このページの本文へ

"さくらのIoT Platform"パートナー企業tsumugに訊く

賃貸物件のカギがスマートロックになると、何が起こる? 開発企業を独占取材

2016年05月09日 07時00分更新

文● イトー / Tamotsu Ito

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 4月下旬、賃貸不動産大手アパマングループと共同出資でS2i社を設立すると発表した さくらインターネット。

 S2i社との取り組みの根幹であるさくらのIoT Platformの初の対応製品が、DMM.make AKIBAに入居するハードウェア・スタートアップ「tsumug」(ツムグ)が開発中の「不動産業者向けスマートロック」であることがわかった。

 サービス名は仮称「シェアリングキー」。これまでステルスで活動してきた企業の初公開情報を独占取材でお届けする。

 tsumug社は牧田恵里氏が起業したハードウェアスタートアップ。DMM.make AKIBAを開発拠点とし、不動産向けIoTデバイスの開発会社として活動している創業間もないベンチャーだ。

tsumug さくらのIoT Platform
中央がtsumugのCEO&President牧田恵里氏、左がさくらインターネットのプラットフォーム事業部サービス開発チーム 江草陽太氏、右は同社IoT事業推進室 室長の山口亮介氏。

 まず前提として注意してもらいたいのは、「シェアリングキー(仮)」はコンセプト・プロトタイプということ。だから、製品化時の外観デザインは変わる可能性が高いし、取り付け自由度なども製品化時に変更があるかもしれない。とはいえ、コンセプトは明快で、ユニークだ。

 tsumug社が目指す製品は、「BtoB向けで、完全に不動産業界に特化したスマートロック」。単に物理鍵でできることをデジタル化するのではなく、物理鍵を一切排除したうえで、賃貸不動産の貸し鍵管理業務の大幅な低減や、将来的な民泊への対応を可能する。

 貸し鍵管理業務については、人的コストではなく、物理的な貸し借りや鍵の管理場所をなくすことによる業務改善を狙っている。

 イメージとして、仮に5万件の管理物件がある不動産業者だと、物理鍵5万本の管理に加えて、月ベースで1000本単位の出し入れが発生する。これを無くして、入居者も便利に使えるスマートロックをめざしている。

不動産業界向けスマートロックとはどんなモノなのか?

tsumug さくらのIoT Platform
ドアに装着した場合のイメージ。玄関ドアの表側に装着する。取り付けは、通常のシリンダー取り外しと同じように、側面のボルト数本(右手)の着脱で可能。
tsumug さくらのIoT Platform
通常は右の外鍵でシリンダーを交換。その代わりに、シェアリングキーを装着すれば、玄関ドアがスマートロックに変身する仕組み。

 シェアリングキーはいくつかの点で、いま国内に存在するスマートロックとはアプローチがまったく異なっている。

 最大の違いは、既存のスマートロックのほぼすべてが「内鍵」に後付けするタイプなのに対し、シェアリングキーは「外鍵」に後付けすること。外鍵に付ける理由は、「日本の賃貸不動産独特の”入居時のシリンダー交換”の業務フローを変えずに取り付けやメンテができる」ことを重視したからだ。

 シェアリングキーの設置は、不動産管理会社が通常業務として行っているシリンダー交換フローのなかで装着できるようになっている。具体的には、外鍵のシリンダーを外したあと、(新しいシリンダーの代わりに)シェアリングキーを装着するという流れだ。

 対応する鍵メーカーは国内大手の美和ロック(MIWA)とGOAL。この2社への対応で、「管理会社による部分もありますが、不動産物件の上位7割程度に対応できる」と見込んでいる。電源は内蔵式でバッテリーもしくは電池駆動。開発初期段階のためバッテリー交換サイクルは未定ながら、1年間はバッテリー交換不要にできることを目指している。

