年功序列社会が崩壊し、1円起業が恒常化した現在、「起業」という働き方への注目が高まっています。SEとして、会社に残るのも一つの道ですが、起業という選択肢もあるのです。では、どうすれば起業できるのか。起業したその先は何を目指していけばいいのか。本連載では、SEのための起業成功法について、考えていきます。
起業というリスク、起業という希望
『起業バカ』(著:渡辺 仁、光文社)によると、脱サラやリストラで起業した人は、年間約18万人。ところが起業家として成功するのは1,500人に1人だそうです。起業ブームに踊らされて、すべてを失うサラリーマンが続出しているともいいます。
前回、私が「拡大ベンチャーかマイクロビジネスか?」というテーマを取り上げたのは、情報過多の中で、自分の立ち位置や身の丈を確認した上で起業し、そして淘汰されずに継続していくことが、いかに重要かをわかっていただきたいと思ったからです。そのためには、今の自分を見つめ直し、多くの疑問や不安を解消して、「希望」へと変え、ぜひ成功=「10年以上継続できる起業」を目指して下さい。
まずは起業の心構え 起業という転機をどう乗り越えていくか?
人は人生の中でさまざまな転機に直面し、それを乗り越えて現在を生きています。たとえば大学を卒業する。結婚する。家を買う。起業する。これらはすべて転機です。とりわけ起業は人生の中でも大きな「転機」になることは間違いありません。雇用者から非雇用者になり、収益を生み出す仕組みや人事体制も一から作り上げていかなくてはならないのですから、それなりの心構えが必要となるでしょう。
では、具体的にその心構えとはどのようにして持つことができるのでしょうか。
かつて全米キャリア開発協会の会長を務めていたナンシー・K・シュロスバーグは、「人生はさまざまな転換(転機)の連続から成り立っており、それを乗り越える努力と工夫を通してキャリアは形成され、開発される」と述べています。
そして「人はキャリア・トランジスション(キャリア転換)の連続の中で、転換のプロセスを理解し、自己管理(キャリア・マネジメント)ができるようになる」と説いています。つまり転機に対応するための方法として、シュロスバーグが提唱しているのが、以下のようなリソース(内的資源)の点検です。
- ○状況(Situation):状況に対する自分自身の見解
- ・この状況は予期されていたものなのか?
- ・プラスかマイナスか?
- ○自己 (Self):自分自身で活用できる内面的な資質
- ・自分の人生はどのような見通しなのか?
- ・自分は変化に直面したとき、コントロールできるか?
- ○支援 (Supports) :転機に関してどのような支援が受けられるのか
- ・自分が必要とする援助を他人から受けられるか?
- ・友人や家族などからの支援はあるか?
- ○戦略 (Strategies):可能な対処戦略の評価
- ・いろいろな戦略を使っているか?
- ・経験はあるか?
- ・ストレスへの対応をしているか?
これらのすべての頭文字をとって「4S点検」と言います。 起業という人生の転機に立ち向かおうとしている方は、 まずは自分のリソース(内的資源)を点検してみることをお勧めします。
必ずある自分のセールスポイント! 起業準備の「棚おろし」とは
起業という転機に対しての心構えを持つことができたら、次は自分の“強み”について洗い出してみましょう。企業の中でSEとして存在価値を認められてきた人は、必ずなにがしかの強みがあるはずです。その強みは企業という一定の枠を出たときも、汎用性のある能力なのかどうかを見極める必要があります。
それでは紙と鉛筆を用意してください。まず、簡単なレベルで自分自身のこれまでの経験を「棚おろし」してみましょう。 まず、自分の価値とは何かを書き出してみます。
1.会社で自分の価値が認められたことは何か
■ 答え方の例
WBS(Work Breakdown Structure/プロジェクトを完了させるのに必要な作業項目のすべてを管理しやすいように木構造[ツリー構造]にまとめたもの)を緻密に、正確に作成することができ、プロジェクトの成功確率を高められる人材であると評価されている。
2.社外の人から評価されたことは何か
■ 答え方の例
顧客へ納品後のアフターフォローの丁寧さには定評がある
3.これだけは人に負けないという思いは何か
■ 答え方の例
チームで仕事をするとき、相手のモチベーションを高めるようなきめ細やかな気遣いができる。
このように、具体的にいくつでもいいので書いてみます。また、弱みも洗い出してみましょう。そしてさらに、自分の好きなこと(得意なこと)、嫌いなこと(苦手なこと)も書いてみます。 このワークショップを行なうことによって、漠然としていた自分自身の姿が、浮かび上がってくるのではないでしょうか? これが自分自身の棚おろしのファーストステップになります。
