好調な滑り出しから一転、中国をはじめとした新興市場へ
そうしたなかでも、注目を集めたのが、モバイル・コミュニケーション分野へとの取り組みである。
モバイル・コミュニケーションは、ソニーにおいては、イメージングやゲームとともに、3つのコア事業のひとつに位置づけられる。そして、売上高では、ソニーにおいて最大の事業規模を誇ることになる。
2013年度は、Xperia Zなどの好調ぶりを背景に、売上高が1兆1,918億円、営業利益は126億円となり、3年ぶりの黒字を達成した。だが、2014年度第1四半期(2014年4~6月)の営業損失は前年同期比153億円減の27億円と、赤字に転落。上期累計でも1747億円の赤字を計上した。スマートフォンの年間出荷計画を、年初の5000万台から4300万台へと一度下方修正したあとに、10月にはさらに4100万台へと下方修正するという事態にも陥っている。
2014年度通期見通しも、売上高で期初計画値に比べて1,800億円減の1兆3,500億円、営業損失は2,040億円の赤字へと、最終赤字へと下方修正している。一気に課題事業に位置づけられる状況となった。
急激な業績悪化にはいくつかの理由がある。
ひとつは、2013年度実績でモバイル・コミュニケーション事業において、約3割を占めるアジア太平洋地域および中国といった新興国における販売不振だ。
11月16日付けで、ソニーモバイルコミュニケーションズの代表取締役社長兼CEOに緊急登板した十時裕樹氏は、「東南アジアや中国、欧州を中心に、中価格帯の販売計画を大幅に見直し、費用の削減を図ったが、期初の利益計画から損益状況は大きく悪化した」と語る。
平井社長も、「中国スマホメーカーの躍進などにより競争環境が大きく変化。普及価格帯の製品の売れ行きにおいて、当社の見通しとは大きく違ってしまったのが減益の原因」とする。
2つめが、1,760億円の営業権の減損処理を行った影響だ。これは、Sony Ericssonの合弁体制から、ソニーの100%子会社とした際に発生した13億ユーロが営業権について、現在の為替レートで残高は弾きだし、これを全額減損処理したことによるものだ。
2014年度上期は、これがなければ13億円の黒字という計算も成り立つが、コア事業のひとつということを考えれば、厳しい状況にあるのは否めない。
そして、米ドル高の悪影響や、マーケティング費用および研究開発費の増加、特許費用の増加や構造改革費用の増加なども、この業績悪化に影響しているという。
今回のIR Dayにおいても、ソニーの平井社長は、「モバイル事業はソニーにとって最大の事業。この事業のリスクをコントロールし、安定的な収益基盤を構築することが喫緊の経営課題である」と位置づけた。
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