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スペシャルトーク@プログラミング+第4回

jig.jp 福野泰介氏インタビュー

子供パソコン“IchigoJam”はどうやって生まれたか?

2016年09月30日 09時00分更新

文● 遠藤諭/角川アスキー総合研究所

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 IchigoJamは、子供用の手のひらサイズのパソコン(マイコンボード)。電源オンでBASICが使えるシンプルさが特徴で、家庭用テレビとPC用キーボードをつないでプログラミングできるようになっている。また、通信ポートを備えており、今回のように外部機器をコントロールすることも可能。これを開発・販売しているのは福井県に本拠をかまえるIT業界でもユニークな存在のjig.jp(モバイル関連ソフトウェアで有名)。その代表取締役社長でIchigoJamの開発者でもある福野泰介さんに、その誕生のきっかけやマイコンボードに込めた思い、そして、IchigoJamのこれからについて聞いた。IchigoJamは、福野さんも関わるKidsVentureのプログラミング教室で活用されている。その夏休みスペシャルの実況レポートも別記事「文系女子大生がKidsVentureを訪ねてみた(第1回)」で公開されているので併せてご覧いただきたい。

株式会社jig.jp代表取締役社長の福野泰介さん

10年前から子供のプログラミングにとりくんでいる

―― 日本からIchigoJamのようなマイコンが出てきたときは正直驚きました。そして、プログラミング教育をやろうと思われたきっかけは何なのですか?

 

福野 そうですね。もとをたどれば、年々、面白い技術が増えていくのにもかかわらず、それを使いこなす人間が減っていると思っていたんですね。聞いてみると、そもそもプログラミングを始めた年齢が遅いんです。

―― 昔の小学生は“ナイコン族”とかいってショップに入り浸っていたけど、いまは意外にやってない。

 

福野 そうです、やってない。それがもったいないなと思って、地元福井で10年くらい前からプログラミングのイベントをやっていたんですね。それで、6~7年前にはiPadでプログラミングの体験ができるものを、高専のインターン生と一緒に作りました。

―― そんなに前から?

福野 JavaScriptを使っていて、コーディングした瞬間に動くので“プログラン”(progrun)という名前なんですが。ところが、それで体験して喜んだ人から“もっと子供にやらせたいんだけどどうすれば良い?”って聞かれたんですね。

プログラン

―― それは、体験教室では耳にする課題ですね。

福野 う~ん、そういえばiPadを買ってもらうのもハードルが高いし、プログランはあくまで体験環境なのでそこから先を作るのは難しいと、悩むこと数年。電子工作をやるきっかけがあって、IchigaJamのベースとなるものを作ることになったんです。

―― どんな?

福野 ユカイ工学の青木俊介社長に、iPhoneとハードウェアをつなげるKonashiという電子工作用ツールキットを1個もらったんですね。なんか面白いものをもらったなぁと。せっかくだからなんかやりたいと思ったら、ARMというCPUが安くて速くて開発環境がいいらしい。

―― 電子工作は詳しかったんですか?

福野 全然。福井高専の電子情報工学科でしたけれど、ハードウェアはめんどくさいんで、やらずにソフトばっかりやってました(笑)。ところが、ARMの開発環境とかを調べていたら“110円でコンピューター売ってるじゃん”と。この性能なら、むかしのMSXに近いぞってことで“作っちゃおう”って思ったんですね。

―― なんと、MSXだと。三つ子の魂。

福野 そうですね。僕には、家でプログラミングする環境があったんですが、それと同じようなのがいまはないっていうのが問題なんですよ。

―― でも、Raspberry Piとか出てきていませんでしたか?

