「よう、こんなまずいもんができたなと思った」
――まず、開発の経緯から教えてください。
田中 一番最初は、カロリー制限をしなければならない人でも食べられるアイスは作れませんか、ということだったんですね。
弊社のグループ企業である、グリコ乳業の担当が業務筋みたいなところで営業していたので、そこから本社のある大阪に話が来たわけです。ただ、「カロリーの低いアイス」という要望に対して、最初はみんなキョトンとしたらしいんです。
でも、食べたくてもカロリーを気にしてなかなか食べられない、という人はいるので、これは面白くなるかなあ、とやってみるかということになった。これが、開発着手のきっかけですね。2001年の春先だったと思うんですけれども。
――それまで、グリコさんの製品を含め、そういう「カロリーの低いアイス」ってなかったんですか?
田中 ないですねえ。「健康」路線を訴求したものがなかったわけではないんですが……全部売れなかった(笑)。アイスっていうのは、「おいしさ」を強く求められるものなんです。
ケーキを考えてみるとわかりやすいかもしれないですね。「健康的なケーキ」ってないでしょう? 健康感のようなニュアンスを商品に付与すると、“おいしさを損なっているのでは?”というイメージを持たれてしまう。嗜好性の高いものにとっては、「余計なお世話」なわけですね。
――カロリーをおさえつつ、おいしさを求めなくてはならない、と……。資料を見たら、「400回もの試作と試食を繰り返した」とありましたが、どのような過程だったのでしょうか?
田中 大きくいうと、アイスって、乳製品、砂糖、油で作られるものなんですよ。よい原料でおいしいアイスを作ると、この量では250〜260kcalになってしまうんです。
じゃあ、80kcalにしてくださいっていわれたときに、カロリーをどこで落としていくかって言われると、まず油なんです。炭水化物とタンパク質は、1グラムあたり4kcalなんですが、脂質は9kcal。とにかく脂質を削っていく。
まずは脂質を抜くところから始めて、乳製品の脂肪、タンパク質も抑えて……さらに砂糖も使わないということにした。その方針で開発を始めて、試作品ができかけたころに、僕が部署に来たんです。
――最初の試作品のお味は……。
田中 ……もう、とてもおいしくなかった(笑)。「よう、こんなまずいもんができたな」ってぐらいのものでした。そうはいってもアイスだから、そこからおいしくしなければダメなんですね。
アイスにかぎらず、料理は“ボディ”といえばいいのか、ある程度の骨組みがないと作れない。それがスカスカなわけですから、何かを足していかなければならない。「豆腐使ってみよか」「食物繊維を入れてみよか」とか、いろいろ工夫したわけです。
――豆腐というアイディアはどこから出たんですか?
田中 豆腐は2000年ぐらいに、健康志向のアイスを作っていて、カロリーを下げようとしたときに原料としてすぐに挙げられたらしいです。使っているのは豆乳ににがりを入れても凝固しない「液状豆腐」。アイスを作るのに適性があるんです。ちなみに食物繊維は、ボディを作りやすいんで入れています。
そのボディを作りつつ、味をよい物にしつつ……という工程を、だいぶ繰り返しました。どうしたらコクがでるんだろうか、どうしたら甘さが自然なものになるか。特に砂糖特有の味質に近づけるのが大事でしたね。やっぱり甘味料には特有の味質がありますから、そこをどうするか。いろいろ、試行錯誤しました。
(次ページでは、「やめとけ」と言われたあずきモナカの開発秘話)