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SAO Future Lab第5回

SAOコラボのIoTけん玉「電玉」設計秘話

2017年09月29日 08時00分更新

文● 柳谷智宣 聞き手・編集●北島幹雄/ASCII STARTUP

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ASCIIとベンチャーによる『ソードアート・オンライン』コラボプロジェクトである「SAO Future Lab」。今回は、製品化が決定し、予約受注を受け付けている「電玉SAO EDITION」を取り上げる。開発の裏側には何があったのか、スタートからのコラボ企画まで道筋を明かす。

 「けん玉」は、日本発祥の子どもの遊具。木製のけんと、ひもでつながった穴の開いた球で遊ぶ、あのけん玉だ。だが、じつは数年前から世界中で大ブレイクを果たしており、ストリート系スポーツとして、ワールドカップが開かれるまでになっている。

 日本でもじわじわと再ブレイクの雰囲気はあるのだが、このけん玉をIoT化したのが「電玉」だ。株式会社電玉は、御徒町を拠点とするスタートアップで、創業は2016年の2月。

『ソードアート・オンライン』×スタートアップコラボレーションプロジェクト「SAO Future Lab」第1弾製品、SAOコラボ版限定カラー「電玉SAO EDITION」

 今回は、SAOコラボを記念して株式会社電玉 代表取締役の大谷宜央氏にその誕生からの話を伺った。

株式会社電玉の大谷宜央代表取締役

ハッカソンの途中で「KDDI ∞ Labo」に応募・通過してしまう

 電玉の誕生は、2015年8月。あるハッカソンへの参加がきっかけだった。

 じつは大谷氏は2015年当時、大手メーカーの企画を試作する部門で働いていたのだが、製品が世に出ない状態が続いていた。最終的には、すべてのプロジェクトが世に出ないまま終了し、会社全体のムードも暗くなっていたという。

 IoTでのけん玉という楽しいアイデアが生まれたのには、対象的な背景もあった。

大谷氏(以下、敬称略):会社を辞めることも決まり、あらためて物づくりの楽しさに触れたいなと思っていたんです。それで息抜きがてらハッカソンに参加しました。

 ハッカソンの初日は、動き回る杖みたいなものを考えましたが、公園でシニアの人たちと話していると「最近の若い子は遊んでくれない」という声を聞きました。そこで、昔ながらのおもちゃにゲーム要素を加えれば、大人と子供が一緒に遊べるようになると考え、けん玉というアイディアが生まれました。

 現在電玉にいるメンバーは全員ハッカソンで知り合った経緯をもつ。チームは大谷氏のほか、ハードウェア担当がふたり、デザイナーがひとり、アプリがひとり、さらにプランナー・企画がひとりという構成だ。

 そして、このハッカソンからいきなり状況が加速する。デモをお披露目するハッカソンの2日目は2週間後だったのだが、イベントへの後援を行なっていた「KDDI ∞ Labo」アクセラレータプログラムにチームとして申し込むと、ハッカソンでデモも見せていないにもかかわらず選考に通ってしまうことになった。

 「KDDI ∞ Labo 第9期」への参加は翌9月からスタート。プログラムが終了してすぐの2016年2月に会社を設立して、3月にクラウドファンディングを開始する。Makuakeで99万円を目標にしたが、102人のサポーターが付き成功。量産に向けて動き出した。

大谷:けん玉を作りはじめようと思ったとき、市場性とかは知りませんでした。それでも昔からあるおもちゃだし、ある程度小さくやる分にはなんとかできるかもしれないと思っていました。でも調べて見たら想像以上の広がりと、市場性があったのでビジネスとしても本気でやろうと考えたんです。

 米サウスバイサウスウエストやけん玉ワールドカップに持っていって実際に遊んでもらい、楽しんでもらったり、クールだという感想をもらったりという。現在は第1弾製品がすでに発売されており、Amazonなどで購入できる。

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耐久性、センシング……シンプルな外観以上にハードな設計裏話