福野 たしかに、Raspberry Piが近いんですけど、そのときは、Linuxのインストールから入るとか、Linuxを子供がいじるのも過剰かなと思っていたんですね。そうしたら、ちょうどMSXが30周年ということで、久しぶりにBASICでゲームを書いてみたら、なんだいまでもこれでいけるかもとなったんですね。

―― なるほどそれで作っちゃった。

福野 最初は、僕が手作りで作ったやつをうちでやっている“オタマート”っていうフリマアプリで出したら、売れた! と。そこから、ブレッドボードのキットを作って、さらに基板を作って量産するようになって、初代のIchigoJamとして販売が始まったのが2014年7月です。基板になったときに一気に1000個も作れて、こんなにあっても困るなと思ったんですけど、秋月電子さんが取り扱ってくださることになりました。

―― IchigoJamっていくらでしたっけ?

福野 キットが1500円、完成版は2000円ですね。IchigoJamだから”イチゴ円で”売ろうっていうところで1500円になりました(笑)。

―― なんでジャムなんですか?

福野 イチゴパイってあんまり美味しくなさそうっていう(笑)。イチゴなんとかってなんかいいのない? ってうちの嫁に聞いたところ、ジャムでしょと。それなら、ジャムセッション的にいろんなものと繋げて楽しめる。ジャムだからいろんなものに塗って楽しむような応用した使い方がある!という経緯です。

―― IchigoJamを使ってこんなプログラムを書いた、こんなことに使ったというお話を教えてください。

福野 魯山人納豆製造機を作ったおじいさんが居ますね。C言語とか難しくてわからないけど、BASICなら自分にもできるってことで作ったらしいんですね。で、魯山人の推奨する納豆の食べ方っていうのがあって、305回まわして醤油をさして、そこから119回まわすというのを正確にカウントしてやっちゃうマシンを作った人がいて、去年のMaker Fairに出ていましたね。あんな風に使ってくれるのは嬉しいなと思いました。

魯山人納豆製造機。合計424回かき回して糸が切れるようになるとか。

参考リンク:作者による実験動画

―― 子供たちはどうなんですか?

福野 去年の夏のこどもプロコンというコンテストの応募作品で、100均の扇風機を自分で高級扇風機に改造しましたというものがありました。小学生が、首を振ったりユラギを再現する高級扇風機を作った。プログラムも回路もシンプルなんですけど、自分で作れたというのを見て凄いなと思いました。

―― IchigJamって十分に業務用とかになりますよね?

福野 ええ、IchigoJamでイノシシを捕まえているそうです。イノシシは、普通のワイヤーを張って捕まえる罠ではもうつかまらなくなったから、センサーを使って捕まえたいと。檻にイノシシが入ると柵がおりて通知がくるというシステムになっているんですね。

―― SIMモジュールとつながっているんですね。ところで、IchigoJamって、ソフトを小さな箱のパッケージにして売っていますよね? あれは何なんですか?

福野 あれはMSXのパッケージのパクリ(笑)。昔って本で買ってきてソースコードをそのまま入力するのが勉強になった。まずは見よう見まねで入る。“写経文化”っていうのが勉強になるんですね。それが言いたかったので、あれは紙でプログラムを流通させようということなんですが、そしたらナチュラルスタイルの松田さん(KidsVenture 代表講師)が箱で流通させようと言いだしたんですね。

―― パッケージになるのも楽しいし、コミケと同じでその流通させること自身が経験になりますね。

福野 こどもプロコンの最優秀作品は商品にしてるんですよ。で、ちゃんと取り分もあったはずです。

IchigoJamソフトのパッケケージは、箱に入っているけれど中身はソースコード

―― IchigoJamって海外には輸出したりしないんですか?

福野 モンゴルとベトナムに持っていってます。

―― モンゴルとベトナム!

福野 モンゴルは、モンゴルに高専ができているんですね。その高専つながりでモンゴルに行ってきたんですが、モンゴル高専にはIchigoJamクラブというのがありまして、その名誉顧問になりました(笑)。

―― モンゴルはどうでしたか?