 デモを見せてもらうなかでユニークだったのは、設置後の通信の初期設定で結構賑やかなビープ音が鳴ること。いかにも設定中といった感じのピコピコ音を採用したのも、実は"不動産屋仕様"。音だけで設定中/設定完了がわかるようにすることで、設置者のIT知識によらず「ピコッと鳴ったら設定完了」といったようにわかりやすくなり、画面を注視する必要もなくなる。

tsumug さくらのIoT Platform
現状、10キーはタッチパネルになるようだ。スマートフォンなど端末がない環境では、10キー操作で解錠する。

 シェアリングキーの解錠手段は「アプリでの解錠」「フィーチャーフォンのリンクでの解錠」「本体のテンキータッチパッドでの解錠」の3種類を用意。つまり、シェアリングキーに差し替えたドアは、物理鍵が一切ないドアになる。

 入居者は、スマートロック機能が使えるほか、室内で利用されるIoT機器とインターネットをつなぐゲートウェイとして動作することもできる。

さくらのIoT Platformを採用したのは、安価な導入コストと開発のしやすさ

 なぜさくらのIoT Platformを採用したのか?その理由はこれまでにないコストメリットと、インフラ開発のしやすさにあるという。

 不動産業界向けのスマートロックは、3G/LTE通信機能搭載であることが望ましい。

 一般的なスマートロックのWiFiやBluetoothを使う方式では、遠隔開閉には空室物件にもインターネット環境を用意しておく必要があるうえ、"物件に行ってみたらなぜか接続できなかった"というトラブルも、(無線を使う以上)ある程度避けられないからだ。

 ただし、スマートロックに3G/LTEの通信モジュールを内蔵させると、2~3万円レベルのコスト増になると言われていて、簡単には採用できない。

 さくらのIoTの通信モジュールは、さまざまな関係者への取材で得た情報を総合すると、通信モジュールと1~2年の通信費用までインクルードして、わずか数千円という非常に安価な提供価格を検討しているようだ(原稿執筆時点では、正式発表はない)。これが採用にいたった最大の理由の1つになっている。

さくらのIoT Platform さくらのIoT Platform
2016年2月8日発表のさくらのIoT Platform発表資料より。 2016年2月8日発表のさくらのIoT Platform発表資料より。

 また、インフラ開発のしやすさについて、牧田氏は、そもそもインフラ開発に精通したエンジニアが少ないことをを挙げる。専門店にいけば、3G/LTEのSIMモジュール自体は入手できるものの、インフラのハード/ソフトを開発できる人材捜しはなかなか大変で、質問できる専門家も(IoTデバイスやサービスの開発者に比べて)多くはない。そんななかでインフラ開発の不明点を、さくらインターネット側に質問できるのは非常にありがたかったそうだ。

 さくらインターネット側の開発支援体制について、プラットフォーム事業部サービス開発チームの江草陽太氏は「一般的な製品のサポートの範囲と、IoT開発事例として研究していかなければいけない部分として弊社でサポートしていく部分がありますが」と前置きしたうえで、「新しい領域を開拓する点に関しては積極的にやっていきたい。自社サービスの開発の一環として、一部のパートナーさんについては、一緒にモノをつくるというところにも関わっていきたいと思っています」と語る。

 牧田氏によれば、シェアリングキーは、2016年度中には実際の不動産物件で実証実験を開始する予定。パートナーはまだ秘密ということながら、1社に限定せず複数社で実証実験を進めていきたいという希望を語っていた。

 なお、tsumug社のシェアリングキー含む、さくらのIoT Platform対応製品は、5月11日(水)~13日(金)まで東京ビッグサイトで開催される「クラウド コンピューティングEXPO春」にて、複数のパートナーが開発中の実機を初公開する予定。なかには、初公開となる農業向けのIoTソリューションも含まれる。
※2016年5月9日追記 取材先からの申し入れにより一部表現を改めました。)

■関連サイト
クラウド コンピューティングEXPO春
さくらのIoT Platform

カテゴリートップへ

開発者の生の声を聞く『熱量IoT』