伝説のプレッシャーより音が似ていないことのほうが悔しかった
―― オリジナルの設計者としてNuvibeの評価はいかがですか?
三枝 厳密に言ったら違う素子を使っているので、細かいところまで言えば違う面もあると思います。でもね、彼はずいぶんいいところまで追い込んだなと思っていますよ。これはほとんど彼が仕上げたものですから。
―― 三枝さんは、なぜご自身でNuvibeの設計を全部されなかったんですか?
三枝 若い人のほうが馬力ありますから。なにしろCdSに代わる素子を作りたいと言ったくらいですからね。
―― 任された方のプレッシャーもあったと思うんです。なにしろ伝説のエフェクターなわけで。
森川 プレッシャーはですね、まあ早く作れと言われるくらいで。
―― なんか、あんまりプレッシャーなかったみたいですね……。
森川 Uni-Vibeをあまり知らなかったから、できたのかもしれないですね。最初に作ったものは音も似ていなかったですから。伝説のエフェクターを再現しているからというより、自分は負けず嫌いなので、そういう所で悔しかったです。
―― 音を近づけるにあたって、どこに気を使いましたか?
森川 できるだけ波形を正確に測るというところです。計測そのものはオシロスコープでできるんですけど、それを数値やグラフに置き換えなければいけない。そのデータを分析するのに、随分苦労しました。
―― CdSを置き換える手法はどうしたんですか?
森川 トランジスタの性質をうまく使っているんですね。動作点を変えて、あたかも抵抗器のように使うんですけど、そのままではトランジスタは歪んでしまうので、大きな信号が入っても歪まないように工夫しています。そして、CdSは抵抗値の範囲がすごく広いんですけど、それもうまく再現するように、回路を改良したというところですね。
―― それにしてもなぜこんなにトランジスタが必要なんですか?
森川 フェーザーというのは同じ回路が4つ入っているんです。その1段あたりのトランジスタが1、2、3……9個です。だから4段で36個。それがCdSの代わりなんです。この辺がCdS1個分ですね。
―― この一角のパターンが4つあるわけですね。
森川 トランジスタは基本的に電圧を増やすために使うものであって、抵抗器として使うものではない。そうすると補正や制御にトランジスタを使わなければならないんです。それ以外にプリアンプですとか、LFOの波形を作るところに使っています。それで79個ですね。
(次ページは、「個体差の大きいUni-Vibeと、そのイメージに近づけるNuvibeの仕組み」)
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