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IoT&H/W BIZ DAY 5 by ASCII STARTUP第29回

IoT&H/W BIZ DAY 5 by ASCII STARTUPレポート

富士通発「自主プロジェクト」から生まれたオープンイノベーション

2018年04月06日 09時00分更新

文● 柳谷智宣 編集●北島幹雄/ASCII STARTUP 撮影●曽根田 元、柳谷智宣

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 2018年3月22日、IoTやハードウェアのブース展示&ビジネスカンファレンスイベント「IoT&H/W BIZ DAY 5 by ASCII STARTUP」が開催された。今回は、そのなかで行なわれたセッションC「自主プロジェクトから生まれた”触ってみたくなるビーコン”富士通PulsarGumのビジネス開発への挑戦!」の様子をお伝えする。

赤坂インターシティコンファレンスにて「IoT&H/W BIZ DAY 5 by ASCII STARTUP」が開催された

柔らか素材を採用したバッテリーフリーのビーコン「PulsarGum」

 本セッションは、富士通が手がける太陽光発電で動作する新型ビーコン「PulsarGum」が生み出され、ビジネス開発に至るまでの経緯がテーマとなっている。富士通の技術力を活かした製品ではあるが、大企業の中からベンチャー的なアプローチでプロダクト/サービスが出てくるのは珍しい。新規ビジネスの立ち上げと加速、そしてオープンイノベーションのヒントについて紹介してくれた。

 登壇するのは、富士通株式会社テクノロジ&ものづくり事業本部ものづくりソリューション事業推進室長 中川卓郎氏、富士通アドバンストテクノロジ株式会社 複合実装技術統括部、デバイス実装技術部、マネージャ、技術士 馬場俊二氏、株式会社富士通研究所 IoTシステム研究所フィールドエリアネットワークプロジェクト主任研究員 中本裕之氏、そして、ASCIIの北島幹雄氏の4名。ファシリテーターは株式会社QUANTUMの金学千(きむ はくちょん)氏が務める。

登壇するのは、「PulsarGum」を生み出した3人と、ASCII STARTUPより北島
ファシリテーターは株式会社QUANTUMの金学千(きむ はくちょん)氏

 まずは、QUANTUMの金氏やアスキーも一緒に登壇している理由を中川氏が説明してくれた。中川氏は、普段ソリューションビジネスを手がけており、その中で「PulsarGum」を世の中に広めるという活動を行っている人物だ。

 「アスキーさんの展示会に富士通が出るのは、違和感があるのではないかと思います。もともと、富士通もオープンイノベーションに向かう中で、ハッカソンをやって色々新しい取り組みをしています。そこに金(きむ)さんがファシリテーターをされていて、そのつながりから、こんな面白いデバイスはアスキーの展示会に出すべきだよ、という話になり、QUANTUMさんとアスキーさんと富士通という、なかなか珍しい組み合わせが生まれました」(中川氏)

 QUANTUMは、スタートアップスタジオだ。スタートアップスタジオとは、おもに西海岸で注目されている新規事業を連続的に立ち上げる事業体のことで、外資コンサル、広告会社や商社出身のビジネス・ディベロップメント、大企業出身のエンジニアなどダイバーシティのある人材を揃え、一気通貫でビジネスを創って回して着地させられるのが強み。新規事業開発を超高速でLEANに回していくのが特徴で、今回「PulsarGum」でもその仕組みを活用し、プロジェクトを推進したとのこと。

富士通株式会社テクノロジ&ものづくり事業本部ものづくりソリューション事業推進室長 中川卓郎氏

 「PulsarGum」は太陽光パネルを搭載しているので、配線が不要で電池交換もしなくていいのが特徴。シリコン素材で作られているので曲げられるのもユニークだ。ヘルメットや柱といった曲面にも設置できる。軽いので、万一落下して人に当たっても安全というメリットもある。

 「ビーコンはたくさん設置して活用するデバイスですが、多ければ多いほど、電池交換が面倒になります。そこを解放できるというのが大きいと思います」(中川氏)

まさにガムの形をした「PulsarGum」

興味本位からスタートした「自主プロジェクト」が「PulsarGum」を生み出した

 将来が楽しみな「PulsarGum」というプロダクトだが、富士通のとしての計画されたプロジェクトから開発されたものではないというのがユニークだ。その誕生秘話について、中本氏と馬場氏が語ってくれた。中本氏は、現場で取得したデータをゲートウェイやクラウドへつなげるために必要なIoTデバイスの電源技術の研究開発をしており、馬場氏は実装技術が専門で、ビーコンの構造開発を担当している。

 「PulsarGumの発想は実験室で生まれました。IoTのデバイスをたくさん使ってサービスするという技術トレンドが広がってきました。技術開発が進み、太陽光発電の電力が大きくなり、ICの消費電力が下がってきて、発電と消費の関係が逆転しました。その時に、何か違うことができるだろうというのがトリガーです。興味本位から始まったんです」(中本氏)

 そこで、中本氏は家庭用のインクジェットプリンターと銀のトナーで基盤を印刷し、とりあえずやってみることにした。富士通からプロジェクトをアサインされたわけでなく、ボトムアップ的にスタートしたのだ。

IoTシステム研究所フィールドエリアネットワークプロジェクト主任研究員 中本裕之氏

 「作ったものを上司に見せたところ、そこで「どんなビジネスになるんだ」と否定されたらそこで終わっていたかもしれませんが、『実装とか詳しい人がいるので、相談してみたら?』と言ってくれました」(中本氏)

