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これまでにない新しいビーコンの売り方を考える

メーカー発想という殻を打ち破る富士通のワークショップに参加してみた

2018年03月22日 07時00分更新

文● 北島幹雄/ASCII STARTUP 撮影●曽根田元

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 大企業がこれまで実施してきた流れから、突如まったく別の新しい開発物が生まれたらどうすべきなのか。アイデアの種を放っておかずに、きちんと育て上げるには何が必要か。富士通の新しいバッテリーフリービーコン「PulsarGum」をテーマに行なわれたワークショップに記者も参加。その特別レポートをお届けする。

新規事業を連続的に生み出すStartup Studio株式会社QUANTUMのオフィス内で開催された。一日のスケジュールは午前中インプット、午後アイデア出しというものだ

やわらかいけどカタい製品に求められた柔軟な発想力とは?

あくまで「世に出す前提」がいつもと異なる部分が発想のもとにあり、柔軟な発想を目的としている

 上記写真のようなさまざまなアイデアが、今回のワークショップ内で生まれた。だが、これらはいきなり生まれたわけではない。PulsarGumを活用したビジネスモデルの初期仮説を生活者発想で開発し、それを出し切るという目的で行なわれたものだ。イベントの中で最初に行なったのも、ワークショップ自体の目的共有だ。本記事では、その裏側を一緒になって体験してほしい。

今回、ビジネスモデル仮説を創出するワークショップのファシリテーションを務めたのは株式会社QUANTUMの金 学千(きむ はくちょん)氏

 最初にファシリテーターをつとめたQUANTUM金氏からワークショップ参加に際しての大事な心構えの説明があった。ワークショップでは考え込むのではなく、「Think<feel」として、迷ったら発言する、称賛の文化が基本となる。また、これまでなかった気づきを得て、それを糧にターゲットを規定し、そのターゲットが抱える悩みを解決するビジネスアイデア仮説を考えるのが重要だと説かれた。

 重視されるのは個人が抱える「問題意識・課題意識」だ。自分は欲しいけど、まだ世の中にないものを創る感覚があるとうまくいきやすい。「スタートアップ起業家もピッチイベントでは社会課題をプレゼンするが、極めて個人的な課題から事業がスタートすることが多い。最初はラフに書き始めてOK。他人の意見に影響を受けてビジネスアイデアを上書きするのもOK。正解はないので『真面目に遊ぶ』感覚で今日1日を楽しんでください」と金氏。

続いては自己紹介。富士通、QUANTUMの関係者に交じってASCIIも参加。当日は3チームで展開する

アイデアの可能性が眠る独自製品「PulsarGum」

PulsarGum

 次は、そもそも富士通がつくったPulsarGum(パルサーガム)とは何かについて。名前の由来は、パルス(信号)を出すガムだ。柔軟性がありながら小サイズのぐねぐねしたボディが特徴的だ。同製品が持つキーワードは4点ある。

 まず第1に重要なのが、「バッテリーフリー」という点だ。ビーコンというと、電力供給が必要なハードだが、PulsarGumは太陽などの光エネルギーで発電が可能なハーヴェスティング能力を有している。将来的には、机の室内の薄暗い机の下など、わずかな光があれば発電が可能というレベルを目指すという。

 第2のキーワードは「フレキシブル」。特殊なゴムで覆われた形状のため、軽く、曲げることができ、衝撃に強い。屋外設置など、環境的にビーコンが想定されてなかった場所でも力を発揮できる。

 第3は、「一意のIDを持つ」点だ。個々のモノや場所を識別するために割り振られた固有識別番号である国際標準ucodeを採用している。そして最後に第4キーワードが「セキュア」だ。はがれ落ちることがあっても、破損や危険性がない。

 以上の特徴から、長い期間にわたって定期的にIDを発信できる。またIDが単一のため、サービス業者をまたいだプラットフォームも作れる。この先では低照度環境下や屋外での利用を想定した開発を進めているという。

ワークショップ時のPulsarGum基本データ

・太陽光/照明光があるところで活用 ・約1秒に1回の通信 ・約5グラム ・防水 ・移動体、固定用途でも対応。人間の速足くらいは大丈夫。乗り物・自転車の検知は難しい ・電波の到達半径10メートル ・子機中継も可能 ・ファーム書き換えは不可

さまざまなインプットを経て実際のアイデア出しへ!

 本ワークショップで提供されるのはPulsarGumの情報だけではない。まずは”Becon事例集”でこれまでの主なビーコンの利用事例を基本としてチェックする。続いては、”世の中を席巻しているスタートアップ事例集”。シェアリングエコノミーやフリーミアム、海外でのビジネス情報から発想の刺激を得る。

 そして最後にアスキーからもインプット。今回は主にICタグ・無線通信関連でのビジネス動向・発展性・事例を説明した。

 たとえばリアル店舗でのマーケティング支援ツールとしてiBeaconなどの販促サービスが現れたのはもうだいぶ前。大手企業による事例発表もあったが、現実にツールが爆発的に成果が上がった、という報告はあまり目にしない。むしろ、映像解析やAI利用での変化、無人店舗など、「オムニチャネル」どころではない動きが世の中の耳目を集めている。今回のPulsarGumについても、従来の狭い範囲のビーコンからの拡大・脱却が求められるべきところだ。

