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社会保険労務士 中谷充宏 ワタシとカイシャの深ーい溝 労働環境の危険な落とし穴 第2回

第2回 残業、残業、逃げられない残業…… 幸せを勝ち取る術とは?

2007年02月28日 00時00分更新

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社会保険労務士 中谷充宏  ワタシとカイシャの深ーい溝 労働環境の危険な落とし穴

昨今、ホワイトカラーエグゼンプションの問題などにより、被雇用者の就業形態に関心が高まっている。「残業代がでない」「定年年齢が延びる」など、うかうかしていると就業先の制度は次々変貌し、自分の身に襲いかかってくるかもしれないのだ。病気、けが、失業や老後に関わる労働保険や社会保険、自分の会社の制度をきちんと把握しておかなければ、自分の幸せを勝ち取ることはできない。“お仕事”にしか関心がないSEは危ないかも!?

残業禁止が原則? だけど結局残業の何故

 今回は、皆さんにとっておそらく最も関わりある「残業」についてお話します。  労働基準法では、労働時間に関して1日8時間、週40時間という時間制限枠が規定されています。本来雇用者は、この規定時間を超えて働かせると、労働基準法違反になります。しかし、SE職に従事している皆さんにとって、あまりにも実態とかけ離れているため、こんな規定は絵空事に感じられるかもしれませんね。

 実は、この労働時間はあくまで原則的なルールであり、労使間で残業や休日労働について協定を締結し労働基準監督署に届け出る、いわゆる36協定(時間外労働・休日労働に関する協定)という手続きを踏めば残業をさせてもいいことになっています。

ところで、残業代の計算方法のおさらい

 残業、つまり法律で定められた労働時間枠を超えて働かされた場合は、相応の賃金割増がもらえることになっています。たとえば、就業時間は9時~18時で、お昼1時間休憩がある1日8時間勤務のA社では、夜8時まで働くと2時間の残業となります。この2時間に対しては平均賃金の2割5分以上の時間外割増がもらえることになっています。

 また、このA社で残業が長引いて、23時まで働かされた場合は、22時以降の1時間は時間外割増2割5分+深夜割増2割5分の計5割増となります。ちなみに、休日労働だと3割5分以上の休日割増と規定されています。残業の多い会社に勤務されているようでしたら、割増賃金の計算がきちんと行なわれているか、ぜひ一度、自分の給与明細を確認してみて下さい。

2年分、サービス残業代を請求できる!?

 「ウチの会社ではサービス残業が日常化していて残業した時間分をきちんと給与に反映してもらっていない……」という声をよく耳にします。最近の調査では、大企業では3社に1社の割合で月100時間以上の残業があるとの驚くべきデータもあります。  在職中は「先輩や同僚も何も主張しないし自分一人のために職場の雰囲気を荒立てたくない」といった理由から、サービス残業について泣き寝入りせざるを得ない事情もあるでしょう。長時間労働の解消や労働時間の短縮が声高に叫ばれ続けていても、現実的にはなかなか残業は減っていかないのです。

 しかし、今までサービス残業していた分を取り返すチャンスはあります。それは、今勤めている会社を“退職”するタイミングです。実は、退職時に(もちろん支障がないなら在職中でも)2年分までさかのぼって残業代を請求することが法律上許されています。

どんなに忙しくとも、証拠を残そう!

 サービス残業代を取り戻すためには、まず自分の残業の実態を証明しなければなりません。そのために、日常からタイムカードのコピーをとっておくことをお勧めします。そしていざ退職する時には、会社の人事総務部へこのコピーの存在を伝えましょう。これで大半の会社は応じるはずですが、それでも前に進まないようでしたら、速やかに所轄の労働基準監督署に相談して下さい。こういった争いの際にはタイムカードは非常に強力な武器になりますので、軽視しないで必ずコピーをとっておくようにしておきましょう。

 また、今プロ野球の選手のように給与について年俸制を採用する会社も増えています。SE業界でも、いわゆる残業代込みのこの制度を導入しているところは多くなってきています。年俸制についてのよくある勘違いとして、労使双方が合意して年俸制で契約したら、会社は一切残業代を支払わなくていいと思っていることです。法定労働時間をオーバーして働かせている場合には、やはり前述の割増分をもらえるのです。この場合も、契約の残業時間超過分を把握し、証拠を残すようにしておくことが肝要となるのです。

中谷充宏氏

著者 中谷充宏
社会保険労務士・キャリアカウンセラー。
1967年大阪生まれ。
人事採用コンサルティングを主業務とするM&Nコンサルティング代表。同志社大学卒業後NTT情報システム本部(現NTTコムウェア)にてSE経験を積み、2004年に社会保険労務士開業。IT業界の人事労務問題解決に強みを持つ。現在、就職支援アドバイザーとして埼玉県の非常勤職員も務める。


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