 そこで紹介されたのが、実装を手がける馬場氏となる。

 「突然、中本さんから連絡があって会ったところ、手作りされた基板を見せられました。もうちょっとなんとかできるな、と思ったのが始まりです。私はRFIDタグの開発をやっていたので、ずっとゴムを扱っていました。そこでボツになった技術があって、それがハマるのではないか、と思いつきました。では、試作してみましょう、と」(馬場氏)

富士通アドバンストテクノロジ株式会社 複合実装技術統括部 デバイス実装技術部 マネージャ 技術士 馬場俊二氏

 中本氏は、馬場氏から見せてもらった素材を触り、「いける」と感じた。同時に、回路の消費電力を抑えたり小さくしなければいけないとも思ったそう。

 「特別なものはないのですが、汎用的な材料をうまくスパイスを入れて、美味しくするという感じです」(中本氏)

 「ゴムは普通に売られていますし、珍しい素材ではないのですが、デバイスにゴムを使うというのは変わっていると思います」(馬場氏)

 さらに詳細な裏側などは「研究者の思いから生まれたバッテリーフリービーコン開発の裏側」でも紹介しているのぜひチェックを。

 話がトントン拍子に進んだのは、話をする段階で、中本氏が家庭用のプリンターで作った試作機があったからだという。さまざまな人に見せたところ、みんな面白いねと言ってくれたそう。「逆に誰も止めてくれなかった笑」と馬場氏は笑った。開発は、空いている時間を使って進められた。

 「富士通という会社は通信会社から始まったんですが、今から50年以上前に有志が自主的に始めたコンピューター開発が、主力事業になったという経緯があります。自主的に何かをやり始めるDNAは、今まで引き継がれているのかな、と感じます」(中川氏)

 富士通社内でも、まだ浮上していないプロジェクトで研究活動していることを、いい意味で「ヤミ研」と呼んでいる。

 「ほかの大手企業でも「ヤミ研」をしている話は聞きます。ヤミ研発のプロジェクトを日曜日に動かし、立ち上げるに当たってベンチャーを起業するということもあります」(北島)

 ここで、会場の参加者に「自分の会社でヤミ研が動いている人」と挙手を求めたら、数は少なかったが数名の手が挙がった。

「PulsarGum」は自主的なプロジェクトから生まれた

 「PulsarGum」が完成すると、中川氏にビジネスをしましょうと話がいった。だが中川氏は「PulsarGum」が作られていることはまったく知らず、あるとき「ビーコンを作ったので海外に売りたいから型番を取って」と言われたそう。「言われた瞬間は、ビーコン? 正直やりたくないな、と思いました」と中川氏。

 「それもモノを見るまででした。PulsarGumに触った瞬間に、ビーコンという既成概念とは異なるモノだと本能的に感じたわけです。これは、面白そうだと発想が変わりました」(中川氏)

 社内でも何かを知ってもらいたい場合は、とにかく触ってもらったり、体験してもらうということが効果的ということがわかるエピソードだ。

外部のナレッジを活用してプロジェクトをLEANに加速する

 研究所から「PulsarGum」のプレスリリースが出た後、技術者からの引き合いは増えたという。しかし、技術の話をしたり、いいねと褒めてくれたところで終わってしまうことが続いた。半年くらいその状況が続き、中川氏はこのままでは広がりにくそうだ、と感じた。

 そこで「Re-BOOT」ということで、QUANTUMとASCIIが本プロジェクトに参画することになる。

 「外部のナレッジを活用して、ゼロからアイディエーションしていこうと考えました。PulsarGumの可能性を如何にして広げられるか苦心しながらワークショップをデザインしました。」(金氏)

 メソッドの1つとして、マトリックス強制発想法を使い、1人ひとりが出した小さいアイディアの断片をチームで形にするというユニークな手法を採った。とにかく新しい体験をデザインし得るアイディアを出しまくり、精査は後日にするというルールもたった1日でアイディアを出し切るために役に立ったようだ。この様子は「メーカー発想という殻を打ち破る富士通のワークショップに参加してみた」で紹介している。

 「印象に残ったのは『追っかけ』というアイディアです。アイドルが行ったことのあるところにファンの旅行者が行ったら、そこにPulsarGumが貼ってあって、スマホをかざすとそのアイドルと一緒に写真に写れる、といった体験型の支援ができるのではないかと思いました」(中川氏)

 ワークショップの後に、中川氏がアイディアをチェックし、実際に外部と実証実験を行なおうとしている。たとえば、医療分野では患者さんの手首や足首にビーコンを装着しておけば、個人を確認する手間が省けるという。ほかには、製造業などのプラントの中で、誰がどこにいてどう動いているのかを把握することもできる。

まる1日かけたワークショップで「PulsarGum」の可能性をブレストした
可能性のあるアイディアを実証実験として採用した

 本セッションでは既存の技術を組み合わせた新しいデバイスが、自主プロジェクトから生まれ、外部の力をフル活用しLEANに進めていくというプロセスが紹介された。この取組みは欧米のやり方をそのまま取り入れるのではなく、ある種、日本企業に適した形に可変させた「日本流オープンイノベーションによる挑戦」と言える。今後も、富士通だけでなく、技術力のある他の国内企業でもこのような挑戦が増えれば、新規事業の成功確立がUPするのではないだろうか。

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