イベント駆動型シミュレーション
代表的なモデリングの方法論として、先に挙げた連続系のシミュレーション手法であるシステムダイナミクスのほかに、もうひとつイベント駆動型シミュレーションがある。これは離散系のシミュレーション手法であり、現実世界との対応づけが容易で、高速道路の混雑やコンピューターネットワークの輻輳などのシミュレーションに適している。
この手法を活用した我々の仕事には、NTTコムウェア(株)と協同開発した「IPネットワーク・デザイン・ワークベンチ※3」がある。
※3 NTTコムウェア(株)と共同開発した「IP Network Design Workbench」では、エンジンにイベント駆動シミュレーションを採用。詳細は次のURLを参照のこと:http://tangible.media.mit.edu/projects/ipnet_workbench/
そのシナリオは、現在クライアントが使っているIPネットワークが、ビデオ・オン・デマンドやボイスオーバーIPなどの新サービス導入によって性能的限界に達し、システムのアップグレードを検討する際に機能する。センステーブルの上で、例えばネットワークのバンド幅を拡張したり、サーバーを倍増させたりと、クライアントと一緒にリアルタイムでシミュレーションしながらシステムアップグレードの方法を見つけ出せるというわけだ。
このシステムはNTTコムウェアの努力により日本での商品化が実現し、多様なアプリケーションに応用されているため、ご存じの方もいるかもしれない。
デジタル・シミュレーションの地平
社会の神経系となるネットワークの無限増殖と情報爆発、その結果としてのシステムの急速な複雑化と制御不能化の恐怖、あるいは近代産業による地球の生態系への予測しがたいダメージ、温暖化による気象変動など、地球レベルの深刻な問題を考えるとき、コンピューターを駆使したモデリングとシミュレーションが、我々に進むべき道の方向を指し示してくれるかもしれない。かつてはスーパーコンピューターでしかできなかったこれらのシミュレーションが、携帯コンピューターでリアルタイムに計算できるようになる日も近い。
(MacPeople 2006年7月号より転載)
筆者紹介─石井裕
米マサチューセッツ工科大学メディア・ラボ教授。人とデジタル情報、物理環境のシームレスなインターフェースを探求する「Tangible Media Group」を設立・指導するとともに、学内最大のコンソーシアム「Things That Think」の共同ディレクターを務める。'01年には日本人として初めてメディア・ラボの「テニュア」を取得。'06年「CHI Academy」選出。「人生の9割が詰まった」というPowerBook G4を片手に、世界中をエネルギッシュに飛び回る。
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