 衝撃が加わり続けるけん玉というおもちゃなうえ、小さなボディにセンサーやバッテリー、通信などのパーツを組み込むのはいかにもハードルが高そうだ。想像通り、実装にはとても苦労したそう。

大谷:けん玉はいろんな遊び方があるし、落とすこともあるので耐久性を高める必要があります。さらに、玉が乗ったことを判定するセンシングの精度も高めなければなりません。屋外でも室内でも、夏でも冬でも環境の変化に耐えられるような仕組みが必要です。乾電池だと取り替えるのが面倒なので、バッテリーを充電する仕組みなどを考えなければいけませんでした。

 「最も苦労した点は?」とたずねると、電玉のエンジニアリングを担当する大河原正篤氏が答えてくれた。「最初、ハッカソンのメンバーで試作品を作った時は、それらしいものができました。でもその後に、量産性の高い設計が我々ではできず、苦労しました。試作時と量産時の部品にばらつきがあるんです。そこをどう吸収するかが大変でしたね」(大河原氏)

 けん先や皿に玉が乗った際の検知は振動ではなく、磁界の変化から察知しているという。けん先と皿にコイルが4箇所入っており、電流を流す。玉にはメッキが施されており、その金属層がけん先に乗ると周波数が変化して、センサーで検出される仕組みだ。メッキの中には金属層が4枚あり、そのうちの1枚を検出しているそうだ。

 さらに、けん玉本体の姿勢も内蔵ジャイロで把握しているので、たとえばけんを横にして玉を手で皿に付けても「乗った」とはカウントしない。しかし、玉を下にして上からけんを突き刺す技があるのだが、この場合は加速度ジャイロで動きを検出し、けん玉の技として判定できる。ただ、このセンサーは温度が変わると反応も変わってしまう課題もあった。低い温度だと勝手に反応したり、暖かいと玉を載せても反応しなかったこともあった。現在では、それを回路上で抑える工夫も施されている。

 最初の試作品を見せてもらったところ、玉にはメッキではなくアルミが貼られており、なかなか重かった。ボディーは3Dプリンターで出力したもので、コイルは手巻き。ユニバーサル基板に自前で配線されたものだ。もちろん、製品時には大幅にブラッシュアップしたのだが、この試作品にえも言われぬ魅力を感じた。その後、初回ロットの製品は九州の工場で作られた。

大谷:じつは中国的なところで(笑)一回失敗してますから慎重にはなりますけど、いろいろ考えていています。国内が安かったら絶対に国内なんですが、一方で海外の最安値ではまたインパクトが大きく異なりますね。

「SAO Future Lab」に一番先に申し込み、第1弾として採用

 ASCII STARTUPでは、IoTやハードウェアスタートアップ企業を巻き込んだ共創企画「ASCII STARTUP ACCELERATOR」の一環として、「ソードアート・オンライン」(SAO)とのコラボプロジェクト「SAO Future Lab」を実施している。

大谷:私はもともとMMORPGは凄く好きで、『SAO』もファンです。特に世界観が好きで、自分が閉じ込められたらずっと最前線で頑張るでしょうね(笑)

 電玉を展開させるうえでも、いずれ何らかのコラボが必要だと考えており、ちょうど今回のコラボ募集を見てすぐに応募を行った。実は募集に一番先に応募してきたのが電玉だった。

 そして、2017年6月から「電玉SAO EDITION」の受注が始まった「SAO Future Lab」の第1弾商品となる。SAO本編の主人公・キリトがアプリ内ではアバターとして登場するほか、けん玉のワザを繰り出すという。ワザの組み合わせによって、ソードスキルも発動するというのだから本格的。すでにキリトの声を担当している松岡禎丞氏のボイスも録り下ろしている。

