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電話/個人ISP事業は「4年後に6割縮退」、データ利活用基盤「SDPF」の拡充を軸に事業変革進める

「新たな事業モデル構築が急務」NTT Comの2020年度事業戦略

2020年04月30日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 NTTコミュニケーションズ(NTT Com)は2020年4月22日、2020年度の事業戦略説明会を開催した。代表取締役社長の庄司哲也氏は、2020年度の昨年9月に提供開始したデータ利活用プラットフォーム「Smart Data Platform(SDPF)」のさらなる拡充、注力分野/業種ごとのDXソリューション強化といった事業戦略やSDPFの導入事例、今後の新サービスの投入予定などを紹介した。

 また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴う社会活動の変化にも言及。平日昼間帯のインターネットトラフィックが約4割増加するなどの影響も出ているとしたうえで、社会インフラを支える公共性を持つ企業としての責務、さらには“ポストコロナ”時代を見据えたNTT Comとしての行動についても語った。

NTTコミュニケーションズ 代表取締役社長の庄司哲也氏。記者説明会はオンラインで開催された

テレワークや遠隔授業の影響、平日昼間帯のトラフィックは約4割増加

 庄司氏は冒頭、新型コロナウイルス感染症拡大と政府による緊急事態宣言の発表に伴う、NTTコミュニケーションズとしての現在の取り組みに触れた。同社では積極的なテレワークを実施しており、テレワークを実施する従業員の割合は84%に及ぶという(4月15日時点、派遣社員含む)。

 「新型コロナウイルスの感染拡大は、生き方や働き方、社会、家族といった“これまでの当たり前”をすべて、根本から見直さざるを得ないようなインパクトを持つものと思っている」

 NTT Comは民間企業であると同時に、国から「指定公共機関」にも指定されており、社会のライフラインである通信インフラを安定的に支えなければならない公共性を持つ組織でもある。庄司氏は「“つなぐ”という使命感を強く持ち、皆様の期待に応えていきたい」と述べる。

 ちなみに、テレワークや遠隔授業の実施が急速に広まったことで、同社のISPであるOCNが扱うインターネットトラフィックにも明らかな影響が出ているという。

 NTT東西のフレッツ回線経由のダウンロード通信量を見ると、感染拡大の影響が出る前(2月25日週)と比較して現在(4月13日週)の平日昼間帯は約4割(39%)もの増加となっている。ただし、それでも平常時の夜間帯ピークトラフィックを超える規模にはなっておらず、庄司氏も「通信回線のキャパシティは十分に確保しており、このまま安心して利用いただける」と述べた。

感染拡大前/後のOCNトラフィック量比較(NTT東西フレッツ網経由のダウンロード通信量)。平日/土日とも、特に昼間帯のトラフィックが増加。最新データは(Webサイトで公開されている

 “つなぐ”使命感のもと、遠隔授業や在宅学習への支援策も展開している。休校中の児童生徒の在宅学習を支援するために、同社の教育クラウドプラットフォーム「まなびポケット」を活用した「まなびをとめないプロジェクト」をスタートさせたほか、遠隔授業受講時の通信料負担を軽減するために、25歳以下の「OCN モバイル ONE」ユーザーを対象とした10GB無償提供も実施している。

固定電話/ISP事業縮退を補うため「2025年度までに新たな事業モデル構築が急務」

 昨年度(2019年度)の事業戦略説明会において、NTT Comの事業構造の変革は「まだ道半ばにある」「さらなるトランスフォームが必要」と語っていた庄司氏。今年度の説明会でも、事業構造の変革と新たなビジネスモデルの構築が「急務」となっていることを強調した。

 NTTグループが進めるPSTN(公衆交換電話網)廃止と“電話網フルIP化”は、2025年に完了予定だ。これに伴って全国一律の通話料金となるため、これまでNTT Comが担ってきた長距離通話(都道府県間通話)サービスの事業収益は「確実にダウンサイズしていく」。また他方で、インターネット利用が固定回線からモバイルへと徐々に移行しつつあり、個人向けISP市場全体が縮退していく中では「市場トップシェアのOCNも、今後は厳しい運営を迫られるだろう」と語る。

 「固定電話サービスとOCNを合わせた収益は、2024年度には2012年度対比で約6割減少すると想定している。こうした経営環境を考えると、2025年度のPSTN廃止を迎えるまでに、NTT Comの事業構造の変革と新たなビジネスモデルの構築が急務であると判断した。新事業を早期に立ち上げ、伸ばすことで、収益の減少を補っていくビジネス転換が必要だ」

