というわけで、今回は魅力あふれるダメ男が登場する、フランソワ・ヴェイエルガンスの『母の家で過ごした三日間』をご紹介いたしたいんですの。
主人公はすでに前金をもらっている本を何冊も抱えながら、5年間何ひとつ作品を発表していないフランソワ・ヴェイエルグラッフ。妻と成人した娘2人を持つもうじき60歳の男なのに女性関係にだらしなく、税金は滞納し、『母の家で過ごした三日間』という小説が完成しないのが負い目になって、もう何年もママンを訪ねられないでいる男です。
物語の前半は、このダメ男のキャラを愛でるパートといってよく、フランソワの過去の回想や日常生活の中に、たとえば税務署から呼び出しがかかった日が〈今月の十四日、つまり聖ジュストの日〉だと思い出したのをきっかけに、フローベールの博覧強記小説『ブヴァールとペキュシェ』→デンマーク人の美女を口説いた思い出→モントリオールで若い女に言われた台詞→モリエール『守銭奴』の一節→税務署で出会った美人納税係→カントの『判断力批判』……と、3の倍数と3の数だけバカになる世界のナベアツみたいに、愚かなんだかインテリなんだかわからない記述が芋づる式に展開するんです。これがもうおかしいったらない!
なのに、モテるんです。
〈女性にとって、僕は公の場で愛撫したくなるタイプの男らしく〉タクシーの中や電車の中でコートの中からペニスを弄ばれる。道ですれ違った優雅な女性に「キスして欲しい」と頼むと望みがかなえてもらえる。インタビュアーの女性カトレーヌに「結婚してくださる?」と訊かれ、〈走って逃げ出せばよいものを、僕はつい彼女に歩みよって、キスしてしまい〉ずるずると関係を持ってしまう。
羨ましいですか、そうですか。
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