午前が終わってランチ休憩。情報を盛り込みまくったので、ここから先は吐き出すだけ

 以上のインプットセッションを経たら、各チームでの”気づき”発表へ。思いついたことを何でもいいから、ひたすらポストイットへと吐き出す。

アイデアの源泉になる部分が早くも現れはじめている

 続いては、フレームワーク、いわゆる発想法の説明に移る。気づいただけではなく、いかにそれらを実際のビジネスアイデアまで昇華させるかのテクニックが解説された。今回のワークショップで採用されたのは、「強制マトリクス発想法」による検討と、「ビジネスモデル初期仮設シート」によるアイディエーションだ。

 参考までに「強制マトリクス発想法」を紹介すると、そもそもアイデアとは、既存の発想の掛け合わせでしかない。そこで、これまでの気づきから縦横での軸を作り、各々の気づきを一目でさまざまな項目とぶつける。ただのアイデアだったものが、一定の条件を与えられることでよりビジネスモデルに近づいてくる。参加者の多様な観点を活用し、ここまでの成果をうまく使ってアイデアを各チームがひねり出した。

ビジネスモデル初期仮設発表

 各チームが発表したアイデアは以下のとおり。その一部を紹介する。

●チームA

・バーチャル土産
・CD、DVDへのオリジナルコンテンツ
・エンゲージメントリング
・先回りコンシェル
・売り切れセンサー

シンプルな店舗ソリューションとしての「売り切れセンサー」や、ライブで来場者エンゲージメントがわかるファン承認アイテム「エンゲージメントリング」などを発表。

●チームB

・幸せランドセル
・追っかけ(仮)
・靴
・スキーレンタル

「幸せランドセル」ランドセルと自販機でのエリア見守りシステム。地域、既存のベンダーとのコラボを狙う

●チームC

 こちらは、3つの軸に分けてプレゼンを行った。

1.「案内」を軸
・イベントキット
2.「確認」を軸
・高齢者、子供、動物などのセンシングデバイスとしての利用
3.「個人to多数」を軸
・後付け型インテリジェントエレベーター

「後付け型インテリジェントエレベーター」利用者が多い駅のエレベーターで一番乗りたい人が乗れないケースを防ぐ仕組み。貸出ベビーカーが優先される仕掛けをビーコンで行なう

 最後にBiz視点(ビジネス化を推進していくべき視点)とPR視点(世の中に広まりそうな視点)で参加者全員が各アイデアに投票を行なった。

 さまざまなアイデアが出されたが、QUANTUMによれば「途中でだめだったものが蘇りもする。掘っている視点に傾斜をかけ、改めて全体を振り返るのも重要。ワークショップでの多数決の論理でまとまらない部分があるのでそこもキャッチアップする。技術的な検証、組む相手の整理はこれから」とのことだ。

自社だけでは見つけられないものを探して

 仮説を出したあとは、参加者全員で”未来の約束”発表へ移った。ビジネスモデル初期仮設の内容から、世の中に出たとして、こんな形で記事などの媒体に露出していればいいというものを考える。PRのネタとしても使えるが、それ以上に関係者全員がビジュアルで未来を夢想するというのは、とてもわかりやすい。このような”出口”発想によるプロセスは非常に大事なポイントだ。

 テクノロジーだけでビジネスはできない。B2Bでの既存に沿った方法論はわかりやすいが、一方で、一度考えを解きほぐすような見せ方も非常に大事だ。あとからわかったことだが、パルサーガム自体はいわゆる個人の研究活動での産物だった。B2Bでの展開は当然あったが、それだけで終わらせるのはもったいない。今後の各種企業などとの取り組みでも、さらなるアイデアでの利用方法が生まれることに期待したい。(参照記事「研究者の思いから生まれたバッテリーフリービーコン開発の裏側」)

富士通株式会社 中川卓郎氏

 ワークショップの最後には総評として、富士通株式会社の中川卓郎氏が下記のように述べた。「富士通でも、アイデアはそれなりに出るがどうしてもB2B向けで、社内だけだったら、製造業の工場部品メーカーという既存ビジネスありきの発想になってしまう。今回のワークショップ開催の背景は、違う発想でないと出てこない、という部分がほしかった。発表の中でも特に、とがったものを受け止める方法が体験できたのが大きい。あくまで今日はスタートであり、今日の発想のようなスピード感と、柔らかい発想で事業には取り組んでいきたい」

■関連サイト

PulsarGumの開発秘話をお届け!
3/22『IoT&H/W BIZ DAY 5 by ASCII STARTUP』

 2018年3月22日(木)に東京・赤坂インターシティコンファレンスにて、IoT/ハードウェアの最先端スタートアップ・キーマンが集う体験展示+カンファレンス+ネットワーキングイベントを開催します。PulsarGumはどのようにビジネスとして立ち上がったのか。大企業の中で新たな技術を生み出し、新規ビジネスを立ち上げ、加速していくアプローチについてのセミナーも開催。詳細記事はコチラから!

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