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ソリューションベンダーとしてグンと加速、Dell World 2015レポート 第4回

「IT市場の縮小、AWSの脅威――どちらも買収の目的とは関係ない」

注目の中でマイケル・デル氏が語ったEMC買収の可能性、戦略

2015年11月04日 09時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 10月20日~23日に開催された、デルの年次イベント「Dell World 2015」。開催直前にEMCの買収合意が発表されたことで、今年のDell Worldでは特に、同社会長兼CEOのマイケル・デル氏の発言に注目が集まった。

 ここでは、マイケル・デル氏がDell Worldの基調講演とプレス向けセッションで語った言葉から、注目すべき内容をピックアップしてみたい。

Dell World 2015の基調講演で登壇したデル会長兼CEOのマイケル・デル氏

「EMC統合で22領域のリーダーポジションを獲得する」

 デルとEMCの買収合意発表は、Dell World開催前週の10月12日(米国時間)に行われた。同社エンタープライズ事業部門(ESG)プレジデントのマウリス・ハース氏も語ったとおり(関連記事)、Dell Worldの時点では、具体的な組織やビジネスの統合などについてはほとんど未決定だったようだ。

 ただしデル氏は、基調講演において、EMCの買収と合併によって広がる「可能性」を強調した。

 「EMC買収によって、デルは『今日のテクノロジー』、つまりサーバー、ストレージ、仮想化、PCの4領域におけるリーダー企業となる。そして同時に『明日のテクノロジー』、業界をリードする次世代のソリューション群も提供していく。それは、デジタルトランスフォーメーション(デジタル変革)、Software-Defined DataCenter、コンバージドインフラ、ハイブリッドクラウド、モバイル、セキュリティといった領域を支えるものだ」

 デルもEMCも、これまで多数のテクノロジー企業を買収し、事業領域を拡大してきた。現在両社傘下にあるブランドは、VMware、Virtustream、VCE、Isilon、XtremIO、DataDomain、Pivotal、RSA、Airwatch、Secureworks、Sonicwall、Boomi、KACEなど、非常に幅広い領域に渡る。これらを総合すると、「ガートナーのマジッククアドラントでは、22の領域で『リーダー』のポジションを占めることになる」とデル氏は説明する。

 「年間売上はおよそ800億ドル(約9.6兆円)。プライベートカンパニーとして『世界最大のエンタープライズシステムカンパニー』が誕生する」

EMC傘下には、ヴイエムウェアやピボタル、RSAなど、各領域で高いシェアを誇るブランド企業が名を連ねる

 2年前、“世界最大のスタートアップ企業”を標榜してプライベートカンパニー化を断行したのは「正しい選択だった」とデル氏。現在では投資家の意向に左右されることなく、長期的視野に立った戦略分野への投資、イノベーション、R&Dの集中ができているという。その成果として、たとえば昨年の特許申請件数は前年比で27%も増えた。デル氏は「投資家ではなく、顧客に対して100%フォーカスできている」と強い自信を見せた。

 なお、EMC合併後の具体的なデルの姿については「買収取引の完了時点(2016年の第2~第3四半期)にあらためて発表したい」とデル氏は述べている。

「各社は100%オープンで独立したエコシステムを維持」

 EMC買収合意の発表以後、大きな課題として持ち上がっていたのが、EMC傘下にある各社の独立性維持だ。特に、仮想化プラットフォームとして大きなシェアを持つヴイエムウェアについては、デルと競合するサーバーベンダー各社との関係も深く、買収後の影響が懸念されている。

 デル氏は、コンバージド/ハイパーコンバージドインフラ領域でのイノベーションを加速するためにヴイエムウェアやVCEなどとの連携を強化する一方で、買収後それぞれの独立性は維持していく方針であることを強調した。

 「ここで明確にしておくが、すべてのファミリー企業は、100%オープンで独立したエコシステムを維持していく。柔軟かつパワフルなパートナーシップこそが、イノベーションや顧客価値を生み出すからだ」

 オープンプラットフォーム戦略をとってきたデル自身にとっても、特定のプラットフォームに縛られない独立性は重要であるはずだ。たとえばクラウド領域では、2013年にはレッドハット/OpenStackと、さらに今年はマイクロソフトとの提携を発表し、それぞれのプラットフォームを搭載したハイブリッドクラウドソリューションを提供している。当然、こうしたパートナーシップも維持されるだろう。