 デザインと開発は現在、鋭意進行中。もちろんけん玉の形というのは同じだが、LED部分が緑に光るようになる。さらに、ボディーも一回り小型化され、バランスもよくなるそうだ。ここからさらに小型化するのか? と思いきや、インタビューしている隣ではまさにその作業中だった。現在使われているエナメル線を、シート状のコイルに置き換えられるか検証中だったのだ。Bluetoothのモジュールも、新型のサイズは半分くらいになっていた。

 素材も樹脂ではなく、木材に近い質感を目指してテストをくり返している。実際に、竹と樹脂を混ぜて出力した材質を触ったが、本物の木材みたいな感触だった。燃やしても、木の匂いがするという。木製の皿に玉が乗ったときの音は、リアルタイムでスマホから鳴らすことも考えているそうだ。

大谷:せっかくSAO好きの人が買ってくれるので、ボイスもそうですが、もうちょっとSAOの世界に浸かれるようなアプリ仕様にしようと思っています。

アーケードへの設置、そしてAR/VRとの連携を目指す

 最後に、電玉を実際に動かして見せてもらった。

 電玉はスマホとBluetoothで接続する。無料の「電玉」アプリでは、チュートリアルや練習、ゲームなどが楽しめる。たとえば、「Practice Mode」では「電玉検定 10級 大皿」などがあり、大皿に載せれば合格。もっと難しいクエストをクリアしていく「Quest Mode」もある。ゲームとしては、落ちものゲームや陣取りゲームなどがある。CPU対戦はもちろん、ネットを介してほかのユーザーと対戦できるのもすごい。

 大谷氏は、ダウンスパイクから玉を中皿に載せて、もう一度ダウンスパイクを決める「天地二段」という技を披露し、勝利した。クリアしたり勝利すると経験値やコインが手に入り、アバターを着飾ったり、アイテムを入手したりできる。データを見ると、現在のユーザーは「Practice Mode」をよく遊んでいるそう。

大谷:普通のけん玉だとできないと飽きちゃいますけど、電玉だとゲームやクエストをできるところまで進めながら少しずつステップを進められます。その分飽きずに続けてもらえますね。

 今後は、現在の電玉では検出できないワザに対応して行きたいという。たとえば、けんと玉の間に乗せる「うぐいす」というワザがセンシングできないのだ。これは、SAO版で検出できるように研究開発中とのこと。さらに、加速度ジャイロのデータをディープラーニングで解析させ、いろいろなワザを判別させたいという。さらに、大谷氏は壮大なビジョンを語ってくれた。

大谷:今はけん玉とゲームとスマホをつなげるだけですが、やっぱりAR/VRとけん玉を組み合わせたいですね。離れたところにいるユーザー同士が、相手の動きを視界に入れつつプレーできるようにしたいです。近未来のeスポーツのトーナメント戦みたいなのを、SAOテイストでできたら面白いな、と。

 とはいえ、現状のAR/VRアイテムだと、スポーツをするには反応がやや遅い。そこで、前段階としてKinectセンサーを使った解析をして、現在の電玉だけではできないワザの判定を実現しようとしているそう。後は、スマホだけでなく、アーケードゲームまで作りたいと大谷氏は意気込む。

大谷:アーケードゲームとスマホアプリが連動し、練習してうまくなったらアーケードで見せたくなるというような、けん玉界を巻き込んだ動きになるといいですね。

 初代電玉は1万2980円で、SAO版の予約販売価格は1万6200円。インタビューで裏事情を聞き、さらに隣で内部をいじっているのを見ると、IoT機器としては安いとしか感じない。SAO好きの筆者も買おうと思っているくらいだ。だが、大谷氏としては今後さらに安価にしたいという。おもちゃとして、1万円を切るくらいになれば一気に普及すると見ているのだ。確かに、子供にプレゼントするおもちゃとしては最高だろう。

 大谷氏が公園でシニアの方と話したように、老人ホームと小学校にまとまった数を導入して、コミュニケーションに活かしてもいいのではないだろうか。けん玉の上手なお爺さんがいたりしたら大盛り上がりだろう。

 この先、新たな電玉のお目見えが楽しみだ。

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