聴き取りやすさと広い音場感がすごい
実際に音を出してみると、想像とまったく違っていた。この印象は後に変わることになるのだが、まず音の迫力自体は大したことがない。首からかけるボディーソニックのようなものを期待していると裏切られる。
最初に感じる利点は、スピーカーが近いことから、それなりの明瞭度が確保されていること。映画のセリフ、ニュースやラジオ番組の音声などは聞き取りやすい。薄型液晶テレビの音声の聞き取りにくさから、つい音量を上げ過ぎてしまうお年寄りには、ぜひ使って欲しいところ。
美点は左右の音の広がりにも感じられる。ソースにもよるが、時折疑似サラウンドでも効いているのかと思えるくらいのステレオ感で、間隔の狭いスピーカーから出ている音像とは思えない。長いスリットによる拡散効果のおかげか、首を回しても、その音場感が大きく変わらないのもいい。
気を付けなければならないのは、再生音は回りにダダ漏れであること。ヘッドフォンと違って、自分が聞いている音量がほぼそのままの状態で周囲にも聞こえている。それでもモニターから離れて映画などを見る場合、モニター内蔵のスピーカーよりずっと低い音量で楽しめる。それがメリットだ。
振動を低音として感じるには慣れが必要?
おもしろいのは、低域の伝わり方だ。たしかに低域の信号は振動に置き換わっているが、決して重低音が身体に響く体感マシーンという感じではない。
最初はスピーカーが当たる鎖骨の一部分と、首の後ろ側がマッサージされるような感覚で、なにやらむず痒いだけ。それが徐々に、振動を感じるたびに「いま重低音が来たぞ」と、条件反射的に理解する感覚が育っていく。
だから短時間の試聴では、十分に良さが伝わらない可能性もある。鎖骨に伝わる振動を重低音と認識する感性が備わっている人類は、おそらく稀だ。かつてのボディーソニックがわかりやすかったのは、重低音を感じる部分が「ヒップ」だったからだろう。
もうひとつの懸念は、人によってはこの振動が気持ち悪がられるだけかもしれないということ。そこでスピーカー側の操作部に、振動の強さを「弱中強」と三段階に切り替えるスイッチがあり、弱にすると振動はほぼ伝わってこなくなる。振動がなくても、薄型液晶テレビの聴き取りやすさ向上には大きなメリットがあるので、このスピーカーを使う意味は大きい。
ヘッドフォンのような煩わしさもなく、またスピーカーのように音量を上げる必要もない。家族との会話の妨げにも、迷惑にもならない。あるいはテレビの音に不満はあるものの、本格的なスピーカーセットは高いし置く場所もないという方には、ぜひ試していただきたい製品である。
余談: シンセと相性がいい
さて、ここから余談だ。こんなことを書くと真面目な方から怒られそうだが、これがわかる人には大真面目に試してほしいと思っている。
SRS-WS1を気持ちよく鳴らせるソースをいくつかあたってみた結果、自分で操作するシンセサイザーを鳴らすと、とても気持ち良いことがわかった。シンセと言っても、最近はiOS向けのアプリに優秀なものがある。筆者のオススメは、iPadのみの対応になってしまうがArturiaの「iSEM」というアプリだ。Oberheimを模した分厚いサウンドが特徴で、素の音の迫力がすごい。
このシンセで低い周波数を鳴らし、モジュレーションのツマミをぐいぐい回すと、SRS-WS1は本当にマッサージ機のように機能するので、まず気持ちいい。そこにコーラスエフェクトをかけると、このスピーカー独特の広いステレオ空間が効果的に働き、予想外に大きな音場が現れ、それが回り始めるのでおもしろい。結果として低域のマッサージ効果とともに、最高の没入感が得られる。これは最高の癒やしだ。
ご参考までに。
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著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)
1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