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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第26回

著作権法を「農業補助金」にするな

2008年07月22日 11時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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「レント」の悲劇


 「レント」という有名なブロードウェイ・ミュージカルがある。日本でも上演され、今年の秋またやるらしい。プッチーニの「ラ・ボエーム」を下敷きにしたもので、売れないアーティストたちがステージに立つ日を夢見ながら、貧困や病いと闘って生きてゆく物語だ。しかしミュージカル以上に悲劇的なのが、その作者ジョナサン・ラーソンのエピソードである。

 ラーソンは「レント」の構想に7年かけ、それを書いている間、ニューヨークのレストランでウェイターや皿洗いとして働いていた。しかし1996年1月、待望のオフブロードウェイ公演初日の未明、心臓疾患で急死する。そして主人公は、まるでラーソンの運命を予感しているような歌を歌う。


レント

映画化もされた「レント」

 One Song, Glory
 Before I Go, Glory
 One Song To Leave Behind
 From The Pretty Boy Front Man
 Who Wasted Opportunity...



アーティストの圧倒的多数は食えない


 これはニューヨークだけでなく、世界中のアーティストの現実だ。私もそういう業界に勤務していたが、安定した収入があるのは私のようなサラリーマンだけで、圧倒的多数が演劇や音楽だけでは食えない。たいていはラーソンのようにアルバイトで食いつなぎ、現場でもほとんど無給で働いているが、多くの若者は不安定な暮らしと過酷な労働に耐えられなくなって芸術の世界を去る。

 こうした状況を改善しようと、経産省や総務省がたびたび調査を行なったが、彼らはスーパースターを夢見て自発的に食えない生活をしているので、救済を求めていない。無給でもいいから映画や音楽の仕事したいという若者は、ほとんど無尽蔵にいる。プッチーニの時代も今も、芸術というのはごく少数の天才だけが名を残して99%以上は埋もれる、極端な「ロングテール」の世界なのだ。

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