iPodを音楽とビデオの両輪で推進
── iPodの新シリーズについては、どう思われます?
津田 iPodは手堅く進化してきていますね。まず注目なのは、 iPod nanoでビデオ再生対応した点です。
アップルは2005年10月、初めてビデオ再生に対応した第5世代iPodを出して、音楽配信サービスである「iTunes Music Store」(現iTunes Store)でミュージックビデオを売り始めました(関連記事)。実はこの時点では、同社CEOのスティーブ・ジョブズ氏もコメントしていたように、ビデオ再生はオマケ的な要素で、あくまでiPodは「ミュージックプレーヤー」という位置づけだったんですよね。
それが、テレビや映画の配信を始めていくうちに、ビデオの存在価値がアップルの中でも、また、市場においても高まってきた。今回、iPodより一般層向けのiPod nanoをビデオ再生に対応させたのは、アップルが今後、iTunes StoreとiPodのエコシステムを音楽とビデオの両輪で推進していくということを示しているのでしょう。
デパートのBGMもチェックできるようになる!?
── 注目といえば、iPod touchの登場も大きいですよね。
津田 iPod touchは、既存のiPhoneから電話やカメラ機能などを取ったもので、実はそんなに驚きはありませんでした。それより個人的に気になったのは、iPod tocuhの無線LAN対応と、iPod touchやiPhoneの単体で音楽を買える「iTunes Wi-Fi Music Store」の開始です。
このWi-Fi対応は、無線LANのインフラ整備が進むと、面白い状況になると思います。飲食店や販売店で、無線LANを提供している店舗はまだ一部にとどまっていますが、これが公衆電話並みにどこでも使えるようになると、あらゆる店内BGMが音楽のプロモーション媒体に変わるという側面を持っています。
例えば、デパートなどで流れている音楽が「誰の曲だろ?」と気にった際、iPod touchを取り出して確認して、その場で購入できる。現状のスターバックスの店内BGMを買えるだけだったら、そんなにたいしたことではありませんが、無線LANのインフラが整い、さらに楽曲のカタログ数も増えていくことで、意義が出てくると思います。
現状やっていることが大したことなくても、そうした未来への布石を感じさせるような新要素の投入に、改めてアップルのすごさを感じました。
筆者紹介─津田大介
インターネット媒体やビジネス誌を中心に、幅広いジャンルの記事を執筆するライター/ITジャーナリスト。音楽配信、ファイル交換ソフト、CCCDなどのデジタル著作権問題などに造詣が深い。音楽配信関連の話題を扱うウェブサイト「音楽配信メモ」の管理人としても知られる。この8月に小寺信良氏との共著で「CONTENT'S FUTURE」を出版。
この連載の記事
-
第36回
トピックス
津田大介が語る、「コルシカ騒動」の論点 -
第35回
トピックス
津田大介が語る、日本版「フェアユース」とは? -
第34回
トピックス
これはひどい? 「薬のネット通販禁止」騒動の顛末 -
第33回
トピックス
どうなる出版? Google ブック検索がもたらす禍福 -
第32回
トピックス
津田大介に聞く「改正著作権法で何が変わる?」 -
第32回
トピックス
なくならないネットの誹謗中傷、どうすればいい? -
第31回
トピックス
テレビ局はなぜ負けた? 津田氏に聞くロクラク事件 -
第30回
トピックス
DRMフリー化は必然──津田氏が語る「iTunes Plus」 -
第29回
トピックス
法律が現実に追いつかない──津田氏、私的録音録画小委を総括 -
第28回
トピックス
「小室哲哉」逮捕で露呈した、著作権の難しさ -
第27回
トピックス
ダウンロード違法化が「延期」していたワケ - この連載の一覧へ