世界保健機構(WHO)の発表(2013年)によると、全世界で2億8500万人が視覚障害を抱え、3900万人が失明しているとされている。
さて、我々の生活を豊かにしてくれるインターネットは、視覚情報に大きく依存している。パソコンもスマートフォンも、ソフトウェアもハードウェアも、基本的に「目が見える」前提で作られているものばかりだ。目が見えない人にインターネットは楽しめない──と、先入観で諦めてしまっているケースも多いのではないだろうか。
現在の視覚に偏ったインターネットに一石を投じるイスラエルの会社がある。Tactile World社だ。
同社は、視覚障害者向けの専用マウスを開発している。画面の情報を独自アルゴリズムを用いて点字で表示させられる。マウスのポインターが「C」という文字を示せば、マウスの専用の展示部分に「C」と点字で表示するわけだ。マウスオーバー辞書を思い浮かべてもらえればさして驚くことではない。そこから、もう1アイデア加えたところが、イスラエルっぽい点だろうか。現在は、最大2文字をマウスの展示部に表示できる。
同社のウェブサイトでデモで実際の動作を確認可能。もし身の回りに視覚障害者の方がおり、インターネットを諦めてしまっているとしたら勧めてみてほしい。
Tactile World社の技術は文字情報だけでなく、図表やグラフィックも識別して指先(触角)で取得可能な点字へと情報を変換できるという。2014年3月には同社の技術が米国で特許を取得している。
現在はマウスに実装されているだけだが、それ以外のデバイスへも展開できるだろう。IoT時代の本格到来を迎え、視覚障害者の強い味方になってくれそうだ。
筆者紹介──加藤スティーブ
イスラエルの尖った技術に着目して、2006年にイスラエル初訪問。2009年にISRATECHを設立し、毎月40〜60社のスタートアップが生まれるイスラエル企業の情報を日本へ発信し続ける。2012年にはイスラエル国内にも拠点を設立。イスラエルのイノベーションを日本へ取り込むための活動に着手する。ダイヤモンドオンラインにて「サムスンは既に10年前に進出! 発明大国イスラエルの頭脳を生かせ」を連載。
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