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JAWS DAYS 2015で36支部に聞いた「私たちのクラウド活動」 第6回

クラウド移行の過渡期で戦うユーザーコミュニティの課題と光明

悩めるJAWS-UG地方支部の志士たちを勢いづける5つの提案

2015年04月06日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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今年のJAWS DAYS 2015では全部で36のJAWS-UG支部の方々にインタビューを敢行した。取材ではクラウドのうねりが全国規模に拡大しつつあるのを肌で感じると共に、コアメンバーが足りない、参加者が少ない、勉強会ができないといった地方ならではの課題も浮き彫りになった。

全国に50以上あるJAWS-UG支部だが、全支部が順風満帆というわけではない

参加者が少ない、コアメンバーがいない。地方支部の憂鬱

1000人規模という集客力とそれを包み込む巨大な会場、レベルの高いセッション、盛り上がる聴衆、整然と動くスタッフたち。国内最大級のクラウド祭り「JAWS DAYS 2015」を終え、地元に戻った地方支部のメンバーは改めて都市圏との大きなギャップに直面する。駅を降り、ようやくほころび始めた桜の木を見上げながら、「がんばろう」という気持ちと、「大丈夫かな?」という不安がこみ上げてくる。


 やや感傷的なイントロだが、JAWS-UG支部の話を聞いて、印象的だったのは地方支部の苦悩だ。全国に50支部以上あるJAWS-UG支部だが、今回話を聞いた限り、アクティブに活動している地方支部は必ずしも多くない。コアメンバーも自分だけ、会場が見あたらない、参加者も少ないという地方の現実。去年の活動について聞いたところ、正直言いよどんだ人もいたし、立ち上げては見たものの、勉強会が継続に行なえず、リブートを余儀なくされている支部もある。

 有志のコミュニティという活動形態は、個人のモチベーションに依存する。自らの仕事に追われる中、会場探しや講師の手配、告知活動などを少ないメンバーで行なうのはきわめて困難。しかも、コミュニティ活動は儲けに直結するわけではなく、本業につながるのも時間がかかる。コアメンバーの少ない中、さまざまなプレッシャーに絶えながら、活動を続けるのは本当に大変なことだと思う。

 一方で、地方支部ながら光明を見出している支部もある。以下では、取材を通して得られた知見を元に、各支部の工夫やいくつかの提案を紹介してみたい。

支部間連携で1+1を2以上に

 まずは支部間連携であろう。JAWS-UGが他の地元コミュニティと大きく異なるのが、全国に支部を持つ巨大な組織ということだ。実際、JAWS DAYSの前日はJAWSの総会が開催され、地方支部の運営についても共有されたと聞く。志を同じくした支部同士の連携は、さまざまな成果を生み出している。

 たとえば、東北に関しては支部同士の連携が非常にうまくいっているようで、昨年「JAWS Festa 2014 東北物産展」を見る限り、学生や地元のSIerなど一定数のユーザーの取り込みに成功している印象。強力なIT振興を進める県と連携するJAWS-UG青森、小規模ながらも数多くの勉強会を開催するJAWS-UG山形、そして広域での支部連携に実績を持つJAWS-UG仙台などがアイデアを持ち寄り、これをJAWS-UGの全国のメンバーが支えることで大きなイベントが実現できている。四国や九州に関しても、東北と同じような支部間連携が進んでいきそうだ。

他のコミュニティを巻き込む

 支部間連携をさらに拡大し、他のコミュニティと連携することで、ユーザーの巻き込みを図るグループも多い。JAWS-UG以外にも、地場のITコミュニティは存在しており、こうしたコミュニティと連携した勉強会を展開するところが増えている。

 たとえば複数の技術を一度にハンズオンで学べる勉強会を開くJAWS-UG大分、地場の業界団体「HiBiS」と手を組むJAWS-UG広島、もとよりコミュニティ活動の活発な東北の各支部などは他コミュニティとのイベントや勉強会を開催している。また、JAWS-UG北九州やJAWS-UGさいたまでは、他のクラウドとの比較を勉強会のお題に据えている。さらに、JAWS-UG会津やJAWS-UG京王線のように大学を巻き込み、学生を積極的に取り込もうというグループもある。技術やベンダーの枠を取り払い、とにかく間口を広く設けていくことで、地元のユーザーをコミュニティに引きずり出そうという施策は、今後も拡がっていくだろう。

