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エンジニア社長が語る「働きやすさ」と「働きがい」の違い

さくらの聖夜で田中社長が話したのは「エンジニアの働き方」だった

2016年12月28日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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12月22日、さくらインターネットはDMM.make AKIBAにおいて恒例となった「さくらの聖夜」を開催。20周年前夜の記念すべきイベントにおいて、さくらインターネット代表取締役社長の田中邦裕さんが講演のテーマとして選んだのは「ITエンジニアの幸せな働き方」だった。

さくらインターネット代表取締役社長の田中邦裕さん

ロボットエンジニアがネットの世界に飛び込んだ20年前

 会場に現れた田中社長は、まず集まった聴衆に感謝するとともに、12月23日でさくらインターネットが創業20周年を迎えることを報告。ファンだらけの会場からは大きな拍手が起こる。小さなときの夢がロボット作りだった田中さんが、ロボコンに出るために高専に進学したのが1993年。「もともとはロボットのエンジニアだったんですが、インターネットに触れていたら、そちらの方が楽しくなってきた。自分にやりたいことをネットにあるなと感じ、サーバーを立てて、友達に貸していたら、趣味が高じて、さくらインターネットを起業することになった」ということで、18歳のときに京都の舞鶴で起業したという。

 ここまで話しておいてスライドが古いことに気がついた田中さんは、最新版を用意するための10分のインターバルを経た後、「逃げるは恥だが役に立つ」のロケ地でさくらインターネットのオフィスが使われたことをアピール。続いて真面目な話としてエンジニアの働き方について語り始める。

働きやすいのにエンジニアはなぜ転職してしまうのか?

 エンジニア社長としておなじみの田中さんが働き方について真正面から語るのはおそらく初めてではないだろうか。田中さんは記念すべき20年目のさくらの聖夜にこの話を持ってきたきっかけとして、2年前の「CROSS 2015」と「JAWS DAYS 2015」での働き方に関するセッションがあったと述懐する。「LINEを辞めてトレジャーデータに行った田籠さん、AWSを辞めた堀内さんと、ITエンジニアの幸せについて語る座談会があった。2人ともいいお給料をもらっていただろうし、エンジニアとして幸せだったはず。それでも転職したのにはなにか理由があるのではないか?」(田中さん)というのがセッションの出発点だ。

働きやすさと働きがいを考え直すきっかけとなった2つのイベント

 この中で出てきたキーワードが「働きやすさ」と「働きがい」だ。「この2つには似て非なるものがある」と語る田中さんはそのときのスライドを元に、両者を分類する。働きやすさに分類されるのは、「給与が高い」「(時短や育休などがとりやすく)プライベートが充実している」「安定した雇用体系」「ツールが充実している」「食事が出る」「勉強会に出やすい」など会社が用意できる制度やサービス。「CROSSは平日の昼間にやっているが、参加者に聞いたら、けっこうな人が有休を取得して参加していた。一方で、有休とれるだけいいじゃないかという声もあった」(田中さん)ということで、決して働きやすいとは言い難い環境でエンジニアは働いている。

 一方の働きがいは「成長できること」「チャレンジできること」「周りの人から刺激を受けられる」「承認欲求が満たされる」などが当てはまる。こちらは会社が用意するものではなく、働いている人同士がお互いに供給し合わなければならない。田中さんは「アットホームで、明るく、働きがいのある会社ですという求人なんて、どう考えてもブラック(笑)。ことさら働きがいを強調するのは、働きやすさの隠ぺいだと思う」とコメント。

働きやすさと働きがいは異なる要素

 こうして見てみると、働きやすさと働きがいが決してイコールでないことがわかる。「働きやすさのランキングでは大手のメーカーがランクインするが、働きやすさになるとGoogleやYahoo!が上位に出てくる」(田中さん)。こうした分類を頭に置いて、前述した堀内さんや田籠さんの例を見ると、両者の違いは浮き彫りになる。「働きやすさが満たされても、働きがいを探して次の職場に移ることがあるんだというのが、彼らから学んだこと」と田中さんは語る。

働きやすさと働きがいは違う要素で構成される

 田中さんはさらにこの働きやすさと働きがいを深掘りすべく、フレデリック・ハーズバーグの二要素理論を紹介する。これは簡単に言えば、満足と不満足はそもそも同じ尺度で測ることができず、「満足が増えたからといって不満足が減るわけではない」、逆に「不満足が減ったからといって満足が増えるわけではない」という関係にあるという理論だ。

仕事に対する「満足」と「不満足」は、それぞれ独立した要素で構成されている

 仕事に関しても、働きやすさは「衛生要因」、働きがいは「動機付け要因」と呼ばれるもので両者は異なる要因になる。マズローの欲求ピラミッドに照らしても、働きやすさの元になる衛生要因は給与や雇用といった下位のレイヤーに位置し、働きがいの元になる動機付け要因は承認欲求など上位のレイヤーを充足する。「不満を解消するのはもちろん大事。でも、ブラック企業は不満足を満足で覆い隠すという荒技をやってしまう」と田中さんは指摘する。やりがいのない仕事や自由の利かない職場であっても、給料がいいから、福利厚生が篤いからという理由で会社にしがみつく人は多いのが実態だ。

 実際、同社が調査した「12の調査で報告された勤務態度に影響を与える要素」では、満足をもたらした1753件の要素のうち81%が達成、承認、仕事自体、責任、昇進など、動機付け要因に起因するもの。一方、不満を招いた1884件の出来事の要素のうち69%が衛生要因に起因しており、会社の方針や上司、労働条件、給与、同僚との関係などが働きやすさの欠如に直結している。つまり、両者は要因が全然異なっており、働きやすさだけではなく、働きがいにも注力しなければ、エンジニアはすぐに転職してしまうことになる。「昔のスタートアップは働きがいのみ注力していたが、メルカリやソラコムなど最近のスタートアップは働きやすさにも非常に注力している。人生を捨てても起業みたいな世界ではなくなっている」(田中さん)。

満足をもたらすのは動機付け要因に起因。不満は上司や会社の方針に起因することも多い

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