 この「新たなビジネスモデルの構築」において、同社が大きな柱になるものと考えているのが、データプラットフォームサービスのSmart Data Platform(SDPF)である。庄司氏も「(SDPFを)持続的成長が可能な戦略基盤として育てていこうとしている」と、このデータ利活用ビジネスへの強い期待を語る。

 「SDPFを主軸に据えたビジネス展開によって、NTT Comは“DX Enabler”として、顧客企業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の実現、社会課題の解決に取り組んでいく」

2012年度/2018年度/2024年度(予測)の事業収益構造の変化。赤帯の「電話/個人向けOCN」の縮退は免れないことから、それを補う新たな事業の立ち上げが急務となっている

 2020年度はまずこの「SDPFのさらなる強化/拡充」を軸として、個別具体的な業界課題/社会課題の解決を図る「ソリューション提供能力の強化」、そして顧客やパートナーとの協業を通じた「新規事業の創出」の3つに取り組んでいくと、庄司氏は説明した。この3点を推進するために、今年度に入って組織の再編成も行ったという。

2020年度の取り組みとして大きく3つを挙げた。組織体制も見直している

インフラからアプリまで“フルレイヤー”の拡充/強化「Smart Data Platform」

 SDPFは昨年9月にローンチされたサービスプラットフォームだ。その強みについて庄司氏は、通信キャリアならではの「フルスタック」のサービス群をワンストップで提供できる点だと語る。データを収集/交換する多様な通信回線、データを蓄積/処理するクラウドインフラを自前で持ち、さらにその上位レイヤーのデータ統合/分析サービスやデータ利活用アプリケーションといったサービスと統合的に活用、管理できる。

Smart Data Platform(SDPF)を構成するフルレイヤーのサービス群

 ローンチからまだおよそ半年ほどだが、SDPFは「すでに多くの顧客から関心をいただいており、SDPFを利用したさまざまなプロジェクトも進行中」だと庄司氏は説明する。具体的な説明はなかったものの、採用顧客の例として三菱商事や鹿島建設、セブン-イレブン・ジャパン、中部電力パワーグリッド、NHNテコラスの社名を示した。

 前述したとおり、今年度も引き続き、SDPFを構成するサービス群の強化と拡充を行っていく。その主要な計画について、庄司氏は下位のレイヤーから順に説明していった。

 まずは、同社データセンターを“ネットワークデータセンター”として機能強化、拡充していく。顧客企業におけるマルチクラウドの利用が進む中で、データセンターには顧客企業と各クラウド事業者、IX(インターネットエクスチェンジ)やISP、通信キャリアの間をつなぐ、ネットワークの結節点=“ハブ”としての役割も強く求められるようになっている。

 こうした変化への対応のひとつとして、同社は昨年、首都圏データセンターにおいて国内3大IXとのダイレクト接続を実現した。今年度はさらに、関西圏のデータセンターでも同様に、ネットワークデータセンターとしての能力を拡充させていく方針だと説明する。

 「すでに関西圏で複数のデータセンター間接続を進めており、このデータセンターにクラウド事業者を誘致することで、データセンター内でセキュアかつ高速、低遅延なクラウド間接続を実現しようとしている。これによりクラウド事業者、クラウドユーザーとの間でエコシステムが形成されると考えている」

クラウドやIX、ISP、通信キャリア間をつなぐ“ハブ”となるネットワークデータセンターを志向し、今年度は関西圏のデータセンターを機能強化

 こうしたインフラを活用したネットワークサービスも強化する。マルチクラウド/SaaS間のネットワーク接続をオンデマンドで柔軟かつセキュアに構成できるサービス「Flexible Inter Connect(FIC)」では、新たにポータル画面から接続帯域をオンデマンドに変更できる機能を追加した。庄司氏は「クラウド間を閉域ネットワークで接続したい」というユーザーニーズが高まっているが、FICの接続先に他社クラウドが追加されることで、そうしたニーズにも柔軟に対応できると述べる。

Flexible Inter Connect(FIC)経由で他社メガクラウドへの閉域接続も可能にしていく方針

 また、SDPFにデータを収集するための、アクセスネットワークのサービスラインアップも強化していく。4月からはeSIMによるモバイル通信プランの提供を開始したほか、“ゼロトラストネットワーク”に対応するセキュアなSD-WANサービスについても強化していく。またローカル5Gについては、実用化に向けたさまざまな実証を行っており、ブリヂストンの製造現場ネットワークやラグビーグラウンド「アークス浦安パーク」での実証実験計画に触れた。

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