塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤” 第13回
塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤”
写真の点と枠
2008年08月17日 15時00分更新
「点」から広がる無限の世界 それを生み出す原点は個人
写真の撮影で構図を考えるとき、被写体を「枠」で捉える考え方もある。左右の手の人さし指と親指で長方形を作って、それを通して被写体を見るポーズがその象徴。被写体を「枠に収める」とか風景の一部を「切り取る」と表現される構図の捉え方だ。特にズームレンズでズームを前後させながら撮影していると、この指向が強くなりやすいかもしれない。
「枠」で捉える思考は、塗り絵の発想に似ている。まず最初に枠を構えてから内側を塗っていく。枠からはみ出しちゃいけない、枠に収めなきゃいけないという外枠の「内外」には細心の注意を払う一方、枠の内側には中心となる「点」が存在しない。
それもひとつの表現手法だが、私の写真にはこの「枠」の概念はまったくない。外側の枠から内向きに考えるのではなく、被写体を「点」から外向きに捉えるのが私の写真だ。「点」を中心に、写真に写る範囲を超えてどこまでも広がっていく世界を写したいと思っている。
だから、私の写真を「枠」の視点から見ると、被写体は写真からおおいにハミ出している。つまり、例えば顔の一部、クルマの一部、お皿の一部しか写っていないように見える。でもそれは一部分を切り取っているのではない。
それぞれ、瞳、方向指示器、お刺身のツヤという「点」を撮っているのであって、その周囲がどこまで写っているか(どこから写っていないか)は主たる問題ではないのだ。「点」の周辺は、撮りたい「点」を生かすのに必要な限り写っていれば十分だと考えている。
(次ページに続く)
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