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社会保険労務士 中谷充宏 ワタシとカイシャの深ーい溝 労働環境の危険な落とし穴 第1回

第1回 働き過ぎの自分を守ろう! 会社の“休日制度”で休めてる?

2007年02月21日 00時00分更新

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社会保険労務士 中谷充宏  ワタシとカイシャの深ーい溝 労働環境の危険な落とし穴

昨今、ホワイトカラーエグゼンプションの問題などにより、被雇用者の就業形態に関心が高まっている。「残業代がでない」「定年年齢が延びる」など、うかうかしていると就業先の制度は次々変貌し、自分の身に襲いかかってくるかもしれないのだ。病気、けが、失業や老後に関わる労働保険や社会保険、自分の会社の制度をきちんと把握しておかなければ、自分の幸せを勝ち取ることはできない。“お仕事”にしか関心がないSEは危ないかも!?

そもそも、労働基準法の「休み」とは

 まずはじめに、今の労働基準法について簡単に説明しておきましょう。労働基準法第1条では、「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない」と定義しています。

 この法律は、主に労働者保護を目的としたものです。だから、たとえ労働者の合意があったとしてもこの法律に定められた基準を下回ることはできません。たとえば、皆さんが「私は休みなんて一切いりません。1年間ぶっ通しで働きます」と会社に申し出て、会社もそれを承認したとします。しかし、労働基準法では労働者に対して1週に1日以上の休日か、もしくは4週に4日以上の休日を与えなければならないと定めています。だから、このような合意があっても、休日を与えないで働かせた場合には会社に罰則が科されることになります。

1年間に53日休ませれば問題なし?

 たとえば、皆さんの会社の多くは、週休2日制がごく一般的に導入されていると思われますが、法律的には週1日の休日だけで問題はないことになっています。国民の祝日に休ませなければならないということもないですし、週1日の休日は、別に日曜日でなくてもいいのです。正月やお盆に働かされたとしても、先ほどの休日の基準をクリアしていれば違法ではありません。

 私は社会保険労務士という仕事柄、「ウチの会社は週休2日ではないんですよ。先生、違法ではないんですか?」といった休日に関する相談をよく受けますが、法律的には1年間で365日÷1週間(=7日)に1休日、つまり年間53日以上の休日を与えていれば、違法ではないのです。

休日なのに、休めない……。

 休日とは、労働法的には「労働する義務を負わない日」のことをいいます。だから、皆さんが休日として休んでいる時に、仕事先などからケータイや私用メールに頻繁に連絡が入っても、労働の義務はないので応じる必要はないということになります。しかし、現実的には休日であっても、仕事に関する問い合わせの電話がひっきりなしにかかってくるケースも多いのではないでしょうか?  また、納期に間に合わないからという理由で、休日に自宅へ仕事を持ち帰っている例もよく見受けられます。つまり、「これでは、せっかくの休日なのに、ぜんぜん休んだ気がしない」といった指摘が、昨今目立ってきているのです。

 では休日なのに休めないといった状況の中、いざ過労で倒れた場合、法律的には違反をしていない会社に対して自分の身をどうやって守ればいいのでしょうか。たとえば、この「持ち帰り仕事」で言うと、その“労働”は労働時間とはみなされない説が有力です。ですから、やはり働くならば自宅ではなく会社で仕事をすべきでしょう。

 最近では、社内の顧客情報や機密情報などが外部に漏れることを防止するため、職場以外での仕事を禁止している会社も多くなりました。けれども、現実には「持ち帰り仕事」を一切しない、ケータイ電話を無視し続けるというのは難しいことでしょう。しかし、持ち帰り仕事などが労働時間としてみなされないとすると、何か事故があっても労災保険は使えないことになりますし、事業主にその責任を追及しても「社員が自発的に勝手にやったこと」にされ、逃げられてしまうのがオチなのです。

自分の身を自分で守るため、ちょっとした工夫をしておこう!

 「会社外での仕事を一切しない」というのが現実的に難しいのなら、後々のトラブルから自分を守るために、なおのこと工夫が必要となります。休日にかかってきたケータイの着信履歴やメール内容の記録は残しておく、「持ち帰り仕事」をする際には、メール等でも、上司に報告・連絡・相談するといった“証拠を残す”ことが大切です。怪我などに比べ、労災適用の判断が難しい「過労」などの審査に対し、これらの証拠は有効に働く場合があるのです。「そんなこと、いちいちできない……」と思うかもしれませんが、今や自己責任の時代。会社は、皆さんを守ってはくれません。自分の身を自分で守れるようになることが肝要なのです。

中谷充宏氏

著者 中谷充宏
社会保険労務士・キャリアカウンセラー。
1967年大阪生まれ。
人事採用コンサルティングを主業務とするM&Nコンサルティング代表。同志社大学卒業後NTT情報システム本部(現NTTコムウェア)にてSE経験を積み、2004年に社会保険労務士開業。IT業界の人事労務問題解決に強みを持つ。現在、就職支援アドバイザーとして埼玉県の非常勤職員も務める。


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