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アスキーCCO 遠藤諭が聞く ホームサーバの現在と未来

「Lui」が示すホームサーバ新世紀

2008年03月29日 10時00分更新

文● 編集部、撮影●パシャ

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文● 編集部、撮影●パシャ

「パソコンをどう進化させるか」がLuiを生んだ

パソコンをどういう方向に進化させるか 栗山「『パソコンをどういう方向に進化させるか』というところが、企画のベースになっています」

遠藤 そもそもLuiが出てきたのは、どういった理由があったのでしょう。

 「シンクライアント」というソリューションは企業のシステムではよく話題になります。セキュリティーの問題もあるほか、クラウドコンピューティングとかSaaSとか、いろんな話がある。

 ではなぜ今、家庭向けのソリューションとしてLuiを作るのですか。

栗山 これは2~3年前にプロジェクトとしてスタートしたのですが、コンセプトの話にさかのぼると、我々もパソコンメーカーですので、「パソコンをどういう方向に進化させるか」というところがベースになっています。

 まったく新しいジャンルの商品を作ろうという発想ではなく、これからのNGN時代、広義の意味での次世代ネットワーク・ユビキタス社会になったときに、「パソコンってどう進化するの?」というところで取り組んだ。

 コンピューティングをするサーバ部分と、ユーザーインターフェースとなるクライアントの部分を、トータルで考えていきましょう、というところからスタートしています。

 もうひとつ、「なぜこの時期か」ということは、大きく2つの切り口があります。“真のデジタルホームを実現するため”の環境が整ってきたためです。

 それはコンテンツのデジタル化PCのホームネットワーク化デジタル家電のネットワーク化の3要素です。

 ハイビジョンのデジタル放送や次世代DVD、TBクラスのHDDが普及価格帯に入ってくるのが2008年の大きなトレンドでしょう。家庭内での無線LANの普及率は大きく向上しています。そして家電のネットワーク化は、それらの進化を支えるものです。

 まさにここ1~2年で広がってきたこれらを、どう束ねるか。

遠藤 劇的に広がってきてますね。先日、某大手家電量販店の方とお会いしたのですが、「テレビ売り場で光ブロードバンド契約が売れている」のだそうです。今の大型テレビはネット対応になってきているので、パソコン売り場で売っていたブロードバンドの契約が、テレビ売り場やiPodの売り場でガンガン伸びている。なかなか来なかったホームネットワークというものが、やっと格好になってきたという印象はありますね。

 また、電通総研が発表しているデータに、「テレビを見ながら何をしているか」という調査結果があるんです。携帯電話かと思っていたら、それは「パソコン、インターネット」だった。テレビでやってるものをパソコン使ってインターネットで調べたりとか、買い物をしたりとか、そういう環境ができてきている。

 その現象そのものは、テレビとインターネットがいかに融合しうるものかということを象徴している。このLuiも、ひょっとしたらそういう時代にあるべきものかもしれない。

栗山 インフラとしての光回線が普及して、まさにこれからワイヤレスブロードバンドの世界に入る。そうするとやはり、パソコンの使い方自体も大きく変わるでしょう。

 しかし、そこにホームサーバPCだけでは、よくあるテレビパソコンの進化形になってしまう。今のテレビパソコンの欠点って、誰かがテレビを見ているときは、事実上パソコンは死んでいるんですよね。

遠藤 言われてみればそうですよね。

栗山 ホームサーバPCの中には、この「サーバボード」の機能が入っています。サーバ内のデータやアプリケーション、ネットサービスが、すべてリモーターで使える。ホームサーバPCをテレビにつないで、家族みんなでという使い方もできるし、テレビ録画を見ながら、リモーターでネットを参照しましょうという使い方もできる。

 ですので、テレビパソコンの欠点である“死んでるパソコンを、このリモーターで生かせる。それが、なぜこれらを一緒に、同じブランドでやっているかというひとつの柱なのです。

サーバボード ホームサーバPC内でPCオンデマンドの機能を提供するサーバボード(写真は開発中のものです)

遠藤 しかも、部屋でもお茶の間でも移動できると。

栗山 そうです。リビングで使うこともできるし、家族がリビングを独占しているときにリモーターを自分の部屋に持って行けば、そのパソコンやサーバ内に貯めたデータをそこで使える。

 Luiはコンテンツだけじゃなく、パソコンのアプリケーションがサーバに一元化されているのが非常に重要なんです。パソコンで得られているウェブサーフィンの快適さを、スマートフォンや携帯電話のフルブラウザでは得るのは難しい。しかしPCリモーターであれば、普段のパソコンと同じです。

遠藤 なるほど。これらとNGNとはどう関係してくるんですか?

