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思考の道具としてのコンピューター

2007年10月13日 06時08分更新

文● 石井裕(MITメディア・ラボ教授)

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思考を支えるデジタル・シミュレーション


「思考の道具としてのコンピューター」──これは、ハワード・ラインゴールドの名著「Tools for Thought」(邦題「思考のための道具」)を背景にした言葉である。

 コンピューターは人間の思考を支援するツールとして無限の可能性を秘めている。しかしそれは、現在主流となっている文書作成や電子メール、ウェブブラウズとは異なった分野のアプリケーションにあると私は考える。

 その最も有望な分野こそ、シミュレーションだ。現実世界の現象を分析してそれを説明する論理的モデルを構築し、シミュレーションにより実際にはまだ起きてない世界を予測する。このデジタル・シミュレーションは、複雑な因果連鎖から起きる環境破壊などの予測にその威力を発揮してきた。'50年代にMITのジェイ・W・フォレスター名誉教授が作り上げた「システムダイナミクス※1」は、そのための画期的なモデリングの方法論である。

 我々Tangible Media Group(タンジブル・メディア・グループ)も、この方法論をセンステーブル技術と組み合わせて、企業におけるサプライチェーン(供給連鎖)の分析「Supply Chain Visualization※2」に応用した実績がある。

※2 タンジブル・メディア・グループのサプライチェーン分析プロジェクトについては、次のURLを参照のこと:http://tangible.media.mit.edu/projects/scvis/


仮説・モデリング・シミュレーション


 複雑な現実世界の現象を観察し、その現象を引き起こすメカニズムについて仮説を立て、それをコンピューターで実行可能なモデルとして表現する。それが、シミュレーションの第一歩だ。ここで大切なのは、モデルが現実世界の現象を十分正確に説明できるかどうかであり、その検証のためには、異なる条件下で観測・測定した実データのセットが必要になる。作り上げたモデルのパラメーター(条件)を変更してシミュレーションを実行し、その結果が実データとうまく合致しているかをチェックするのだ。もしうまく合致していなければ、モデルをチューニングし直す必要がある。多様な条件下の実データをうまく説明できるレベルまでモデルをチューニングした段階で、初めて次のステージに移れる。

 検証を終えたモデルは、現実に起きていないさまざまな条件下でシステムがいかに動作するのかを、シミューレションを通して予測することを可能にする。まさに「思考のツール」の誕生である。

 もちろん、このモデルは100%完全な予測を保証するものでは決してない。実データが不十分であったり、そもそも現実世界という複雑極まりないシステムを完全に理解することは難しい。そのため単純化や適用条件などおのずと限界が付きまとってしまうが、このモデルを「補助脳」として、さまざまなシナリオに基づいて「実験」(シミュレーション)することが自由な試行錯誤を可能にし、非常に有効な思考の方法となるのだ。


(次ページに続く)

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