論理的読解力で開発された「NetCommons」
では、実際に数学的思考を開発にどのように利用するのか。新井さんが国立情報学研究所で研究開発した「NetCommons」を例に話を聞いてみた。「NetCommons」は、外部配信向けのポータルサイト機能と、個人のバーチャルオフィスとしての機能、グループでの情報共有のための機能が1つのシステムに統合されているのが特徴だ。大学などで研究成果を発表するサイトや小学・中学・高校といった教育機関のサイト、NPOのポータルサイト、同窓会サイトとさまざまな使われ方をされている。
「『NetCommons』はウェブ2.0時代の情報共有基盤システムです。標準装備されているモジュール(機能単位)をポストイット感覚で組み合わせることで、目的に応じたウェブサイトを短時間で構築できるのが魅力です。モジュールには、『掲示板』や『アンケート』、『スケジュール管理』、『共有キャビネット』など36種類あり、それぞれ設定条件を変えることでさまざまなツールになります。例えば、掲示板の投稿権限を自分たちだけにして、メールと同期させると掲示板が『メーリングリスト』になります。さらに、返事を書けなように設定すれば『メールマガジン』に変わります。学校利用の場合は、返事を書けないようにして、先生だけが見られるようにすれば『レポート提出』になる。つまり、『NetCommons』は、1つの機能が設定次第でさまざまな種類のツールに変わるという新しい視点を持っています」
「NetCommons」は、非常に効率的な開発がされている。例えば、NetCommonsは1つの機能が設定次第でさまざまなツールになる。そのため開発費用は各々に開発するよりコストを抑えられたというわけだ。またそれは、利用者にとっても同様で、1つのシステムでさまざまな用途のサイトを作ることができれば、制作期間やリソースも抑えられるというメリットがある。
「現在、インターネットを介したコミュニケーションツールには、メールや掲示板、メッセンジャー、SNSなど多くの種類があります。『NetCommons』は、『SNSのような……』や『ブログのような……』という発想のスタートではなく、ユーザーがコミュニケーションツールとしてインターネットに求めている原点から考えました。それは『その都度、相手と方法を選んでコミュニケーションしたい』という欲求です。この欲求を満たすサイト(システム)を『www.』のプロトコルと現状の技術で『このように実現できるはずだ』、というのが頭の中でイメージできました。それが『NetCommons』なのです。この『はずだ』というのは、数学的訓練を通じて身に付けた感覚ですね。数学は、ごく抽象的な定義から『はずだ』を発見して証明する学問なのです」
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