まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第56回
鷲宮は作品頼みから「オタクにとっての非日常」を楽しむ場へ
らき☆すた放送からまもなく10年――聖地がこれからも聖地であるために
2017年01月14日 17時00分更新
きっかけは1つの取材
―― そもそも最初のきっかけはどのようなものだったのですか?
坂田 「らき☆すた人気で鷲宮にオタクが集まって、治安が悪くなる」みたいな内容の個人ブログが話題となって、産経新聞さんが取材にいらしたんです。その時点では、私は舞台になっていることも知りませんでした。記者さんから説明を受けたくらい(笑)
そしてその後、記事になったのですが、産経の記者さんは上手く書かれていて、「大酉茶屋を営む坂田さんは『賑わいが出るのは良いこと』」なんて語っている一方で、「地元商工会では『アニメを活かした施策を検討していきたい』という」って、わたしのコメントが1人二役で出てまして(笑)
一同 (笑)
坂田 それが引き金になって、今で言うまとめサイトを見た人たちが鷲宮に来るようになっちゃって、ワサワサし始めた。それが2007年の7月です。
松本 ヤフーニュースのトップも出ましたからね。
―― でも実際治安の問題ってなかったですよね。
坂田 全然ないんです。
―― 治安治安って言っていたのは、いわゆるオタクは危ない人たちだ、みたいな。
坂田 そうですね、当時はまだそういうイメージが強かったのだと思います。
スピード感でやる気を示したかった
坂田 訪れる人も増えて盛り上がっていたので、じゃあ1回版元に電話してみようかと。半分冗談ですね。
そこで9月に電話しました。すると、企画書を出してくださいと淡々と言われまして。そこで「企画書を出すのか!」と驚きました。当時我々の仕事に企画書という概念はなかったので。そこで、「企画書を出す=OK」だと勝手に2人で勘違いしまして、計20案くらい、いま考えると恥ずかしい内容も含まれていますが、1週間くらいで送りました。そうしたら一度来ませんか? ということになったのが10月くらいですね。
その結果、イベントができるという話になり、じゃあ12月にということになって、そこから慌ててなんだか訳がわからない間に開催してしまった、という流れです。
坂田 企画書もいま見るととんでもない内容ですけれど。それこそ中学生が考えたみたいな(笑)
―― それが逆に新鮮だったのかもしれませんね(笑)
坂田 しかし振り返ると、半分くらいは実現しているんです。
松本 「らき☆すたの石碑を……」みたいな案も実現しています。
―― 盛り上げたいという気持ちがあって、結果その多くが実現したというのは素晴らしいことですね。
松本 とにかく『企画は早く出さないと』という意識はありましたね。『(反応が遅いと)ソッポを向かれちゃうかも』と。
―― 版元から「1週間くらいで出して欲しい」と言われたわけではないんですよね?
坂田 はい。勝手に2人で「早くやったほうがいい」と。
松本 12月2日の公式参拝も、じつは別のイベントとバッティングしていたのですが、とにかく向こうから出てきたイベントを実現するために、何が何でもこの日に合わせろということで、商工会の職員を二手に分けて。
会員向けに福利厚生の日帰りバスツアーがありまして、だいたい職員はそれに同乗して行くのですが、当時の商工会は職員5~6人でしたので、パートさんに来てもらったり、職務外の人が手伝ってくれたり。とにかくこの日だけは逃さず、うちの都合でキャンセルせずに……という感じでしたね。
―― 別の行事があるからダメですと言ったら、ひょっとするとそれきりになるかもしれない、と。正味、反対意見はなかったのでしょうか? なんでこんなことやるの? みたいな。
松本 内部からは意外となかったですね。おカネを少しつぎ込むとか、さすがにノリでやれない部分に関しては理事会で多数決をとりました。みんなわからないながら、手を挙げてくれるという不思議な感じでした。役員メンバーも把握しながら進めてきたので、それを止めてしまえとか、けしからんみたいな声は意外となかったですね。
―― そんな流れを止めかねないのが、「それってどんな効果があるの?」という一言だったりしますが、(利益よりも)盛り上がれば良いという雰囲気だったのでしょうか?
坂田 12月のイベントがスタートだったと思います。そのときの賑わいは通りの人もよく見ているわけです。商店街で販売したストラップの売れ行きも。ですから(ファンが集まる)威力をいきなり見せつけてしまった感じです。
―― 単純に、そのシンプルに人が集まり、物が売れる、ということは商売にプラスだろうということですか。
坂田 はい。そして最初はおカネも掛かっていないのです。いま思えば声優さんのギャラもお支払いしていませんでしたし。たぶんプロモーションの一環だったとは思うのですが。
この連載の記事
-
第102回
ビジネス
70歳以上の伝説級アニメーターが集結! かつての『ドラえもん』チーム中心に木上益治さんの遺作をアニメ化 -
第101回
ビジネス
アニメーター木上益治さんの遺作絵本が35年の時を経てアニメになるまで -
第100回
ビジネス
『THE FIRST SLAM DUNK』で契約トラブルは一切なし! アニメスタジオはリーガルテック導入で契約を武器にする -
第99回
ビジネス
『THE FIRST SLAM DUNK』を手掛けたダンデライオン代表が語る「契約データベース」をアニメスタジオで導入した理由 -
第98回
ビジネス
生成AIはいずれ創造性を獲得する。そのときクリエイターに価値はある? -
第97回
ビジネス
生成AIへの違和感と私たちはどう向き合うべき? AI倫理の基本書の訳者はこう考える -
第96回
ビジネス
AIとWeb3が日本の音楽業界を次世代に進化させる -
第95回
ビジネス
なぜ日本の音楽業界は(海外のように)ストリーミングでV字回復しないのか? -
第94回
ビジネス
縦読みマンガにはノベルゲーム的な楽しさがある――ジャンプTOON 浅田統括編集長に聞いた -
第93回
ビジネス
縦読みマンガにジャンプが見いだした勝機――ジャンプTOON 浅田統括編集長が語る -
第92回
ビジネス
深刻なアニメの原画マン不足「100人に声をかけて1人確保がやっと」 - この連載の一覧へ