AIの進展には課題
そうしたなかで、富士通の山本会長が懸念を見せたのがAIの進展における課題だ。
「AIはディープラーニングの進展によって写真の犬と猫を区別することはできるようになったが、その思考のプロセスがブラックボックス化されている。なぜ猫と判断したのか、なぜ犬と判断しなかったのか、というプロセスは公開されておらず第三者による検証ができない」とする。
さらに「こうしたブラックボックス化した技術を、医療分野や自動運転といった、人の命が関わる領域においてすべてを委ねることは怖い」との考え方を示した。確かに、医療分野や自動運転において、すべてをAIに任せることができるのかといったことはこれからのAIの活用において極めて重要な議論になってくるだろう。「AIの限界や特性を踏まえた上で、人間の能力をうまく補完する使い方が必要」だと指摘した。
一方で大きな期待を寄せたのが、ブロックチェーンの技術である。「取引データを含むすべてを、参加者同士が共有する仕組みであり、改ざんが難しく、災害時にも強い仕組みである。ブロックのなかにはアプリケーションのスクリプトを組むことができ、様々なサービスを提供する基盤にもなりうる」とする。また「ブロックチェーンはIoTとの親和性が高い。IoTの活用範囲を広げるものになると考えている」とし、「将来のICTの世界を大きく変えるのがブロックチェーンであり、第二のインターネットになるとの見方も出ている」とも述べた。
米IDCの調査によると、IoT市場は、2020年には、全世界で約1兆4000億ドルの規模に達するという。
「どの調査をみても、IoT市場は高い成長が予測されている。だが現時点では、既存ビジネスの合理化という利用に留まっている。新たなサービスの創造や、より広範囲な分野における最適化といったところまでは至っていない。人を中心に考えることが大切であり、人を支え、人のポテンシャルを最大限に発揮できるものでなくてはいけない」などとした。
そして「日本はこれまでにも技術によって、社会変革をリードしてきた経験がある。かつての蒸気エンジンや電気の発明は産業革命を引き起こし、豊かな社会を実現した。IoTはこれに勝るとも劣らないものであり、そのIoT時代にも日本が世界をリードしてくべきである」と力強く語り、講演を締めくくった。
日本の電機通信産業は、IoTの入口となるセンサーで高い世界シェアを持つ。いまは50%を超える世界シェアを持つが、今後、新興国などの台頭があっても2020年には4割以上のシェアを維持するものと予測されている。電機通信業界が成長軌道へと回復していくためにも、IoTの成長の「波」に乗っていくこと大切である。
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