インターネットの登場により、既存メディアはいま転換期にある。ではメディアの古典である新聞はインターネットをどう生かすのか? それとも新聞はネットの大波に飲み込まれるのか? この連載では各新聞社のキーマンを直撃し、彼らのネット戦略や時代認識を読み解いていく。
今回は日本経済新聞社が試みているメディア戦略「紙とネットの融合」を見てみよう。
日経新聞の一面連載と連動したコンテンツ作り
日本経済新聞社のデジタル企画開発部では今年1月、無料の会員制サイト「日経ネットPLUS」を立ち上げた。狙いのひとつは読者との双方向性を実現していくこと。また読者がニュースをより深く理解し、ビジネスや生活に役立てられる記事・論評を掲載している。想定する会員は、日経の読者であるビジネスマンだ。
日経ネットPLUSの特徴のひとつは、新聞本紙と連動したコンテンツ作りである。例えば日経新聞の一面には、さまざまな連載企画が掲載される。こうした連載ページの最後に「詳細は日経ネットPLUSに」などと記載し、ウェブで関連記事を読ませる方法である。日本経済新聞社 編集局 日経ネットPLUS 編集長の岡本文雄氏は言う。
「作る過程では、例えばわれわれサイドのデスクや記者が本紙の取材班に入り、企画段階から一体となってすり合わせします。『新聞本紙ではこれを載せるが、ネット向けにはこういうものを掲載しよう』などと企画を練ります。
またアンケートを連動させて実施することもあります。アンケート結果はかなりボリュームがありますから、本紙では少ししか載せられない。一方、ウェブには制約がないのであらゆるデータが見せられ、さまざまな多面展開ができる。それに対する読者の意見や、『こういう企画をやってほしい』という要望も日経ネットPLUSで受け付ける。これらを取材班にフィードバックすることで、次の取材のアイデアにもなります」
読者からの投稿を受け付け双方向性を実現
日経ネットPLUSには、経済、IT、企業経営などをテーマにした9つのフォーラムがある。各フォーラムでは専門家や日経の編集委員などがパネリストになり、竹中平蔵氏など外部の筆者も定期的に投稿している。また会員から意見があればコメントを受け付け、双方向性を実現している。
「例えば『ニュース交差点』というフォーラムで、株安・円高をテーマに為替・株式の専門家の方に投稿していただき、それに対する読者の意見を求めるような形です。読者からの投稿はもちろん確認するし、事実とちがっていれば編集します。新聞記事を書くときに裏取りするのと同様、読者のコメントに対しても裏を取ります。こうしたかなり手の込んだ作業を日々やっています」(岡本氏)
またネット上では、とかくくだけた文章がやり取りされるものだ。そのため読者投稿の文体などについても細かくチェックしている。
「ネット的な文章については、口語的な表現をどこまで載せるか? などを日々、模索しています。個々で判断するのではなく、編集会議を開き、『こういうものを載せるかどうか?』と話し合います。今後、新聞社が読者との双方向性を考えるとすれば、こうして自分たちの媒体とどう折り合いをつけながら、マスの意見を載せるか? が大きなテーマになるでしょう」(同)
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