「棚おろし」本番! 自分自身を見つめ直すことが、起業の成否を分ける
さて、次のステップとして、ワークシートを埋めていきましょう。これにより、さらに詳細なレベルで、自分のキャリアや“自分という人間”について内面的にも棚おろしをすることができます。
1の「起業したい理由」は、自分の起業モチベーションを明確化するための作業となります。 たとえば、「会社が面白くない」や「人に使われるのが嫌」といった、いわば起業理由としては「負の理由」を書いた場合。なぜ、面白くないのか。なぜ、人に使われるのが嫌なのかを、もう少し深堀して考えていきましょう。なぜなら、このような場合、起業理由としてはあいまいなモチベーションとなりやすいので要注意なのです。
たとえば
- ・今の会社では、非効率的なことに時間を割かなければいけない。
- ・仕事とは直接関係しない雑務や人間関係に追われ、本来の自分の能力を発揮できない
など、さまざまな理由が考えられると思いますが、しかし、このようにたとえ負の理由であっても、今の会社である程度の期限を設定して(6ヶ月、1年など)解決できないことであれば、退職、起業を視野に入れてもよいでしょう。そして、起業のモチベーションをしっかりと明確化していきます。
2の「今までの経験」では、いままでの職歴・職務・資格などは果たして、自分の志向と合致していたのかどうかを明確にしていきます。もし、合致していない場合は、その原因は何か、どう解決していったらいいのかを考えます。改めて、自分の仕事の適不適・好き嫌いを自分自身で判断していく作業となります。
3の「起業したい業種・内容」については、現在、携わっている職務内容が、退職して起業しても汎用性があり、その延長線でやっていけるものなのか、それともまったくの新天地を目指して開拓していくものなのかを見極めます。これまでの自分のスキルに汎用性があるかどうかは、冒頭で作業した社内外評価を指標とすれば、おおよそ判断できるものでしょう。ただし、自分のスキルが「社内で通用していた」からといって、起業してからも通用するかどうかは難しいという意識を持つことは肝要となります。
4の「障害・制約」は、今、自分にとって壁になっているものは何かを考えていきます。
たとえば
- ・開業するための資金がたりない
- ・やりたいと思っている業種での競合が多い
資金が足りないという場合は、概算で開業にはいくらかかるのか、それは最初に開業するときにすべてかかるのか、それとも事業を継続していく上でかかるのかも考えていきましょう。少なくとも1年後くらいまでの見通しで概算をはじきだすことが望ましいでしょう。
また、競合が多いという制約がある場合は、同業他社との差別化になるもの(サービス、価格、システム等)は何かを考えていくといいでしょう。
5の「起業したい時期」ですが、たとえば3年後の「35歳になってから」などの区切りを自分に課す場合は、なぜその時期、歳月が必要なのかを考えていきましょう。
たとえば、3年計画として、1年後にはプロジェクトマネジメントとして社内外から評価される能力を発揮し、2年後にはITアーキテクトのレベルに達したい。3年後は社外の人的ネットワーク構築に注力したいなど、具体的に起業までに必要なプロセスをイメージしていきましょう。
6の「起業イメージ」についてですが、これはいわば起業の視覚化です。実際に自分が起業した姿を映像として思い描くと、より夢が現実として近づいていきます。また、起業したときに大切にしたい自分の価値観(たとえば稼働時間やお金、社会貢献など)も洗い出していきます。
7の「起業のスキル」で、起業に必要と自分が考えているスキルは何かを洗い出し、8の「スキルを満たしているか?」で自分が必要と考えるスキルと現実的に、今自分に身についているスキルのギャップがないかどうかを確認します。
9の「起業の仕方」では、開業までのプロセス(たとえば各種関係機関への届出、業種によっては法的な整備や資格取得の必要性など)への理解度を計ります。
10の「周囲の理解」は、周囲の協力体制がとれるのか、また難しい場合は、どんな点が阻害要因になっていて、解決するためには、自分はどういった行動をとっていったらよいのかを考えていきます。
このワークショップには、“これ”という回答はありません。しかし、この作業をすることによって、現時点での自分自身の等身大のレベルで、起業に必要とされる条件がより具体化されます。自分に満たされている要素、不足している要素の両面から理解することができるのです。そして、起業準備として補うべき要素を確認できたのであれば、“生き残る起業”をするためにも、それらを一つ一つ補完していく努力が必要となります。
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