 ただし、前述したとおり、現時点では統合後の具体的な経営体制などは明らかではない。EMCが採用してきた“フェデレーションモデル”のような、傘下各社の独立性の高い統治形態をどの程度維持できるのかについては、引き続き注視しておきたい。

「エンタープライズIT市場の縮小、AWSの脅威――どちらでもない」

 プレス向けセッションでは、エンタープライズIT市場の将来性やパブリッククラウド市場の隆盛をめぐって、記者から次のような質問が飛びだした。

 「デルとEMCの統合は、エンタープライズIT市場の縮小傾向に対する反応――つまり“干上がっていく池の中での大きな魚”を目指す――なのか、それともアマゾン(AWS)の脅威に対する反応なのか」

 この質問に対し、デル氏はやや苦笑しながら「ノー。そのどちらでもない」と答えた。

 「デル-EMCのコンビネーションは、既存の技術と新しい技術によって、すぐれたテクノロジーのリーダーポジションを与えてくれる。それにより、顧客の課題解決を助け、顧客の新しい可能性を拡大するためのものだ」

 とはいえ、AWSなどのパブリッククラウドベンダーが勢いを増すなかで、オンプレミスインフラ中心のビジネスは縮小していく一方なのではないかという見方もある(関連記事)。

基調講演の終盤にはマイクロソフトのサティア・ナデラCEOも登壇、ディスカッションを行った

 基調講演終盤、マイクロソフトCEOのサティア・ナデラ氏との対談のなかで、司会者から「AWSのようなパブリッククラウドからどう顧客を奪うつもりか」と質問されたデル氏は、まず次のように答えた。

 「エンタープライズの世界には1億6000万のワークロードがあるが、パブリッククラウドに乗っているのは現時点で1000~1500万のワークロード。残りはオンプレミスやプライベートに管理された環境下にある」

 そう答えたうえで、顧客が必要としているのはパブリック/プライベート間で自在にワークロードを行き来させることのできるハイブリッド環境の実現であり、ワークロードの仮想化/自動化を通じて顧客のITマネジメントを一段高いレベルに引き上げていくことが重要だと語った。

基調講演では、ハイブリッドクラウド環境を実現し運用コスト(OpEx)を24%引き下げた顧客事例も紹介した

 こうしたデル氏の見解については、自らもパブリッククラウドプロバイダーであるマイクロソフトのナデラ氏も同意する。ナデラ氏は、「将来的にパブリッククラウドだけを利用する企業は10%にとどまり、80%の企業はハイブリッドクラウド環境を利用する」とするガートナーの予測データを挙げ、「パブリッククラウドだけになるというのは視野の狭い見方だ」と語った。

 「現在、サーバーの世界出荷台数は年間およそ800万台だが、そのうちマイクロソフトやグーグル、フェイスブックといったハイパースケール企業が導入するのは200万台程度だ。(オンプレミスに導入されている)残り600万台に、過去にはなかった新しいアプローチ、すなわちハイブリッドインフラとしてのアプローチが必要とされている」(ナデラ氏)

今回のDell Worldで発表された“プライベートクラウド版のAzure”、Dell Hybrid Cloud System for Microsoft。当然、パブリッククラウドのAzureとシームレスにワークロードを管理できる

 もう一つ付け加えるならば、ESGのハース氏も語っているとおり、デルはあらゆるクラウドプロバイダーに対して「パートナーであり、インフラ製品を提供するサプライヤーでもある」という姿勢をとっている。ハイパースケール顧客をターゲットとした「DataCenter Solutions(DCS)」や「Datacenter Scalable Solutions(DSS)」のビジネスがその一例だ(関連記事)。

 したがって、デルにとってのライバルを挙げるならば、AWSなどよりもむしろ、ODM/ホワイトボックスベンダー、ヒューレット・パッカード(HPE)やレノボ、さらにOpenPOWER構想を推進するIBMといったサーバーベンダーになるだろう。

 そして、その競争の鍵を握るのは、コンバージドインフラ製品へのSoftware-Defined Infrastructure関連のテクノロジーの取り込み、あるいは(パブリッククラウドプロバイダーも含めた)パートナーシップ/エコシステムの強化といったものに違いない。そうした視点から、EMC買収を通じてデルが手に入れるテクノロジーやブランドを見直してみると、この先の戦略も少し透けて見えてくるのかもしれない。

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