうの。だから四本さん、よろしくお願いしますよ! なんか嫌じゃないですか、ノンストップとかでスカしてやるの。結局誰がやってるんだか分かんないし、だったら呼んできた意味ない。だから「さあ今日はどちらから? それでは、張り切ってどうぞー!」みたいな、そういう風にしたいんですよ。
── その方が出る側も気楽でいいですね、確かに。
佐野 そうすれば、あの話をしていた人がこの曲をやっているんだと。YouTubeやニコ動を見たときに世界が広がるじゃないですか。
── そこでスベったら、ずっと覚えられて痛い気もしますけど。
佐野 失敗しても全然ご愛嬌なんですよ。あの人、動画ではすごいけど、実は緊張しいなんだ、とかね。そこで生きている人がやっているってことが分かるじゃないですか。それを狙ってるんですよ。
── なるほど、ポジティブだなあ。
佐野 演者の人にも「サインください」じゃなくて「データ交換してください」とかね。名刺交換でもいいですよ。大人の集まりなんでね。名刺の代わりにデータ交換しても。せっかく集まるんですから、そこまで行きたいですね。
── じゃあデータのタイトルに名前を入れておいた方がいいのかな。でも電話番号までは入らないよなあ。
佐野 データに電話番号かあ(笑)。でも作っている時には、コミュニケーションツールにしよう、なーんて全然考えてなかったけど、今の動きを見ているとそんな感じですね。
── 楽器はやっぱりコミュニケーションを引き起こす道具なんですよ。
佐野 いつか世界中からDS-10を持って集まってもらうとかね。今回のイベントも「EXPO」なんて半笑いで付けましたけど、半分は本気で。これが「DS-10 EXPO 2008 in PARIS」でもいいですし、最終的には日本に戻ってきて、世界中から人が集まってくる。そんな風になったらいいなあ。
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