紙の新聞でスクープしてこそ意味がある?
またウェブと紙に対する新聞記者の意識のちがいは、他社と競争するときにも如実に出る。
「例えば、ウチのある記者が紙の新聞本紙より先に、ウェブ上に1本の記事を書いたとしますね。で、他社の記者がそれを見て、その記事のネタをもとに追加取材をして翌日の朝刊に出したとする。するとその記者はすごく悔しがります。紙に抜かれた、というわけですね」
──つまりその記者の価値観として、あくまでウェブより紙の新聞のほうが上にあるということなのだろう。だからウェブを使って自分自身が他社を先に抜いているにもかかわらず、あとから他社に「紙」で続報を打たれると「抜かれた感」が強く残ってしまう。
「でもそこで彼に『新聞なんて最大でも決まった定期購読者しか読んでないんだ。だけどウェブには読者が無限に存在する可能性があるんだぞ』と説明すると、なるほどと納得したりするんです(笑)」
これは文化の問題である。新聞記者は長い間、紙の文化に慣れ親しんできた。そんな彼らが「ウェブの頭」に変わるには、まだしばらく時間がいる。とはいえ高島氏によれば、その兆候は確かにあるようだ。
「最近では新聞本紙の記者が、『この記事は紙面上の都合で掲載されないからネットで出さないか?』と言ってくるケースが目立ってきています。この調子で今後は、ウェブにしか出ない記事をどんどん増やしていきたいですね」
世の中に流通する情報の量は膨大だ。このうち現場でネタを取る新聞記者が掘り出す一次情報の比率は大きい。そんな新聞記者がウェブの威力に気づき、ネットをフル活用し始めたら? 大げさでなく活版印刷が発明されて以来の情報革命が起きるにちがいない。
新聞人の「過度な自負心」がネット対応を遅らせた?
速報性でいえば、紙よりウェブのほうが優れているのはいうまでもない。新聞社はその気になれば、実はとっくの昔にネット経由でいち早くスクープを打つ体制を取れたはずだ。
確かに収益モデルをどうするのかなど、乗り越えるべき難しい問題はある。しかしそれよりも「俺たちは『公器』である紙の新聞を支えてきたんだ」という新聞人ならではの偏狭な「矜持」も、ウェブへの対応を遅らせた要因のひとつだろう。
しかしかつては独占的な利益を生み出していたその「公器」も、今や新聞は読まないが、パソコンやケータイは手放さないネットユーザーにいとも簡単に見限られようとしている。
もはや泥舟に乗っているわけにはいかない。新聞社にとってネット対応は歴史の必然なのだ。そして新聞がウェブを操るためには前述の通り、収益モデルという物理的な側面と、精神面、つまりネットに対する自らの偏見を一掃する必要がある。
「ウェブにしか出ない記事を増やしたい」という毎日は、そんな物心両面の壁を乗り越え、未知の世界に挑もうとしているように見える。
後編では、毎日jpのサイト作りをチェックしていこう。
(後編に続く)
松岡美樹(まつおかみき)
新聞、出版社を経てフリーランスのライター。ブロードバンド・ニュースサイトの「RBB TODAY」や、アスキーなどに連載・寄稿している。著書に『ニッポンの挑戦 インターネットの夜明け』(RBB PRESS/オーム社)などがある。自身のブログ「すちゃらかな日常 松岡美樹」も運営している。
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