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業界人の《ことば》から第250回

ソニーのテレビ事業は戦略転換によって反発招くが黒字化した

2017年06月20日 09時00分更新

文● 大河原克行、編集●ASCII.jp

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今回のことば

 「ソニーはなんの企業かと聞かれたら、ひとことで言えば『感動企業』。お客様に最も近い、ラストワンインチで感動をもたらす『KANDO@ラストワンインチ』を体現した商品を提供する」(ソニー・平井 一夫社長)

 ソニーは、2017年度最終年度とする第二次中期経営計画において、連結営業利益5000億円以上、ROE10%以上という数値目標を掲げており、この目標達成に意欲をみせている。

 平井 一夫社長は「2017年度は結果にこだわる重要な年である」と前置きし、第二次中期経営計画の数値目標の達成を最重要課題に位置づけた。

 ソニーが5000億円以上の営業利益を達成したのは、1997年度の5257億円の一度だけ。平井社長は「これは20年ぶりの利益水準であり、大きな挑戦である」としながらも、「この5年間の取り組みにより、目標達成を十分に狙えるだけの力がついてきた」と自信をみせる。

当然だが営業利益5000億というのはここ数年でも近い数字はない

 なかでも、「長年苦戦が続いてきたコンシューマエレクトロニクスが再生し、安定的な収益貢献が期待できる事業になったことが最も大きい」とする。

 コンシューマエレクトロニクス事業再生の代表例がテレビ事業だ。

 ソニーのテレビ事業は、2004年に赤字に転落して以来、10年連続での赤字を計上しており、この10年間の累計赤字は8000億円にも達した。

 だがソニーは、平井社長が副社長時代だった2011年4月に、自らがコンシューマエレクトロニクス事業全般として、戦略を大きく転換。従来の量の拡大によってコストをカバーし、赤字から脱却する戦略を捨て、事業規模が半分以下でも損益を均衡させられる体制へと事業構造を変革することを目指した。

 しかし、拡大路線からの180度の転換となるこの施策への反発が大きかったのも事実だ。

 「社内外から、その戦略で果たして本当にテレビ事業の損益が改善するのかといったように、疑問視する声が多かった」と、平井社長は当時を振り返る。

 逆風ともいえるなか、この施策を推進する平井社長を支えたのは「ソニーの創業以来のDNAでもある『規模を追わず、違いを追う』ことであった」という。平井社長が語るように、まさにソニー創業以来の基本姿勢を貫くという信念だった。

 「規模を追わず」では、ターゲットとする顧客層を絞り込み、販売台数はそれに合わせた規模に縮小。また、販売会社の費用を含めた固定費を大幅に削減。あわせて、テレビのなかで最も大きなコストを占める液晶パネルは、生産会社への出資を解消し、複数の企業から機動的な調達できる体制に転換した。

 「違いを追う」ことに関しては、「音と映像にとことんこだわり、徹底的な商品の作り込みを行ない、大型画面の高付加価値商品に注力した」とする。

 その結果、収益性も改善。「当時のソニーにとって最大の課題事業であった」とするテレビ事業は、2014年度には11年ぶりに黒字化。2016年度までに3年連続の黒字化を達成している。

 「テレビ事業は長年にわたる赤字の状況から、安定した収益が見込める事業に変革を遂げた。今後は持続的な収益創出に挑む」と、平井社長はテレビ事業の再生を自己評価する。

2011年の損益から見事に回復したテレビ事業

ソニーが新たに掲げる「KANDO@ラストワンインチ」

 コンシューマエレクトロニクス事業の再生の柱になったのが、「感動」を実現するモノづくりだといっていいだろう。 

 平井社長は社長就任以来、「感動」という言葉を何度も使っている。これは、日本における公式の場での発言だけでなく、米ラスベガスで開催されるCESや、独ベルリンで開催されるIFAのプレスカンファレンスでも日本語を交えて、「KANDO(感動)」という言葉を何度も使ってきた。

 一方で最近、平井社長が好んで使っている言葉が「ラストワンインチ」である。

 通信業界で利用されるラストワンマイルをもじった言葉で、顧客の一番近いところで、ソニーの商品が接点を持っていることを示している。

 「お客様の感性に訴える商品を開発し、それを世界中にお届けする。ソニーはお客様の体験のインターフェースとなる商品をつくり続ける。これがライストワンインチになる」とする。

 そして今回の経営方針説明会で新たに使った言葉が、「KANDO@ラストワンインチ」である。なんと、感動とラストワンインチを組み合わせてみせたのだ。

 平井社長は「ソニーがお客様に感動をもたらす場所は、お客様に最も近いところ、つまりラストワンインチである。機能面での圧倒的な差異化に加え、デザインや質感にもこだわった商品を投入する」とし、「今年春に発表した4K有機ELテレビのBRAVIA A1シリーズや、世界で初めてスーパースローモーション機能と4K HDRディスプレーを搭載したスマートフォンのXperia XZ Premium、フルサイズミラーレス一眼カメラのα9、そして、昨年商品化した業務用超大型ディスプレーのCrystal LED Integrated Structureなどは、まさにお客様のラストワンインチで感動をもたらすことができる『KANDO@ラストワンインチ』を体現した商品と自負している」と語る。

 経営方針説明会で「ソニーは、なんの企業か?」との質問が平井社長に寄せられた。

 これに対して、平井社長は、「ひとことでいえば、感動企業」と答えてみせた。

 「ソニーピクチャーズは、映像コンテンツを通じて感動を提供し、ソニー生命は生命保険の新たな提供の仕方を通じて感動を提供する。エレクトロニクスはハードウェアで感動を提供する。感動企業という言い方こそが、ソニーを表現する上位概念にある」とする。

 平井社長は「ソニーは、テレビやスマホなどのエレクトロニクス、ゲームや音楽、映画などのエンターテメンイント、生命保険をはじめとする金融の領域において、多様な事業を展開。事業のダイナミックレンジが広い希有な企業であり、これらの多様な事業ドメインにおいて、唯一無二のSONYというブランドのもとで、共通の価値観を持って運営していくことがソニーの強みである。多様に事業領域を有するソニーだからこそ、さらに有望な新たな事業を創出できると考えている」とする。

 そして、ここでいう共通の価値観が「感動」ということになる。

 平井社長が繰り返し使ってきた「感動」という言葉を具現化する商品が増えているのは確かだ。「感動」という言葉が、最も似合う企業へとソニーは変化しはじめている。

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