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田中社長に聞いたコミュニティ、人材登用、パートナー施策、R&Dの意義

さくらインターネットがクラウド市場で負け組にならない理由

2015年10月29日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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Amazon Web ServicesやMicrosoft Azureなど外資系の事業者が圧倒的な存在感を誇るクラウド市場。こうした中、気を吐いているのが、さくらインターネットだ。コミュニティ、人材登用、パートナー施策、R&D、スタートアップ支援など矢継ぎ早に繰り出される施策、そして全体を貫く「熱量」と「寛容さ」について田中邦裕社長に聞いた。(インタビュアー:TECH.ASCII.jp 大谷イビサ 敬称略)

われわれ以外の人たちで熱量を昇華させるものが必要だった

大谷:まずはユーザーコミュニティ「さくらクラブ」についてお聞きします。7月に鹿児島で行なわれたキックオフイベントにお邪魔したのですが、さくらインターネットファンの熱意と活気に驚きました。設立の意図についてお聞かせください。

田中:はい。「さくらの夕べ」もそうですが、今まではわれわれが主体でやっている活動がすべてで、ユーザーさん主体でやるイベントはありませんでした。今期のわれわれのテーマとして「熱量」というキーワードがありますが、今までは当社が熱量を注入していたんです。でも、今後はわれわれ以外の人たちの熱量を昇華させるものが必要で、われわれが触媒になっていくという立ち位置が必要でした。

もう1つは、今までこうした活動はサービスを販売するためのマーケティング的な側面がありましたが、今後はお客様にも中長期的に成長していただき、われわれも成長できるという絵が必要だと思いました。そのため、マーケティングからブランディングに大きく舵を切ったんです。

現在の「ユーザー会」って、けっこうマーケティング施策になっています。JAWS-UGに関しては、もちろんマーケティングの側面もあるんですが、本質的には地元の人たちが自分たちのため、AWSを使う人々のためにやっていますよね。そういう立場がわれわれにも必要になってきたということです。だから、当社のイベントで気づきを得た結果、AWSが売れても、Azureが売れてもいい。パラダイムが変わって、市場が変われば、われわれのビジネスも自然と大きくなります。

大谷:市場が変わるというのは、オンプレミスからクラウドへという流れですか?東京ではその流れがかなり加速していると思いますが、地方ではなかなかピンと来る方が少ないのが現状です。こうした中、クラウドへの流れを自発的に加速させる仕組みを作るというイメージですか?

田中:おっしゃるとおりですね。パラダイムが変わることで、お客様も、われわれも成長できる。そしてそれに関わる人も成長できる。人と会社(お客様)、事業者の3つの成長です。

一方で、JAWS-UGやJAZ-UGなどが展開する新しいパラダイムのクラウドではなく、今までのパラダイムでアウトソーシングしたいという需要もあります。レンタルサーバーに関してはユーザーも増えていますし、もっと活用して、ビジネスに活かしたいという方も多いんです。クラウドみたいにかっこよくはないサービスだけど、実利になるサービスが当社にはたくさんあるんです。

もちろん、レンサバがクラウドか、クラウドじゃないかという議論は昔からあります。確かにNISTのクラウド定義もありますが、ここ数年で折り合いが付いてきたんだと思うんです。その中で、クラウド以外でも、さくらの提供している価値を理解してもらえるのかなあと考えています。

リーズナブル以外のさくらの価値ってなんなのか?

大谷:先ほど話していたマーケティングからブランディングへのシフトというのは、裏を返せば今までブランディングの部分が足りなかった感じなんですか。このタイミングでシフトする理由はどんな意味があるんでしょうか?

田中:当社はこれまで「リーズナブルで、お客様の成長に資する」というイメージを持っていただいていると思うのですが、同じようなところってけっこう出てきたんです。AWSもそうですし、他のインフラやクラウドの会社もそう。以前われわれが特に訴求しなくても認知されていたところを、他社も同じように訴求し始めた。ですから、当社のアイデンティティとしてもともと根付いている部分を表にきちんと出さないと行けないと考えました。

たとえば、他社さんのスタートアップ支援ってけっこうマーケティングの一環でやってますが、当社の場合、もともとの文化として根付いているので、マーケティング施策ではない。なので、これは企業のアイデンティティとして、きちんとコミュニケーションをとっていき、ブランディングとして進めています。

もう1つは価格の問題。ここ5年くらい、「値段を一番安くする」というのは止めているんですけど、値段で負けるわけにはいきません。値段は勝つための武器ではなく、防御のために必要と考えています。でも、値段だけでは勝てないので、それ以外の価値を探そうとしていますね。

大谷:具体的にはどんな価値なんでしょうか?模索中という感じなんでしょうか。

田中:模索中ですね。現在、社内でブランド委員会というチームを作って、今年の終わりまでにまとめる予定です。そのブランド委員会が全社員に「われわれはどんな会社なのか」「これからどういう方向に進むのか」などをヒアリングしています。私がこうだというよりも、自分たちがどうすべきかを考えた方がよいですから。

お客様へのアンケートもずっととり続けているんですけど、今までは機能面でのフィードバックをお客様に求めていました。その結果、「MySQLが遅いから速くして」とか、「メールが送れないので、フィルタをなんとかしてほしい」といった意見は集まったんですけど、その裏にあるさくらへの期待が得られなかった。今はアンケートを変えてそういった部分もとれるようにしているし、ユーザー会でもヒアリングしています。でも、そういう取り組みはようやく始めたところ。外と中のイメージが違うのであれば、それはそれで受け止めます。

大谷:田中さんって、ユーザーコミュニティにもよく出没されるじゃないですか。一方で先日の鹿児島のイベントでも出た、「必ずしもさくらの全社員がコミュニティに積極的というわけではない」というコメントはけっこう興味深いなと思います。

田中:それも課題です。この2年くらい社員をコミュニティに積極的に出させようと仕掛けたんですけど、上司が行けと言ったら、現場の人が義務感を持ってしまうといった事態が起こって、正直うまくいかなかった。でも、最近は自発的に行く人が増えました。

実はさくらの夕べも、前回からは社員でも一般参加者と同様に申し込みしないと参加できないようにしました。スタッフ以外は社員でもきちんと登録しないと、参加できないし、実際入れない社員もいました。でも、そこに参加している人は、イベントに自発的に出るマインドを持っている人です。最近はコミュニティ慣れした人が新卒で入ってくる例もありますね。

(次ページ、強力な人材を惹きつけるさくらの魅力とシフト)


 

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