栗山 やはり帯域保証という特徴が大きいと思います。帯域によって快適さに影響がありますので、動画が切れたり操作にもたつきを感じたりといった面が解消すします。

 またIPアドレスの解決を、今はメール交換方式でやっていますが、NGNになればアドレスは決まってますから一瞬でつながる。使い勝手がNGNによってさらに進化するのです。


リモートデスクトップとの違いは、アプリケーションの制限がないこと


遠藤 LuiのPCリモーターと、Windowsの「リモートデスクトップ」、あるいは昔マイクロソフト社が手がけた「スマートディスプレー」とは、どこが違うのでしょう。

栗山 大きな考え方としては、普段使っているパソコンの使い方、ユーザビリティー、アプリケーションの制限事項がないことです。

遠藤 リモートデスクトップだと、リモート側も基本的にパソコンでなきゃいけない。特殊なRDP(Remote Desktop Protocol)で実現していたので、例えば動画はコマ落ちがあったりとか、いろいろ制限がありましたからね。そういったことは、PCリモーターでは一切ない。YouTubeも快適に見られますね。

PCリモーターでYouTubeを視聴 PCリモーターでYouTubeを視聴する遠藤。動画の再生も滑らかで、リモートで動作しているとは思えない

栗山 それと、コンシューマーの方にリモートコンピューティングの環境を提供するに当たって、アプリケーションやOSへの依存性以外に、IPアドレスの解決とか宅外からのリモートパワーオンなどを、どう簡単に実現するか。それにもちろんセキュアな接続。これはLaVie Jで実装した技術を利用しています。

 さらに、仮に外でPCリモーターを盗まれても、データごと盗られる心配はない。盗られても被害は物理的なリモーターだけで、肝心のものは安全な家にあるわけです。

遠藤 なぜ2種類のリモーターを用意されたのでしょうか。

栗山 まずノートタイプはパソコンと同じ操作性を実現したかった。

 イメージ的には、出かける時にノートタイプを1台持つ。どうしてもモバイルパソコンが必要という場合には、モバイルパソコンとポケットタイプを持つといった具合です。

遠藤 ノートタイプは使い勝手の制約がない世界を実現したかったと。

栗山 そのために、キーボードは17mmのキーピッチと2.5mmのストロークを実現しました。ディスプレーもWXGAの解像度で実用的な大きさということで、10.6インチにしました。あとはいかに軽くできるかを追求しています。

 あまりいろんな機能を入れていくと、1kgを切って900g前後になってきたモバイルノートと、何が違うのかということになる。そこをはっきりさせないと駄目。

遠藤 差別化をはっきりさせないと駄目ですよね。

栗山 もっと軽くすることも可能だったかもしれませんが、そうすると例えば、キーボードをペラペラにしなきゃいけないといった問題もあった。しかし、操作性は譲れない。

僕なんかはポケットタイプに、リュウドのUSBキーボードなんかつなげて使いそう 遠藤「僕なんかはポケットタイプに、リュウドのUSBキーボードなんかつなげて使いそう」

遠藤 僕なんかはポケットタイプに、リュウドのUSBキーボードなんかつなげて使いそう(笑)。ポケットタイプは何グラムあるんですか?

栗山 250gくらいです(注:重さは2008年2月時点の開発中のもの)。

遠藤 おお、軽いですね!

栗山 ポケットタイプは単機能に割り切りました。意見を集めると「カメラ入れろ」とかいう声もあったんですが、あえて何も付けていません。

遠藤 むしろデジカメのデータをPDA側に入れて、サーバにさっさと送った方がいいんじゃないかと。

栗山 そうですね。

遠藤 リモーターのバリエーションも増えそうですね。

栗山 可能性はあると思います。

遠藤 ビジネスマンにノートタイプは、相当うけるんじゃないかと思いますね。モバイルノートキラーというか。

 ノートタイプの重さはどれくらいですか?

栗山 650gくらいですね(注:重さは2008年2月時点の開発中のもの)。

遠藤 いい線ですよね。“500gの神話”ってのがあって、500g以下だと持っているのを意識しなくなるんですよね、不思議なことに。でも2倍の1kgになると、いきなり重く感じる。ノートタイプリモーターなんか、鞄に入ってることを忘れてしまうかも。

 だから、ノートタイプにいつでもつながる接続性が組み合わさったら、買う人は多いんじゃないかと思いますね。

栗山 どうしても今はまだ、ネットワークにつながらなかったときは単なる箱になってしまいますね。

遠藤 インフラ面の解決のプランはどうなっているのでしょうか。

栗山 当初は、既にホームネットワークのインフラが確立している宅内での利用に加えて、ブロードバンドインターネット対応のホテルや、各種公衆無線LANサービスが使える宅外での利用を想定しています。これだけでも、十分使えるものと考えています。

遠藤 モバイルWiMAXや次世代PHSなどが使えるようになると、もっと拡がりますよね。

栗山 もちろん、「いつでもどこでも」というニーズに対応するには、そのような次世代のブロードバンド無線アクセスインフラを待ってからという選択肢もありましたが、まずは半歩先行して出すということを選びました。

 モバイルパソコンの置き換えをいきなり狙うわけではなくてね。

遠藤 狙えるのになあ(笑)。

栗山 また、なぜ我々がこれをという意味では、これによってパソコンの買い増しが促進されると思っているからです。

 なぜかと言うと、家でビジネスマンがパソコンを使える時間は限られていますよね。時間を分けて家族と1台を共有している。

 ところが外出先からでもリモートアクセスで自宅のパソコンを使えるようになると、いつでも望んだ時に使いたいから、もう1台パソコンが必要になる。それが狙いなんです(笑)。

遠藤 なるほどね(笑)。パソコンのパーソナル度が上がるわけだ。

栗山 家庭内での時間的なコンフリクトが高まれば、1家に1台で済んでいた家庭も2台3台と必要になる。

遠藤 なるほどねえ。ただ1ユーザーとしての視点からすると、携帯電話系の通信カードとの組み合わせが欲しいですね。モバイルWiMAXは始まるまで、まだ少し時間がかかりますから。

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