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池田信夫の「サイバーリバタリアン」第20回

「働きアリ」の残業はもう報われない

2008年06月10日 11時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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「居酒屋タクシー」はよくないが……


 「アリとキリギリス」という有名なイソップの寓話がある。これはもとは「冬が来たら食い物がなくなるので備えが必要だ」という意味なのだが、日本では「まじめにコツコツ働けば、そのうち報われる」というたとえに使われている。こうした人生設計を可能にする長期雇用に支えられた労働倫理が、日本の高度成長を可能にしたといってもいい。

 しかし最近は「働きアリ」は、必ずしも尊敬されない。先週は、霞ヶ関の官僚がタクシーで帰るとき、ビールなどの接待を受けている「居酒屋タクシー」が問題になった。確かに、これはいいこととはいえないが、官僚たちの悲惨な残業を知っている私は、とても彼らを一方的に指弾する気にはなれない。

 日本の官庁にはキャリアと呼ばれる少数の幹部候補生と、圧倒的多数のノンキャリアと呼ばれる普通の役人がいる。ノンキャリアは5時になるとすぐ帰り、残業はほとんどないが、キャリアは毎月200時間以上残業するのに、残業手当は数十時間分しかつかない。労働組合も、キャリアは「特権さん」と言って、守ってくれない。



徒弟修業システムの崩壊


 ではキャリアは、なぜそんな長時間労働に耐えているのだろうか。それは出世が約束され、将来は70歳ぐらいまで天下りで役所が生活の面倒をみてくれるという暗黙の約束があったからだ。

 しかし5月28日に成立した公務員制度改革では、天下りは禁止されることになった。そうなると、50過ぎて転職できる人はほとんどいないから、「窓際」にならないためには30代のうちに転職先をさがさなければならない。

 このように若いときは低賃金で役所や会社に「サービス残業」などで組織に貯金し、管理職になってからは楽な仕事で、ゴルフや接待などいいことがあり、最後は高額の退職金や天下りでその貯金を取り返す、というのが日本の年功序列賃金の特色だ。

 こういう徒弟修業システムは、組織が成長を続け、終身雇用や天下りが保障されているときには機能するが、その前提が崩れると、働きアリは組織に奉仕しただけで、何もお返ししてもらえなくなる。

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