IT振興を進めたい自治体と連携する

 自治体との連携も成功の1つの道だ。「地方創生」というお題目の下、地方自治体は地元でのIT振興が急務となっている。少子高齢化という課題に加え、地方では人口の都市流出が大きなテーマとなっており、雇用創出のためにITの活用は避けて通れない。こうした状況にある県や市町村と方向性が一致すれば、JAWS-UGのようなコミュニティの強力な下支えになるだろう。単純に言ってしまえば、どの自治体も地元主導のハッカソンをやりたいのだ。

 自治体との連携に関しては、すでに青森県という強力なリーディングケースがある。エンジニアや学生、ビジネス層まで巻き込んだイベントを数多く手がける青森県は当初からコミュニティの連携を進め、地方としての異例の活気を見せている。こうした引力に引かれ、多くのコミュニティメンバーが“青森詣”をしているのはご存じの通りだ。

 こうした青森県のIT振興を進めてきた青森県庁の杉山智明氏に先日話を聞いたが、役所も企画面ではアイデアに乏しい部分が多いが、コミュニティが苦手とする会場の手配や集客、運営などはむしろ得意としているところだという。面倒なことは役所に任せ、コミュニティはイベントの企画に専念できるというわけだ。

 コミュニティのアイデアと地方自治体の運営能力がきちんと役割分担できれば、地方支部の活動はよりスムースに進むに違いない。

支部ページと名刺を作る

 支部ページの開設も提案しておきたい。今回、記事を書くのにあたって、支部ごとにリンクを張ろうと思ったのだが、正直JAWS-UGの公式サイトにあまり情報が載っておらず、リンクを張るか躊躇した。ググってみると、イベント告知サイトや参加者・主催者のブログはあるのだが、活動内容をきちんと掲載している支部はほとんどなかった。幅広いユーザー、しかも初心者を取り込みたいのであれば、ブログやFacebook、Doorkeeperのみに頼らず、JAWS-UG各支部の活動内容や自らの思いを積極的に発信すべきだと思う。

 見渡せば、支部ページの開設に必要なものは揃っているはずだ。網元機動隊のようにWordPressの導入・運用に長けたエンジニアはJAWS-UGにも数多くいる。Webデザイナー、イラストレーター、ライター、カメラマンなどは県庁所在地であればなんらかいるはずだし、クラウドソーシングという選択肢もある。場合によっては、ハンズオンのネタとして支部ページの作成にチャレンジしてもよいかもしれない。

 同じ理由でJAWS-UGの活動をよりアピールする地道な施策も必要だと思う。たとえば名刺。今回支部の取材で40名近くの方々と名刺交換したが、JAWS-UGロゴの入った支部名刺を渡されたのは大分だけだった。せっかく各支部にジョーズ君がいるのだから、活動をアピールするツールとして最大限活用すべきだ。

JAWS-UG大分の平野さんからいただいたJAWS-UG大分の名刺

 要はニーズを捉え、最適な情報を提供し、ユーザーを囲い込むという「マーケティング」だ。各支部も企業と同じマーケティング目線を活動に盛り込むことで、より地方支部をアクセラレートする効果を生み出せるはずだ。

今後もAWS SAMURAIを地方支部の方に!

 最後はAWSの活動に対して寄与した人たちに贈られる「AWS SAMURAI」を地方支部の人たちにどんどんあげて欲しいというADSJに対する要望だ。

 断っておくと、今までのAWS SAMURAIも十分に地方支部を重視している。福岡支部の小室文さん、札幌の田名辺健人さんなど多くの地方支部の方が歴代のAWS SAMURAIに名を連ねているし、今年は沖縄の西島幸一郎さんや大阪の比企宏之さんがAWS SAMURAI 2014を受賞している。

JAWS-UGの比企宏之さん、西島幸一郎さん、多田歩美さん、横田聡さん

 とはいえ、AWSがエンタープライズ分野に伸張する中で、首都圏と地方の差はますます開いてくるはずだ。会場やコアメンバーの確保が難しい地方支部の場合、回数や動員数は都市圏と比較にならない。こうした中、受賞者が東名阪に集中することをやや危惧している。

 AWS SAMURAIの基準については正直よく知らないのだが、たとえばリブートを成功させた支部、動員増のためにユニークな取り組みをやった支部、学生の取り込みに成功した支部などはぜひ受賞候補に加えてほしい。地方で戦う草莽の志士たちをアクセラレートすることで、クラウドの波は日本のITをより高いレベルに押し上げていくことになるはずだ。

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