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大谷イビサのIT業界物見遊山 ― 第22回

ポートフォリオは補完的だが、クラウド市場での生き残りに疑問

デルのEMC買収、クラウド時代には延命措置かもしれない

2015年10月13日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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約8兆円という未曾有の規模で行なわれるデル主導によるEMCの買収(関連記事)。昨年あたりからEMCの買収話はちらちら出ていたが、ここに来て一気に話が進み、結局報道から非常に短い期間で発表にまで至った。メガベンダーの登場は、果たしてIT業界にどのような影響を与えるのか? それとも与えないのか?

「やはり感」の強いデルとEMCの統合

 ここに至る経緯が、クラウドの台頭であることは明らかだ。クラウドファースト、ひいてはクラウドネイティブの流れが加速し、オンプレミスのハードウェアビジネスが一気に駆逐されつつある。特にEMCに関しては、成長率や売り上げといった数字面より、プレスから見て、明らかに製品や戦略面で退行が見られただけに、個人的にはあまり驚きがない。買収のニュースに対して「オンプレミスエンタープライズってニッチ市場でのジャイアントになるつもりなんだと思う」というコメントを寄せている人がいたが、まさにその通りだと思う。長年EMCをリードしてきたジョー・トゥッチーCEOも、自らの在任中に、(同社が掲げていた)「REDEFINE」の方向性を出しておきたかったのだろう。

 テキサスのデル、ボストンのEMCという西海岸企業ではない両社の組み合わせ。2001年には戦略的な提携を行なってたこともあり、関係も浅いわけではない。基本的に両方ともITハードウェア全般をカバーするものの、デルはPCとサーバー、EMCはストレージに強みを持っており、ポートフォリオ的にはかなり相互補完的だと思う。

 まずストレージ事業だが、EMCは専業ベンダーとして基幹系、エンタープライズ、ミッドレンジ、SMB向けのプライマリストレージはもちろん、IsilonのようなスケールアウトNAS、DataDomainのようなバックアップ装置、各種ソフトウェアまで幅広く揃える。デルもストレージ事業にはかなり力を入れているが、2007年に買収したiSCSI SANストレージのEqualLogicとオブジェクトストレージあたりをEMCの事業に取り込めばうまく整理が付く。

 デルが本来的に強みを持つPCやサーバー、買収によってポートフォリオが強化されているネットワーク機器に関しては、EMCが長らく進出しなかった分野なので、こちらにオーバーラップはない。統合型インフラのVCEも継続が明言されているし、セキュリティに関しては、EMCのRSA事業とデルのSecureWorksの統合により、むしろ競争力の高い事業になりそうだ。

成長市場をにらんだヴイエムウェアの戦略が鍵に

 オンプレミスのハードウェアベンダーとして考えると、EMCを統合する新生デルが担える幅は相当に広い。IBMがハードウェアから足を洗いつつある中、真正面から対抗できるグローバルベンダーはもはやHPとオラクルだけと言える。しかし、冒頭に述べたとおり、オンプレミスのハードウェアビジネスは、今後IT市場ではニッチになる。これほど巨大なメガベンダーの登場が、むしろあまり市場にインパクトをもたらさないという可能性もあるわけだ。

 確かに単価が大きく、商流が確立されているため、オンプレミスの市場が短期的に崩壊することはないだろう。しかし、縮小を続ける市場でシェアと成長を確保するのは難しい。成長市場への投資が義務づけられた米国IT企業としては、「緩やかな死を迎える市場のシェアはなんとか守ります」だけでは投資は得られないはず。当然ながら、マイクロソフトのように覚悟を決めて、新しいクラウド戦略に踏み出す必要がある。

 焦点となるのはやはりヴイエムウェアだ。仮想化の分野で高いシェアを誇るヴイエムウェアは、EMCグループの虎の子的な存在で、EMCの競合となる他社とも良好なアライアンスを維持してきた。デル自体ももともとオープン指向を追求しているため、こうしたエコシステム面での変更はないだろう。一方、仮想化をリードしてきたヴイエムウェアも、パブリッククラウドやOSSの取り組みにおいては、他の競合に比べて後塵を拝している。この分野をいかに伸ばしていくかが、今後の大きな鍵だ。デル・EMCはグループを挙げて、クラウド時代での生き残りを考えなければ、今回の買収も結局、延命措置にしかならない。先週のAWS re:Invent 2015でクラウドの破壊力を身をもって感じてきたオオタニとしては、そう断言せざるを得ない。

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