福野 日本でいう小学校6年生の子に、出前授業で“コンピューターとは”とか、“プログラムはこう書くんだよ”っていうのをやったら大盛り上がりで、ものすごく食いつきがいいんですよね。ああいう純粋に“コンピューターってスゲぇ!”っていうのは世界共通なんだなぁと思いました。

―― なるほど。

福野 今年はベトナムに行ってきたんですけど、ベトナムも本当に熱心なんですね。

―― ベトナムも凄いと。

福野 今週からアフリカの留学生9人が会社にくるのですが。

―― アフリカにも広めようと?

福野 そうですね、アフリカにも我々のメンバーが行っています。

―― 英国なんかは、BBCが「Micro:bit」というコンピューターを100万台用意して子供たちに配っているんですよね。日本もIchigoJam配るくらいの気概がほしいですよね。

福野 NHK microやってくれるといいんですけどね。ただ、今度、アメリカのKickStarterに出そうと思っているんですけどね。

―― 新しいバージョンを作る!

福野 いま、液晶付きのIchigoJamを開発してて、それができると、完全にバッテリーだけで何時間でも授業できるんですね。なんで、学校でも非常に使いやすい。なおかつ、テレビにつなげば家庭でも観れる。お母さんに自分の作ったソフトを自慢してほしいんですよね。

―― IchigoJamって将来はどうなるんですか?

福野 さくらインターネットさんとIoTでIchigoJamを使うことをやっています。IchigoJamのRaspberry Piに対する最大の優位点は消費電力が100分の1くらいなんですね。50mWしか使わないんです。

―― 子供にパソコンに触れてほしいという話だったのが、意外やいま最先端のIoTデバイスになっちゃう!

福野 それって、子供が最先端にいるってことだと思うんですね。子供って侮れないんだなと思います。

―― IchigoJamの本質っぽいところって、なにかそういう基本とかシンプルとかプリミティブなところですね。

福野 僕はすべてのコンピューターのエントリーを作りたいんです。BASICに立ち返ったのも変わらないほうがいいという考えからなんですよ。最新技術は変わりますけど、基礎の基礎を学ぶというときにどれがいちばん基点になるかという。それで、ザッカーバーグもBASICで学んだし、ビル・ゲイツはそれで儲けたし、スティーブ・ジョブズ&ウォズニアックのApple IだってBASICを動かしていた。この誰もが学んだBASICというものを、最初の一歩としてやっていけばいいんじゃないかと思うんですね。

―― BASICだと。でも、いまごろなんでBASICなんだと突っ込む人もいるでしょう?

福野 いますけど、Scratchが動くようなコンピューターを与えられている子供たちだけじゃないですからね。それと、幸いBASICだと、昔にBASICでやった世代の人たちが周りにいたりしますからね。

―― IchigoJamなら1500円だから最悪壊しても、そんなに凄い損害じゃない。そこからステップアップしていけばいい。

福野 いちばん最初は“Hello world!”はダサいと思うので“LED 1”です。そういうふうに、1単元1プリントを配ってみんなでやってみようという公文式みたいな感じでやってもらっています。

―― そこは、わりとまじめにプログラミングを学んでいく感じなんですね。

福野 ロボットを動かしたり、音楽をつくってみようというようなものもやっていますよ。楽しい!はすべてのきっかけになります。

福野さんに見せていただいたIchigoJam大人バージョン。つまり、基盤の色違いバージョン。

注釈

【Maker Faire】日本では株式会社オライリー・ジャパンが主催する電子工作やDIYなど自作を楽しむ人たちのお祭り。

【PCNこどもプロコン】PCN(プログラミング クラブ ネットワーク)とは、IchigoJamなどの教材を使ってプログラムを学ぶ活動のネットワーク。こどもプロコンはそのプログラミングコンテスト。

PCNこどもプロコン公式ページ

【SIMモジュール】モバイル通信にアクセスできるSIM搭載の周辺デバイス。

■関連サイト

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