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坂西CEOに起業の経緯や事業のコンセプトを聞く

異文化交流の楽しさを!多言語翻訳の八楽が描く世界観

2015年10月14日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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機械翻訳、クラウドソーシング、プロ翻訳まで揃える理由

 ヤラクゼンは現在17言語に対応しており、多言語を1つのシンプルなユーザーインターフェイスから扱える。現在、個人向けのプランと会社向けのプランがあるが、会社として導入すると1ユーザー年間3980円で、「カンパニーブック」と呼ばれる会社用の言い回しやフレーズが専用データベースとして利用できる。「会社の中のデータベースが貯まっていくので、ベンチャーやグローバル企業が海外に出て行く場合などに表記のゆれがなくなり、非常に有益です」(坂西さん)。

 八楽はヤラクゼンのような機械翻訳ツール、クラウドソーシングベースの人力翻訳のほかに、ニーズの高いプロ翻訳までサービスとして取りそろえている。プロ翻訳では八楽がコーディネーターとなり、適切なプロの翻訳家に案件をアサインし、チェックをかけた後、ユーザーに納品する。いわば従来型の翻訳サービスだ。単にサービスが用意されているだけでなく、プロ翻訳で得たフレーズはヤラクゼンのデータベースに登録できる。そのためユーザーは資産を継続的に利用しながら、新しい翻訳にチャレンジできるという。

 プロ翻訳、機械翻訳、クラウド翻訳のみを単体で提供している会社が多い中、八楽がハイブリッドでサービスを取りそろえるのは、翻訳ならではの特殊事情がある。八楽 セールスディレクター 新規事業開発室 マネージャーの佐田浩太郎さんは、「もともと翻訳は通訳から派生した領域なので、どこまで行っても属人性やアートの領域がどうしても残るんです。でも、ビジネスの世界では品質だけではなく、スピードやコストも求められる。多少品質を犠牲にしても、スピードが必要という場合もあります。品質、コスト、スピードのバランスをうまく満たそうとすると、いろいろなソリューションを持ち、自分や会社ならではの言い回しを持てることが重要になるんです」と語る。

八楽 セールスディレクター 新規事業開発室 室長の佐田浩太郎さん

 実際、DIY型のヤラクゼンを活用してコストを落としつつ、重要な箇所はクラウド翻訳やプロ翻訳を組み合わせるといったユーザーも増えている。佐田さんは「たとえば300~500文字の説明のついた商品を25万点抱えるコマースサイトをまるごと翻訳する場合など、普通に考えると数億円かかります。これを数千万円でやりたいが、機械翻訳だけだと不安という場合に、八楽ではプロ翻訳やヤラクゼンの機械学習を組み合わせるといったソリューションを提供できます」と語る。過去に自社で行なった無数の翻訳資産をヤラクゼンに事前投入することで過去の品質とのブレをなくしたり、プロ翻訳やクラウド翻訳をベースに自社のカンパニーブックを拡充しながら、チラシやキャンペーン作成、Webサイトの改修などスポットの翻訳は自前で行なえる。これにより、効率的に多言語対応できるようになっているという。

 現在、進めているのが対応フォーマットの追加。テキストやHTML、WordやPowerPoint、ExcelなどOffice文書に加え、今後はPDFや画像ファイルへの対応を進めるという。また、外部サービスとの連携も強化する予定。「たとえば、Office 365につなぎ込んで、シームレスに翻訳できる世界を目指しています」(坂西さん)。また、ビジネスパーソン個人やスモールビジネスの人たちにも多言語の壁を乗り越えるサポートをしたいという思いから、この10月に無料で使える「パーソナルプラン」をスタート。誰にでも使いやすく便利なツールにし、多くの人がグローバルコミュニケーションを楽に楽しめるよう、さらなる機能開発を進めていく予定だ。

全員が不幸になってしまう翻訳市場の現状

 日本で5000社以上あると言われる翻訳会社。ひもとくと最大手以外はほとんど中小で、数多くの翻訳者への外注で成り立っている世界だという。「翻訳会社は翻訳者のコーディネートで成り立っているのですが、エンドユーザーとの直接取引を恐れているのか、NDAを結んでいても社名や利用形態を翻訳者に伝えていないことも多い。そのため、翻訳者は原文に忠実に翻訳するしかなく、発注側にも本来の意図と異なる納品物ができあがってしまうこともある。そして担当翻訳者には、次回以降の発注が理由も告げられずに来なくなる。こういう全員が不幸になってしまう状況が一部にはあります」と佐田さんは指摘する。

 その点、八楽では発注側のビジネスやターゲットを理解し、発注者に沿った翻訳者をアサイン。過去の翻訳資産を提供し、プロジェクト意図を翻訳者にきちんと伝え、モチベートすることで、満足度の高い成果物を生み出せるよう、泥臭い努力も行なっているという。

 「『東京オリンピックがあるから儲りそう』ではなく、違った考えを持った人同士の異文化交流は楽しいという発想でサービスを展開しています」(佐田さん)とのことで、八楽が目指すのは翻訳だけではなく、あくまで多言語でのコミュニケーション。日本企業がなかなか踏み出せないグローバル化への敷居を下げるのが目的だ。「翻訳は原文に忠実に訳すことに重きが置かれていますが、コミュニケーションは受け手があってこそ存在する。だから、どんな方法でも、相手にきちんと伝わればOK。この部分の壁を溶解させるインフラ整備の事業がわれわれのビジネスです」と佐田さんは語る。

グローバル色豊かな八楽の渋谷オフィス

八楽のメンバーは多くの国・地域からエキスパートが集まっている

渋谷にある八楽のオフィスは、非常にグローバル色豊か。日本人のほか、スウェーデン、台湾、アルゼンチン、インドネシア、シンガポール、ウクライナなど、さまざまな出身のメンバーがそれぞれの強みを生かして、サービスを開発している。

ここまで人種が異なると、当然メンバー同士での働き方に関する考え方も異なる。「『佐田はなんでそんなに夜遅くまで働くんだ』と言われることもあるし、僕も他のメンバーに対して『朝10時にはちゃんと会社に来いよ』と思うこともある。話し合っても理解できないことも多いし、入社した当時は慣れないこともあったけど、最近は違うことを許容し、活かして楽しむ力を持てるようになりました」と佐田さんは振り返る。


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