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石井裕の“デジタルの感触” 第26回

石井裕の“デジタルの感触”

アンビエントディスプレー

2008年01月13日 01時01分更新

文● 石井裕(MITメディア・ラボ教授)

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情報の「気配」を感じる装置


 「アンビエントディスプレー」は、タンジブル・ビットの研究から生まれた新しい情報表示装置の流れだ。その基本的な考えは、特定の情報ソースの表示に特化した専用性と、周辺感覚を利用してユーザーの認知負荷を抑えるデザイン、そして特別な操作(インタラクション)をしなくとも一瞥するだけで必要な情報を入手できるシンプルさにある。

 パソコンのディスプレーはユーザーの指示により、多様なアプリケーションを駆使して何百何千というデータファイルから選ばれたものをマルチウィンドウシステムに映し出す。すなわち、ディスプレーは汎用的な表示装置として利用されているのだ。その結果、ユーザーは意識的に何を表示するのか、あるいは今何が表示されているかを常に考えなければならない。

 これに対してアンビエントディスプレーでは、あらかじめ特定の情報表示に限定し、さらに物理的空間の一定位置を占めるように配置することで、人間の周辺感覚を生かしながら情報の「気配」を感じられる装置を目指した。

 その思想を説明するのにわかりやすい例としては、壁にかかった時計がある。時計は「時」というただ一種類のアプリケーションだけが常に走っている。起動することも、マウスで数百種類の機能リストから「時」を選ぶ必要もない。いつも現在時刻のみを表示し続けながら、物理空間の一定位置に存在し続ける。ユーザーは、ちらっと見るだけで、時刻という情報にアクセスできるわけだ。


(次ページに続く)

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